キーワード設定の現場から(2)

「アキバ」でお買い物

 日本語を読みで引かせる場合にいつも問題になるのは正しい読みの設定だ。特に地名は難物だ。
 私事で恐縮だが、つい先日引越しをして通勤の経路が都営新宿線と浅草線になった。通勤がすべて地下鉄になり外の景色が見えないので駅名が気になってしようがない。今回は新宿線と浅草線の駅名の読み方にこだわってみた。
 毎朝、「馬喰横山」駅から「東日本橋」駅へと地下鉄を乗り継ぐ。私の乗換駅名の読みはたいへん面白い。
 馬喰横山という駅名は馬喰町と横山町の二つの地名の合成だろう。読みは「ばくろよこやま」。「馬喰」とは馬のよしあしを鑑定したり売買する人のことだが、読みは「ばくろう」である。でも駅名や地名では「う」を読まずに「ばくろ」と縮めている。「馬喰町」は古い地名で「ばくろちょう」は定着しているが、「馬喰横山」と合成して新語化するとどうも居心地が悪い。
 東日本橋の「日本」という言葉、読みが「にほん」なのかそれとも「にっぽん」なのか定かでない。国の名称が二通り読み方があるという大問題はまた別の機会に取り上げたいが、この駅名では「にほん」と読む。地名も「にほん〜」である。ところが大阪の日本橋は「にっぽんばし」と読むと広辞苑には書いてある。何とも複雑だ。
 駅名はまだまだある。「町」という字も難しい。私の通勤経路では宝町(たからちょう)、人形町(にんぎょうちょう)、岩本町(いわもとちょう)、浜町(はまちょう)とすべて「ちょう」だが、少し乗り過ごすと「小川町(おがわまち)」という駅名がある。「ちょう」と読むか「まち」と読むかこれも難しい。
 さて上に出てきた岩本町は世界に冠たる電気街「秋葉原」近くの駅だ。この秋葉原(あきはばら)、有名なだけに間違える人は少ないが難読地名のひとつだろう。
 素直に読むと「あきばはら」。湯島で明治に生まれた私の父は「あきばっぱら」と言っていた。誤読ではない。秋葉原の地名は火除けの神様、秋葉(あきば)神社があったところから発した。古くは「あきばがはら」、地元では「あきばっぱら」といったという。現在の読みのほうが誤読の定着。秋葉原を「アキバ」と通称で呼ぶのは古来の名称に正しくのっとっている。
 わが家に近くなると西大島、大島、東大島と大島が続く、この東京都江東区大島を正しく「おおじま」と読める人は少ないだろう。東京の大島といった場合は一般には伊豆大島のことを指すだろう。これは「おおしま」と読む。ところが江東区の町名になると「おおじま」が正しい。
 逆に浅草線をずっと乗り越していくと「三田」に出る。東京で三田といえば慶応大学のある「みた」のことだが、兵庫で「三田」というと神戸牛を産する三田市「さんだし」になる。神戸で「三田市」を「みたし」と読んで笑われた経験がある。
 こうやって地名を楽しんでいるうちは良いが、いざ仕事で地名に読みを振ろうとすると大騒ぎである。行政地名や駅名はまだ調べようがある。地名はそれ以下のものが膨大にある。古墳の名前などは小字よりも下の通称がついているようで、地名事典にものっていないケースがほとんどだ。地名の読みをどうやって調べたら良いのか、検索キーに読みを振るたびに悩んでしまう。
 三田(みた)と三田(さんだ)のような自分の思い込みで間違い読みをふってしまっていることも多いだろう。お許しのほどを!

『情報管理』Vol.40 No.4 July 1997 より転載


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