電子出版のデスクトップ17

濃淡――日本語を読みやすく(6)


 前回、枡形組版という様式が日本語組版のデフォルト値だという話をした。ところがこれがWindowsの登場以来おかしくなってきた。画面上の文字がなぜか揃わなくなってしまったのだ。
 問題の元凶はMS P明朝、MS Pゴシックというプロポーショナル・フォントである。P明朝やPゴチックは本来等幅でなくてはいけないカナや括弧類などの横幅が狭く設計されている。その結果、縦横が揃わないゴチャゴチャした画面表示が跋扈することとなった。
 日本語のプロポーショナル・フォントがいけないと言っているわけではない。印刷の世界でも、表など狭い空間の中、逆に題字など通常より大きな文字を使うときには字間を詰めることがある。しかし本文の組版では等間隔に字を組むことが原則だ。
 文字を等間隔に並べることで、画数の多い漢字は濃度が濃くなり、カナの部分は濃度が薄くなる。この濃淡が大切なのだ。日本語は単語間の区切りがない言語だが、漢字と他の文字との濃度の差が単語区切りに似た役割を果たしている。漢字のみ拾い読みしても意味が通じるのが日本語の文章システムであり、この語句の拾い読みを助けているのが枡形組版なのである。
 単語の切れ目どころではない。このフォント、句読点や括弧類などの持つ半角の空白部分を省いてしまった。これでは文の切れ目すら見えなくなってしまうではないか。こんなフォントで組まれた画面が読みやすいはずはないのである。
 もちろんWindowsには固定幅のMS明朝やMSゴシックも標準搭載されている。しかしOSがデフォルトフォントをP明朝、Pゴシックとしているから、何もしないと自動的にプロポーショナル・フォントで組まれてしまう。
 これを避けるためにはHTMLなら固定ピッチを指定する"<TT>"タグですべての日本語文字列を括ることが必要となる。欧文綴りなどが混じった場合は大変煩雑になる。しかし読みやすくするためには仕方がない。
 そもそも文字ピッチがひとつしかない日本語組版はコンピュータ向きのはずである。欧文のようにさまざまな幅の文字を微妙に配置し、最終的に行末が揃うように空白の調整を行うという高度な技術は不要なのだ。こういった高度な技術を不用意にも日本語に適用し、日本語を読みづらくさせている。何とも馬鹿げた所業である。
 今やコンピュータなしでは日本人は文章を書けない。したがってコンピュータの持つ特性が日本語の文章に大きな影響を与える。コンピュータがデフォルト値で持っているものは日本語の規範と思われても仕方がないのである。コンピュータメーカー、ソフトメーカー、OSメーカーは日本語に対して大きな影響力と責任を持っていることを充分自覚していただきたいと思う。
 6回に渡って「日本語を読みやすくする」というテーマで書いてきた。そもそも欧米で発展してきたコンピュータという機械に日本語を載せるのだからいろいろな困難はある。
 しかし「かな漢字変換」をはじめとして、この困難な課題に技術は回答を出してきた。今回書いた課題も昔語りになる日がすぐにやってくると思う。最初に書いた画面の解像度も携帯端末を中心にどんどん向上しつつある。
 ただ、技術の進展をまたずとも日本語を読みやすくすることはできる。WebでJavaを動かす前に文章を読みやすくするという基本を忘れてはいけない。これはユーザー側の責任である。


『情報管理』Vol.43 No.5 Aug. 2000 より転載

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