もう一度生まれ変わっても電子出版に携わりたいですか?

1999.01.01

日外アソシエーツ  和田 淳

 もう一度生まれ変わっても電子出版に携わりたいですか? ...そんな質問をされたら(されるわけないけど)私は即座にYESと答える。
 ただ、電子出版という言葉そのものは、"出版文化"という紙媒体の時代からの 伝統的な重い荷物を背負っている印象があって、個人的にあまり好きではない。
 もちろん、この言葉も時代の産物のようなもので、紙の文化からの移行期 に過渡的に使われているだけかもしれないので、あまりこだわる必要はな いかもしないが、もしかして電子ブックを含むCD-ROMパッケージ商品が 結局は既存の流通経路に変革を起こせなかったのもその辺のことと 関係があるかもしれない。
 それにしても「紙」はいっこうに足りなくなるような危機感がない。 業界の人に言わせればそんな悠長な話ではなく、紙は現時点で確実に供給不足に なっていると言うのだが、街でいらないティッシュやチラシを無理やり受け とらされている私にとって実感はかなり薄い。
 もともと電子出版に重い腰を上げた当初の出版界の動機も、この 「近い将来必ずなくなる紙」にあったはずだが、あれから十数年経って、 まだ100パーセント紙に取って替われる媒体や表現技術は市場には提供されていない。
 多分、今進められている「電子書籍」構想がこの期待にこたえてくれるもの なのかもしれないが、ページ単位での表現力が紙と同等ならよいのか、 携帯性という意味で紙を超えられれば良いのか、それとも離れがたい紙への 執着はそれが一切無くならない限り断ち切れないのか、などと意地悪く考えて しまう。
 いずれにしても私はその意味での"(読み物の類の)本に替わる電子出版" にはあまり興味は無く、もともと紙媒体では到底代替できない「データベース」 に思い入れがある。
 私たちにとってのこの十数年間のCD-ROMとの関わりは、書籍の代替物としての それではなく、自社や他社の膨大な容量のデータベースを如何にうまく セグメント化し、この小さな媒体に効率良く格納し、検索させるかということ との悪戦苦闘の連続だった。
 お陰様でそれなりに成果はあったが、データベースを学生の頃から活用し ている欧米の土壌そのものとの差は大きく、やはり、単に「この本がこのCD-ROMに なったのですよ」と言ったほうがわかりやすくもあるのだろう。
 ただ、教育現場でネットワークの入門・研修のような位置付けでCD-ROMを 利用してもらうというシチュエーションも提供できたし、 LAN環境でCD-ROMを利用してもらえるところも少しずつ増えてきた。 この成果が来年以降少しずつでも上がってくることに期待したい。
 CD-ROMという媒体がひとつの時代の一つの役割を終えた今、 こんどはそれをどうやってネットワークでもっと使いやすく、 もっと快適に使ってもらうか、そしてそれがどれくらいのビジネスに成長するか、 という次の戦いが始まっている。
 いずれにしてもコンテンツを制作する立場としては、一つのメディアにあまり 過剰な期待をするのではなく、それらを複合的に組み合わせて提供していくことが 大事だと最近つくづく思う。