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図書館は無料か?


 図書館法という法律に公立図書館は入館料や資料の利用料を徴収してはいけないという条文がある。これが「図書館無料の原則」といわれるものだ。最近、電子図書館をめぐってこの「無料原則」が論議になっている。この原則を撤廃しないと電子図書館が成立しないというのである。
 ネットワーク型の電子図書館は人類の夢である。古今東西あらゆる書籍に、世界中どこからでも、何時でも、誰でも、平等にアクセスできる。これは図書館の理想的姿だ。この電子図書館実現には膨大な量の書籍の電子化が必要だが、たとえそれが実現しても実はもっと大きな問題が発生する。
 著作権も消滅しその本も売られていない場合は、ネットワーク図書館で無料で本を閲覧させても問題はない。しかし著作権が存在し現実に売られている本を電子図書館が無料で閲覧させたら、その本を買う人は誰もいなくなる。つまり出版そのものが滅んでしまう。
 利用者が閲覧した代金を、図書館が著者や出版社に支払うという制度も考えられる。これなら著者や出版社は収入を得られる。しかしその場合は図書館が全国民の図書購入費を全額負担することになるかも知れない。これでは到底予算が許さない。したがって「図書館無料の原則」は見直されなくてはならないというわけだ。
 なるほど理想的なものはそう簡単には実現しない。有料になっても現在のように本の入手にたいへんな手間がかかるより良い。そういったコストを考えればかえって安上がりだという説もある。だからといって無条件に「無料の原則」を外して良いものだろうか?
 公共図書館が読書の習慣を育成するのに果たしている大きな役割を忘れるわけにはいかない。無料の図書館は次世代の読者の揺りかごだ。それ以上に子供や高齢者など経済的弱者が無料で本を読めることの重要性がある。
 鉄鋼王カーネギーは図書館建造のための大きな寄付を行い、それが公共図書館普及にはずみを付けたといわれる。13歳からボイラー焚きとして働き始めた彼にとって図書館とは自分の母校であったのだ。知識の地平で貧富の差をなくすこと、それは民主主義を支える大きな基礎である。
 電子図書館と現在の無料原則との融合が必要だ。その答えはいろいろ考えられる。たとえば図書館の館内からアクセスする場合は現在と同様に無料で、館外からのアクセスは有料でといった空間的区分案や、収入に応じた図書閲覧補助といった社会制度的な折衷案が出現するかも知れない。
 どんな制度を作るにせよ公共図書館には情報弱者に対する支援という視点が必要だ。電子図書館という将来の話ではない、実は現時点でもその視点が必要になってきている。
 現在の日本の公共図書館で館内からインターネットへアクセスできる館がどのくらいあるのだろうか。インターネットは現在欠くことのできない大きな情報源である。それが図書館からは利用できない。パソコンもネットワークへの接続料もまだまだ高額だ(少なくとも本よりは高い)。パソコンの操作に馴れない人も当然多い。そこに情報弱者が生まれる。読書指導は出来てもパソコンの操作指導は司書の役目ではないのであろうか。デジタル・デバイドの解消に直接的に関与できる位置に今、公共図書館はいるのである。
 「ノートパソコンは(キーボードの音がうるさいので)ご遠慮ください」という貼り紙だけが現在の図書館のIT対応の姿であるとしたら、ひとりの図書館ファンとしてあまりに哀しいのだ。
『情報管理』Vol.43 No.8 Nov. 2000 より転載

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