04 新たな志をもってメディアの大海原へ (前田完治)

 「電子出版」という新しい文化を日本で普及促進する目的をもって活動を始めた当会ですが、この20 年の間に電子メディアを巡る環境はめざましい躍進を遂げ、CD-ROMやDVD もすっかり身近なものになりました。インターネットやモバイル環境の発達に伴って今や携帯電話で書籍や漫画をみんなが読むような時代にもなりました。
 明治34 年(1901 年)1 月2、3 日の両日にわたって報知新聞に掲載された「20 世紀の予言」という記事があります。2004 年度版の科学技術白書のコラムで、この記事の〝予言〟がどれだけ当たっていたかが検証されていまして、実に23 項目の7 割方ほぼ実現しているというのです。JEPA で知らぬ人のいないほどに有名な話ですが20 年という節目にあたって想い出しましたので、あらためていくつか例を挙げてみたいと思います。

【無線電信及電話】:「マルコニー氏發明の無線電信は一層進歩して只だに電信のみならず無線電話は世界諸國に聯絡して東京に在るものが倫敦紐育(ロンドン・ニューヨーク)にある友人と自由に對話することを得べし」……本当にこの通りになって、みんなが携帯電話を持つようになりました。
【遠距離の寫眞】:「數十年の後歐洲の天に戰雲暗澹たることあらん時東京の新聞記者は編輯局にゐながら電氣力によりて其状況を早取寫眞となすことを得べく而して其寫眞は天然色を現象すべし……カラー写真の電送のことですがメール送信によって
当たり前のことになりました。
【七日間世界一周】:……今や一日あれば一周が可能ですね。
【電氣力を以て野菜を成長】:「電氣力を以て野菜を成長することを得べく而して豌豆(そらまめ)は橙大となり菊牡丹薔薇は緑黒等の花を開くもあるべく北寒帶のグリーンランドに熱帶の植物生長するに至らん」……ビニールハウスにとどまらず最新の水耕栽培は一部工場の中で行われるようですし、空豆の巨大化などは遺伝子組み換えを示唆しているようです。
【人聲十里に達す】:「伝声器の改良ありて、十里の遠きを隔てたる男女互に婉々たる情話を為す」……若い人達の携帯電話の使い方が、まさにこの通りになっていて面白いですね。
【買物便法】:「寫眞電話によりて遠距離にある品物を鑑定し且つ賣買の契約を整へ其品物は地中鐵管の裝置によりて瞬時に落手することを得ん」……インターネットでの通販やオークションのことでしょうか。
【鐵道の速力】:「東京神戸間は二時間半を要しまた今日四日半を要する紐育桑港(ニューヨーク・サンフランシスコ)間は一夜にて通ずべし」……驚くなかれ、東海道新幹線でその通りになりました。
 さらに【鐵道の聯絡】、【電氣の世界】、【醫術の進歩】、【自動車の世界】などと続くのですが、ぜひなにかの機会にお調べになってみて下さい逆に実現していない項目は、たとえば【サハラ砂漠の沃野化】、【蚊及蚤の滅亡】、【人と獸との會話自在】……などです。百年後には実現しているでしょうか。こればかりは、次の世代、またその次の世代の方々に確かめてもらうしかありません。
 現代でこそ当たり前のように感じられることばかりなのですが、これらの事象が予言されたのが百年も前なのですから驚きです。明治の人には、たいした先見の明があったのですね。20 年前、私たちはどこまで今日の発展をこのように瑞々しく予測し得たでしょうか。
 今後もメディアを巡る試行錯誤は続くでしょうし、より自由で面白く画期的な表現や媒体が現われてくることでしょう。この『JEPA のあゆみ』刊行を機に、私たちもまた出版の原点を忘れることなく、新たな志をもってメディアの大海原に漕ぎ出したいものです。

◎前田完治(まえだかんじ)JEPA 創設時の会長。三修社・故人