電子出版のデスクトップ30

発信者教育


 電子出版と著作権の論議は切っても切れない。デジタル情報は複製が簡単で劣化しないため無限に複製可能であり、ネットワークを使えば世界中に流通が可能である。したがって著作権にとっては大きな脅威であり、コピープロテクトを強化し、著作権法も改正しなければならない。
 大雑把に言えば以上のようなことだろう。今までの情報発信者から見た場合の問題点である。しかしデジタルネットワーク社会にはもうひとつの大きな変化がある。
 それは情報の発信が特定者のものではなくなり、誰でも簡単に世界中に発信することが出来る、という変化である。世界中に溢れ出すWebページは、玉石混淆だが、すべて立派な著作物なのだ。
 今までは情報の受信者だった人々が情報の発信者として登場し、著作物と著作権者が飛躍的に増大する。このことは著作物を取り巻く制度に大きな本質的変化をもたらす。
 現在の著作権審議会は、作家、マスコミ、音楽、ソフトウェア、図書館など職業的な著作権関係者で構成され権利調整が図られているが、今後は「草の根発信者」の代表が必要になってくる。
 そういったすべての人が発信する時代、それがもたらす変化に対応して今、何をすることが一番大切かを考えるべきだろう。
 すべての人が発信する時代とは今までは少数のプロの発信者が弁えておけば良かった種々の注意点、著作権や肖像権、プライバシー、名誉毀損そして言論の自由、国語に対する責任等々、を一般の人も充分に知っておく必要がある時代ということだ。
 情報の受信者でいるうちは著作権違反といってもせいぜい複写程度のことで済んだ。しかし一旦発信者となればより積極的に著作権侵害をしてしまう恐れも生じてくる。
 しかし残念なことに、現状では学校で著作権教育や発信者教育が行われているという話を聞かない。著作権も社会のひとつのルールである。社会のルールは誰かが教えて行かなくてはならない。
 たとえば「引用」のルール。出典の明示、内容の主従の関係など簡単なルールだが、大学の卒業論文を書く段になって始めて引用や参照文献を記述することが教えられるというのが実情だろう。一度も教えないでルールを守れというのも無理な話ではないか?
 最近コンピュータソフトウェア著作権協会(http://www.accsjp.or.jp/)が著作権教育について活発に活動を始めた。同協会の「学校教育における情報モラル推進委員会」は、文部科学省に対し著作権教育をカリキュラム上に位置づけることなどを求めていく一方、講師派遣のための人材バンク設立、著作権教育のためのホームページ開設、「総合的な学習の時間」を利用した著作権教育を実施するなど注目すべき活動をしている。小難しい法律教育を小学校や中学校で行うわけではない。著作物に関するモラルを教えることを主眼としていると聞く。
 大賛成である。社会の中に情報モラルを確立することなしに著作権問題の真の解決はない。著作権法をいくら変えても、コピープロテクトを強力にしてもモラルなしには不法コピーを阻止することはできない。
 著作権ばかりではない。発信すれば発言に対するさまざまな責任を負わなければならない。情報モラルなしには大混乱は必至なのである。すべての人が発信する時代に向けた著作権教育、発信者教育というものを提案したい。
『情報管理』Vol.44 No.8 Nov. 2001 より転載

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