ネットワークビジネスへのトライ

1999.12.01

メディアビジネスクリエイティヴ  吉田 安孝

 デジタルメディアを造ろうと創業した弊社で、たまたま冊子の本を造る破目になった。 ある出版社OBの友人から自費出版の依頼があったのである。内容は、日本全国の食文化 を都府県別に綴ったもので、A5版で500ページもの単行本で個人の自費出版としては 膨大な情報量である。彼はもともと食べ歩きと飲み歩きに貪欲でその道には造詣が深く、 出版社の仕事の傍ら20年の歳月をかけて築いた情報である。本文解説のためのイラスト や内容に関わる和歌・俳句・川柳なども盛り込んで、各地を旅して食を味わうガイドと して楽しい格好の読み物になると思われる。
 この依頼があった当初、冊子の本を造ると同時にこの本の情報はWeb上で切り売り出来る 情報でありInternetでも提供しようと友人にけしかけた。Internetも知らないわけでない 彼は、製作経費の回収ができるのなら本も売るしInternetでも情報を売ろうと乗り気に なって呉れた。そうなれば、デジタルメディアを手掛ける当社の本来の仕事にもなると 考えたのである。
 出版の編集も製作も手掛けたことのない私が、出版社のそれを傍らで眺めていた経験 から編集・製作擬いの仕事を始めたのだ。とはいえ編集・製作擬いの仕事はなんとか こなして、、本文校了までの段階を迎えて本は出来そうであるが、果たしてInternet でこの情報を流せるだろうか? これまでの組み版の過程は、書体・ルビ・外字・索引 ・付録データなどなど赤字・変更はあるし、罫線の入った表擬いの付録の追加など、 誌面を整えるためにのみ終始した。今の印刷データはデジタルとアナログが入り交じり、 どのようなマスターが保存されているのか? 見当がつかない。だが、それでも印刷用 の版は出来るのである。
 この情報を全てデジタル化しHTMLのタグを付し、附帯情報ともリンクさせるなどの 加工を施しWeb上に乗せるには、更に相当の労力を要すると思われる。
 One Source Multimediaの展開を出版社に提案し、HTML以前のSGMLや出版情報のデータ ベースを推進した昔、出版社が対応してくれないと嘆いたことを思い出して、時代が 変わり今の編集者や製作者はマルチメディア・マルチユースを意識して励んでおられる と思いつつも、出版の編集・製作が当面本を造るためにのみ奔走せざるをえない状況 を、今回自ら体験して苦笑してしまった。
 ある出版社の女性編集者が電子出版界の忘年会で「2000年に向けて出版のマルチメディ ア・マルチユースを目指してガンバル!」と改めて強調しておられたが、前述の体験 から私は自分なりに解釈し納得した。悪い状況が続く現状の出版界でも未だに冊子の本 が大勢を占め、読者の大半が電子出版を認知し受け入れる環境ができない限りOne Source Multimediaは出版社にとってはたいへん苦難ではないだろうか?
 米国のOpen e-Bookや日本の電子書籍の読書端末は、かつての同様なシステムや道具とは 比較にならない高いグレードで商品化され、またはされる予定と聞く。電子書籍は、 印刷のアナログデータの利用が発想の原点という。やはり冊子の本ありきの世界で、 出版はその手法の長い歴史からおいそれと脱却できないのであろうか?まだしばらく 電子出版は既成の本をベースに緩やかに歩み続けるのかもしれない。
 今年のフランクフルトブックフェアでも、Book On Demand出展ブースが賑わっていた。 やはりまだ冊子の本が究極の情報源なのだろうか?
 日本でCD-ROMによる本格的な電子出版が出現して15年の歳月が過ぎた。いままでの多く は辞典・事典のたぐいで相応の成功を収められた。これらレファレンス的な文献は冊子 より電子情報が秀逸しているからだと思う。
 私としては2000年に向けて、前述の「食文化の読み物」を時代の趨勢に乗りWeb上で展開 し、ネットワークビジネスになるかどうかトライしようと夢をみている。
 乞う アドバイス!