コンテンツを活かすも殺すも、作り手次第

1997.11.01

朝日新聞社  久和 俊彦

 家庭向けパソコンの売れ行きに陰りが出始めてきたらしい。消費税率の アップ、景気の後退、新OSに対する買い控えなどさまざまな要因がある のだろうが、根本のところで実はパソコンの使い勝手の問題もあるのでは ないだろうか。家電に一歩近づいたとはいうものの、インターフェースの 複雑さは如何ともし難い。パソコンをプラットホームとするマルチメディ アにとっては由々しき現象だ。 
 加えてソフト側にもいろいろ問題はありそうだ。独断と偏見で言えば、 一度見たら二度と見る気の起きないような、内容の乏しいソフトが“これ がマルチメディアです”といった顔をして店頭に並んでいる。いまこそ “大人の鑑賞に耐えうるタイトル”作りを目指すべきではないだろうか。 取りあえず作ってみました的な、イージーな発想で乱造することは結果的 には読者の信頼を裏切ることにもなりかねない。文字情報をベースに、 しっかり作り込んだタイトルになかなか巡り合えないのは何だかとても淋 しい。マルチメディアってこんなもんか、というイメージが蔓延するのが 恐い。
 コンテンツを活かすも殺すも、作り手次第。作り手の側がよほどしっかり したコンセプトを確立して取り掛からないと、読者の逆襲にあうことは目に みえている。我々は消費物としての“モノ”を作っているのではない。あく までも出版物の一つの形態としての電子出版物を作っているのだと思いたい。 だから受け手の方はユーザーではなく、読者である。読者の信頼を裏切るこ となく、かつ出版文化の発展に貢献するために我々は何をすべきか、悩みは 深い。
 雑誌の広告を見て有名書店にCD-ROMを買いに行ったら、書店には在 庫がなかった(売り場の担当者は出版されていることすら知らなかった)。 発行元に在庫と詳しい内容を問い合わせると、広告の文面以上の情報は教え てくれなかった。「オイオイ、本当に売る気あるの?」と他人事ながら、心 配になった。何か釈然としない気持ちになって、結局買うのをやめた。新し いメディアとしてようやく市民権を得つつあるCD-ROMだが、このよう な状況が解消されない限り、ビジネスとしての将来性は見込めない。
 不況に強いと言われてきた出版業界が不況に喘いでいる。返品率が50%を 超え、右肩上がりの成長も昔の夢となりつつある。同時に、マルチメディアソ フト市場もかなり冷え込んできているという。しかしここで悲観的になっても 仕方がない。むしろこの事態を、自分自身の足場をしっかりと見据え、巻き直 しの機会と捉えるべきだろう。電子出版・マルチメディアに携わる身としては、 ここが正念場である。