電子出版のデスクトップ24

右往左往


 最近は電子出版の世界にもマンガが登場した。これを読みながらおもしろいことに気がついた。日本のマンガは右開き、つまりコマやページが右から左へと進む、西洋のマンガは左開き、コマもページも左から右へと進む。マンガの吹き出しが縦書きか横書きかで本の方向が異なるのである。
 日本のマンガも国際的になり横文字文明の中でも売られている。そんな場合は吹き出しの中身は横書きに翻訳される。吹き出し中の文字が左から右に流れているのにページやコマは右から左へ進む、これでは読みづらかろう。でもマンガのコマ割を変更するわけにもいかない。そこで窮余の一策、画像を反転させて無理やり左から右に方向を変えることも行われているようだ。(たとえばcomics ONE
 縦書きの場合は行の送り方向が本を読み進む方向になり、横書きの場合は行の中で文字を書き進む方向が本を読み進む方向になる。これは常識だが、アラビア語はどうだろうか?アラビア語は横書きだが右から左に書く。さて本はどちらの方向にめくられるか?答えは日本の縦書きと同じ左から右である。文化とは多様なものだ。
 ところで電子出版ではページを糸や糊で綴じることはない。それでも右開きと左開きの問題はやはり発生してしまう。最近流行りの縦書きビュアで一番戸惑うのはページめくりである。縦書きでは左向きで次ページ、右向きで前ページ。普段の横書き習慣とは違う動作を強いられる。
 テープレコーダーなどで使われている三角形のマークがある。右向きの三角形は「進む」、左向きの三角形は「戻る」というサインだ。これは本来テープの進む向きを表していたが、テープが円盤になったCDでも引き継がれ、最近ではWebのページにもよく同じ三角ボタンがついている。
 交通信号の赤青ほどではないが右向きの三角形は「進む」、左向きの三角形は「戻る」と常識化している。縦書きではこれも逆になってしまうから混乱が起こる。常識にしたがって縦書きにしても右向き三角を「進む」にするとたいへん気持ちが悪いビュアになる。といって左を「進む」に割り当てると意味が伝わりづらくなる。
 ページめくりだけではない、スクロールの場合も複雑だ。横書きの行送り方向は下であり、縦書きの行送り方向は左である。だから縦書きのスクロール方向は左向きとなる。左向きの矢印キーで画面をスクロールさせるのもどうもしっくりとこない。
 どうやら縦書き横書き混在の世界では左右方向を「進む・戻る」に割り当てるのは都合が悪そうだ。そこで考えた、過去いろいろな文明でいろいろな書き方が発明されてきたが、さすがに下から上という書記法は聞いたことがない。縦書きでも横書きでも間違わないのは上下である。ページを送るのは下向き、ページを戻るのは上向きというのはどんなものだろうか。
 これはアイデアだ!と一瞬思ったが、残念ながらスクロールでは上下も使えない。横書きのスクロールは下、縦書きのスクロールは左だ。
 窮してすべて縦書きに統一してしまえとなった。これならスクロールもページめくりも左が進むになる。でも縦書きは世界的に少数派、日本人だって横書き文書を廃止したら困ってしまう。どうやらうまい解決方法はなさそうだ。
 ページをめくる時にいちいち方向を考えていたら文章など読めるものではない。慣れの問題で解決される種類の問題だろうが、当面はやはり次はどっちだと右往左往することになるだろう。

アラビア語の本については「日本アラブ通信」(http://www.japan-arab.org)を主催されている阿部政雄氏に教えてもらった。誌上を借りて感謝したい。
『情報管理』Vol.44 No.1 Apr. 2001 より転載

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