書を捨てWebに…

2001.04.01

自由電子出版  長谷川 秀記

 「キーパーソンズメッセージ!」のコーナー再開です。 業界を代表するJEPA理事の皆様から旬のメッセージをいただいておりましたこのコーナーは、順番が一巡したため42号にて終了致しましたが、再開のご要望が多く今月号から再びお届けすることに致しました。
 2001年度の理事改選でご就任になられた新任理事の皆様をはじめ、JEPAのキーパーソンの方々から再び熱いメッセージをお伝え致します。どうぞご期待ください。

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 JEPA News巻頭のキーパーソンズメッセージを理事持ち回りで書き始めて、これで一巡したとのことである。一巡に約3年強かかった。この3年間、出版の世界では、まったく変化がないことと激変したこととがある。
 変化しないのは「出口のない出版不況」であり「出版界の構造」である。一変してしまったのはインターネットの爆発的な普及だ。出版不況脱出についてはさまざまな 議論が溢れている。しかしそれらの議論はなぜかある事実を意図的に避けているように感じる。それはインターネットが出版を圧迫しているという観点である。
 もちろんインターネットが出版不況を起こした元凶ではない。出版界の構造が今の世の中に合わなくなってきたことが原因であろう。しかしその合わなくなった隙間を見事に補完し、急速に増殖しているのがインターネットなのである?
 ある調査によればいま世界には40億ページ程度のWebページが存在し、それが年に倍増する勢いで増殖しているらしい。比較的少ないと言われる日本語ページだけ見ても、Web上に存在する情報の豊富さは目を見張るものがある。かつては書店に赴き本を買うか、図書館に篭って調べたものが、お手軽に目の前のパソコンから即時に調べることができる。Webで用が足りない調べ物はごく少なくなっている。
 本当に便利な世の中になったものだが、もしあなたが出版界の人間ならこの事実に驚愕し、脅威に感じなくてはならないはずである。
 調べ物ばかりではない。ご存知のようにインターネットは「はまる」。次から次へと情報のリンクをたどっていくだけで、小一時間くらいは楽しく過ごしてしまう。常時接続の世界に入ればこれはもっと加速されるだろう。インターネットもまた出版と同じ時間消費型の存在だ。人間の持つ限られた時間の奪い合いは当然のように起こっている。
 出版界ではこういった新しい表現媒体が登場すると必ず「活字離れ」という決まり文句が使われてきた。「活字離れ」をくい止めて「活字戻り」をさせるという思考方法だ。この決まり文句が大きな成果をあげたことなど一度もないが、今回はそのスロー ガンは使えない。なぜなら登場した新しい媒体には文字が溢れているし、個々のWebページは小さなそして独自な出版活動そのものだからだ。
 自分自身は変化をせず、出て行った読者を古巣に呼び戻すという考え方がもはや何も生まないことは明白だ。ならば出版人みずから「書を捨てWebに出かけてみよう」ではないか。自分たちの活躍できるフィールドがWebには溢れていることが分かるはず である。そこに新しい読者が育ちつつあることも実感できるはずである。
 「インターネットには読者が溢れている。後は商品を届けるだけだ!!」。こう叫びたくなるが、実際にはネット上で商売をする困難は大きい。
 大量の無料情報に対抗してお金を払ってくれるコンテンツをどうやったら作れるのか?広大なインターネットで自分の存在をどう伝えたら良いのか。こういった新しい難問をひとつひとつ解いていかなくてはならない。そんな難問をともに解きあかして行く場としてJEPAを活用していこうではないか。アイデアの交換、経験の共有、実務における 協力、そういった活動はJEPAのもっとも得意とするものである。
 新しく始まったこのキーパーソンメッセージが再び一巡した時、ネットの上に出版社に蓄積されたコンテンツと編集のノウハウが満ちあふれ、新しい出版の世界が切り開か れていることを確信している。