EPUB

2015.07.31

 EPUBとは

EPUBとは、電子書籍のファイルフォーマット規格の1つである。

EPUBに関しては、前回のebookpedia記事公開(2015年7月)からさまざまなアップデートがあったが、最も大きなアップデートは、策定団体がIDPFからW3Cへ統合されたことだ(2017年1月31日)。

前身のIDPF(International Digital Publishing Forum:国際電子出版フォーラム)は電子出版・電子書籍に関わる国際的な標準化団体としてEPUBの仕様策定、普及促進に注力していた。

現在は、電子出版・電子書籍の枠を超え、Web/インターネットの標準化団体W3Cの管理下となり、開発や議論、その先として仕様策定が行われている。

ここ日本では、2011年のEPUB3リリース以降、浸透し始め、2021年8月のAmazonの発表(リフロー型電子書籍でのmobiの廃止)により、電子書籍・雑誌フォーマットとしてのEPUBの地位は強固なものとなった。

 

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EPUBの歴史

続いて、EPUBの歴史について紹介する。

バージョンの変遷

EPUBの一番最初のリリースは2007年9月である。この当時、基礎技術であるHTMLのバージョンは4.0、CSSのバージョンは2.1が最新バージョンだった。その後、2010年6月に、現在も使用されているEPUB2.01がドラフトとして公開された。

前回のebookpedia記事公開後、EPUB 3.2 Final Community Group Specificationリリース(2019年5月8日)、次バージョン3.3 W3C Candidate Recommendation(勧告候補)のDraftリリース(2022年3月27日)が公開されている。

日本におけるEPUBの存在

日本におけるEPUBは、先ほども述べたように3.0のリリースのタイミングから普及が始まった。EPUB3.0(別項参照)の特徴に、縦書やルビといった日本語組版の特徴が取り込まれたことが大きな理由の1つで、これにより「日本語の書籍をEPUBで電子化する」という動きが活性化した。それまで日本では、Voyagerが開発した.bookやシャープが開発したXMDFといった電子書籍フォーマットが主流だったが、EPUB3.0の登場、また、2012年に相次いで日本にオープンした楽天Kobo、Google Playブックス、Amazon Kindleストアといった電子書店が、EPUB3.0に準拠(あるいはベースに)したリーダーを採用したことで、これまでの.book/XMDFからEPUBへの流れが加速した。

それでも、従来の制作フローを手放すことが難しい状況から、.bookやXMDFをEPUBに変換するツールが開発されたり、日本の組版事情をふまえた「電書協フォーマット」と呼ばれる、日本電子書籍出版社協会が仕様策定したEPUB3.0も登場している。

 

固定型とリフロー型

EPUBはその特徴から大きく2つの種類が存在する。1つは「固定型EPUB」、もう1つは「リフロー型EPUB」である。なお、固定型EPUBは「フィックス型EPUB」とも呼ばれる。

固定型EPUB

固定型EPUBとは、その名の通りレイアウトが「固定」されているEPUBデータである。とくに漫画(コミック)や雑誌など、レイアウトに特徴があったり工夫がされているコンテンツで採用される形式で、紙のレイアウトとまったく同じ状態でEPUB化できる。最近の書籍や雑誌はInDesignと呼ばれるDTPツールで制作されることが多く、その場合であればPDFを書き出すことで、手軽に固定型EPUBを制作できるといった特徴がある。

ただし、固定型EPUBにするとそのままでは文字検索やリンク、文字ハイライトといった、電子データが持つべき特徴が失われるため 註、「紙の本をそのままのレイアウトで電子化したい」といったケースや、「伝えたい情報に視覚的要素を盛り込みたい」といったケース以外では、制作コストが低いからといって、あまり採用しないほうが良いと筆者は考える。

註:制作方法によっては、文字検索やリンクができる固定型EPUBも作ることが可能。

リフロー型EPUB

リフロー型EPUBとは、「リフロー(再レイアウト)が行える」EPUBデータである。この形式で制作した電子書籍や電子雑誌は、使用するリーダーの設定に合わせて、文字の大きさや行間を変更することが可能となる。また、作り方によっては縦組み・横組みを変えることもできる。

リフロー型EPUBは電子書籍・雑誌の特徴を最大限に活かせる形式と筆者は考えるが、一方で、後述のようにリーダーごとに見え方が異なる場合や、そもそも見ることができないといったリスクがある。さらに、とくに日本の書籍や雑誌のように紙での組版が多様化・複雑化したコンテンツの場合、また構造化があまり意識されずにDTPツールが使われているような場合、リフロー型EPUBを制作するコストが大きく跳ね上がるケースがある。

こうした問題、とくにコストについては、出版社にとっては今も大きな課題となっているが、前回の記事を公開した2015年と今(2022年)とでは、電子出版市場が成長しており、また、リフロー型EPUBへの認知や評価は高まっている。 こうした問題、とくにコストについては、将来的にはあらかじめ紙と電子の両方を意識した編集・デザインフローを確立することで解決できるだろう。

加えて、日本国内では読書バリアフリー法、また、すでに欧州で施行されている欧州アクセスビリティ法では電子書籍が対象となったことなどから、一層、リフロー型EPUBの準備は求められてくる、と、筆者は考える。

 

"標準規格"「EPUB」という言葉にダマされるな?!~EPUBのメリット・デメリット

続いて、筆者個人が感じる、2022年時点における「標準規格」であるEPUBのメリット・デメリットについてまとめる。

EPUBのメリット

まず、メリットの部分。これは何といっても標準規格であること。これにより、誰もが自由に、そして、大多数の読者に向けて電子書籍を制作できるようになった。

3.0以降、日本国内の有識者・関係者の多大な努力、さまざまな働きかけにより日本の事情がかなり取り入れられ、日本国内の電子書籍フォーマットとしてのEPUBの地位は揺るがないと言える。 まず、メリットの部分。これは何といっても標準規格であること。これにより、誰もが自由に、そして、大多数の読者に向けて電子書籍を制作できるようになった。最新の3.0では日本の事情がかなり取り入れられており、これから日本の電子書籍においてもますます普及していくことが見込まれている。

また、前回のebookpediaで、基礎技術にWebの技術である(X)HTMLやCSSを採用していることで、これまでは紙の組版や紙の編集に関わる人が中心となっていた出版・書籍の世界に、Webに関わる人たちが参加しやすくなった点もメリットと考えていたが、7年経過し、そこまでの人的流動(新規参入)はまだまだ進んでいない。 また、基礎技術にWebの技術である(X)HTMLやCSSを採用していることで、これまでは紙の組版や紙の編集に関わる人が中心となっていた出版・書籍の世界に、Webに関わる人たちが参加しやすくなった点もメリットだと考えられる。いわゆるグラフィックデザインだけではなく、Webデザインの特性も利用した制作が行えるようになるからだ。その結果、より多くの編集者・デザイナー、さらにWebエンジニアやWebマーケターなどが参入しやすくなり、業界全体の活性化が見込めると筆者は考えている。

それでも、より多くの編集者・デザイナー、さらにWebエンジニアやWebマーケターなどが参入しやすい状況であることは、業界全体の活性化に向けて大きなメリットだと筆者は考えている。

EPUBのデメリット(日本の場合)

国際規格ではあるものの、もともとは英語をはじめとしたシングルバイトを対象とした技術であるため、日本語や日本語組版を、EPUBを使って表現する際に障壁が生まれやすくなる(EPUB3.0以降、日本語などマルチバイトへの対応が進んではいる)。また、日本に限らず、世界各国で「EPUB準拠」とうたったEPUBリーダーが数多く登場する一方で、EPUBそのものがW3Cが策定している標準規格であるにもかかわらず、タグをきちんと読み込めない・あるいはエラーが起きるといったリーダーがなくなっていないのも事実である。

このデメリットは前回の記事でも書いていたが、それから7年経った今も解消されていない。実例として、筆者が体験したことを紹介する。

技術評論社が制作パートナーと協力しW3Cの仕様準拠のコンテンツを制作したところ、特定の電子書店(電子取次)のみ、何らかの理由で配信不可となった(理由はチェックツールのエラーとして電子取次から連絡を受けた)。

これがすべての書店で起きたエラーであればコンテンツの不備と考えられるのだが、他の書店ではエラーは出ず、配信もされている。結果として、その電子書店(電子取次)側で対応はされず、今もなおその書店のみ配信できていないコンテンツが存在している。

非常に残念な状況ではあるが、今後、またこの記事をアップデートする機会が来るのであれば、そのときは、このような状況がなくなっていることに期待したい。

 

電子書籍・雑誌制作に関わる方へ

最後に、前回も述べさせていただいたことを改めてお伝えする。

すでに多くの調査機関やメディアで報道されているように、日本国内の電子出版市場は年々成長し、産業として成立している。

一方で、日本国内の電子出版事業の多くは、紙の出版と表裏一体、誤解を恐れずに言えば紙の出版(おもに編集・制作観点)があってこそ成立する部分がある。

この点は、この10年大きく変わらず、今後も続いていくと考えられる。

だからこそ、EPUBによる電子書籍・雑誌制作を行う際には、まず読み手の環境を想像し、どんな環境、どんなデバイスでも同質の内容を届けられるコンテンツを準備することが重要となる。

電子版については、紙のように(表現スペースに)制約のあるコンテンツ以上に、「最も伝えたい情報は何か」「そもそもどういった情報構造を作るべきか」を考えなければならない。さらに、自分が良いと思った見た目が必ずしも再現できるわけではないため、必要のない主観(デザインや表現)やこだわりは取り払った制作する意識はつねに持っておくことをおすすめする。

また、EPUBでデータを制作するときには、情報構造をきちんとつくることに加えて、W3Cで策定されている仕様に則ることを再優先に考えてもらいたい。仮に、前述のように仕様通りに制作したデータが、特定のリーダーでは閲覧できなかった場合、それは、電子出版の価値を大きく損なうことになる。

そのためにも、創り手がリーダーに合わせるだけではなく、リーダーの開発元にその状況を伝え、リーダーの改善を促すことが、EPUBのさらなる普及につながると考えている。

 

[馮 富久 株式会社技術評論社株式会社GREEP  20151019]
[内容改訂 20220531]