26 携帯電話向け総合電子書籍ビューア 「BookSurfing」の歩み (川上陽介)

■アニメ、マンガの制作環境から
 当社は、1991年の創業時よりデジタルとグラフィックスが融合する分野に特化し、事業を展開しています。創業当初からアニメ制作ツール「RETAS!PRO」シリーズの開発を進め、1993年に発売を開始。アニメ制作現場のデジタル化に取り組んできました。続いて、2001年にはマンガ制作ソフト「ComicStudio」シリーズをリリースし、デジタルでのマンガ制作を可能にしました。現在、「RETAS!PRO」シリーズは、日本国内でオンエアされるアニメの約9割に使用されており、「アニメ制作現場のデジタル化」に多少なりとも貢献できたのではないかと思っています。また「ComicStudio」は発売以来シリーズ累計で約6万5千本を出荷するまでに成長し、プロマンガ家からホビーユースまで、幅広い層の支持を得ています。

携帯電話でのコミック閲覧イメージ

 アニメ、マンガの制作環境のデジタル化を進める一方で、クリエイターがより多くの人に自分の作品を届けられるよう、デジタルで制作された作品の新たな流通先を提案したいという思いがありました。この流通先として最初に目を付けたのが、2002年当時に流行していたPDAです。当初はPDA向けに電子コミックビューアの開発を進めていましたが、このビューアは結果としてビジネスに結びつかず、世に出ることなく終わりました。その後、このPDAにおけるノウハウをもとに、携帯電話向けのコミックビューアの開発に着手しました。
 当時は「携帯の小さな画面でマンガが読めるはずがない」という意見が大半を占めていました。当社でも携帯コミックの普及には、高精細な画面を備えた携帯電話、パケット料金を気にせずにコンテンツをダウンロードできるパケット定額制、そして読みたいマンガが揃っているという潤沢なコンテンツの供給が必須であると考えていました。

■パケット定額制とともに
 2003年11月に、au(KDDI)の第3世代携帯電話「CDMA 1X Win」とパケット定額制「EZ フラット」のサービスが始まりました。これにあわせて、当社は、au(KDDI)向けに電子コミックビューアおよび配信ソリューションの提供を開始。翌年の2004年にはNTTドコモ、ボーダフォン(当時、現ソフトバンク)でも、パケット定額制がスタートし、当社のビューアもこれらのキャリアに順次対応してきました。コンテンツ供給においては、出版社、コンテンツプロバイダ、制作会社各社様のご協力はもちろんのこと、コンテンツの制作を効率的に行うことができるオーサリングツール「ComicStudioEnterprise」の開発や、自社で制作ラインを組みコンテンツ制作のサポートを行うといった取り組みにより、次第に多くのコミック作品が供給される環境が整っていきました。こうして、普及に必要な条件が揃ったことで、携帯コミックは徐々に人気を得て、2005年にブームの兆しが訪れたのです。

オーサリングツール「ComicStudioEnterprise」

 2005年1月末にはわずか12サイトだった当社ビューアの利用サイトは、2006年1月末には87サイト、2007年1月末には235サイトと急増し、マスコミの携帯コミックへの注目度も高まっていきました。2006年には、当社ビューアはコミック、電子書籍をカバーする総合電子書籍ビューア「BookSurfing」として、au(KDDI)、NTTドコモ、ソフトバンク国内3キャリアへの対応を果たしました。
 2008年10月現在、利用サイト数は600、流通しているコンテンツデータは210万ファイルを超え、携帯でマンガを読むというスタイルは若い世代を中心に新たな習慣として定着しつつあります。この間に対応キャリアも、ウィルコムおよびイー・モバイルを加えるにいたっています。
 このように携帯コミックが人気を博し、新たなマーケットとして定着しつつあるのは、関係業界各社様の多大なご支援によるものであることは言うまでもありません。
 今後は携帯ゲーム機をはじめとした他のデバイスへの対応や海外展開に積極的に取り組み、電子書籍、電子コミックにより関係各社の皆様がより多くのビジネスチャンスを得られる環境を提供するべく、ソリューションの拡充を進めてまいります。

◎川上陽介(かわかみようすけ)セルシスからJEPAに参加