次世代のコンテンツを作ろう

2006.07.01

パピレス  天谷幹夫

出版とコンテンツ
 最近は、過去に出版物に書かれたものでも、それがネット上に掲載されると、コンテンツといわれてしまいます。出版に携わるものとして、何がコンテンツだ、もとは紙に書かれたものではないかと思ってしまうのではないでしょうか。では、何が違うのでしょうか。Yahoo辞書によりますと、出版とは版を起こし紙に印刷して情報を頒布すること、コンテンツとはインターネットやケーブルテレビなどの情報サービスにおいて提供される文書・音声・映像・ゲームソフトなどの情報を総称しています。そこで、「出版=紙を使った情報表現行為」であり、「コンテンツ=インターネットに接続された端末機器に表現される情報」と大胆にも定義してみます。我々にとって前者の紙は分かり易いですが、後者のほうは分かりにくいのは事実です。なぜなら、インターネットは未だ進化中であり、その端末機器や伝送手段も何種類もありかつそれらの形や性能が刻々と変わっているため、そこに表現されるコンテンツの最終イメージもつかみにくいからです。
 たとえば、紙における出版物は、雑誌、文庫、新書、ハードカバーと、版型こそ違え紙を束ねて製本したものと想像つきます。これに対して、インターネットに接続される端末機器とは、PC(パーソナルコンピュータ)であり携帯電話であり、PDAであり、TVであり、PSPやDSなどのゲーム機器であり、iPodなどの音楽再生機器であり、その他、いろいろな専用機器を含めると、一つの形態に特定できないのです。さらに、これらの機器が、情報伝達手段である電話線、光ファイバー、無線などのネットワークにつながることにより、そのあちら側にあるWEBやDB(データベース)に保存された何種類ものコンテンツがこれらの機器に表現されてゆくのです。これらの機器の中には、数年後に消えてなくなるものもあるでしょう。または、形を変えて他の形態の機器に取り込まれることもあり、未だ最終形態が見えていないことは事実です。
紙に代わる端末機器
 しかし、分かりにくい、あるいは最終形態が見えていないといって、紙への出版だけをいつまでも続けていて良いのでしょうか。紙の歴史は、紀元105年中国の蔡倫が発明して以来今日まで2000年続いています。出版に携わる者としては、この紙が、やがては無くなるだろうと考えるだけでも、それこそ“神(紙)をも恐れぬ行為”で、想像したくないのが人情でしょう。しかし現在は、新しい端末機器の出現とネットに代表される情報伝達手段の変化により、紙とディスプレイが併存して使われている時代であり、何十年かかけて徐々にディスプレイの時代に置き換わるであろうことは誰も否定できないでしょう。
 我々にとって重要なことは、この置き換わる期間がどれだけかかるかであります。この期間を数年か数十年か、あるいは数百年と見るかによって我々の対処の仕方が異なってくるのです。実は、紙が発明された時も同じ問題が起こっていたのです。紙が発明された時も、それ以前に使われていた羊皮紙や竹簡から紙にすぐには置き換わらずに、併存して使われている時代が300年も続いたのです。
 (参考: 「はたして紙はなくなるのか?」  http://www.ajup-net.com/web_ajup/065/65T1.html )
 しかし2000年以上前と現代では、技術の進歩の速さが違うのも事実です。1450年に発明された、グーテンベルクの印刷技術は、50年の間にヨーロッパじゅうに普及しました。1765年に発明された蒸気機関や1885年に製品化されたガソリン自動車はその普及に50年程度かかっています。コンピュータは、1959年のIBM701大型コンピュータから考えれば25年で主要な銀行や大学に普及しました。現在のPCは、1985年のMacintosh PCから考えれば25年です。携帯電話は1979年のNTTの自動車電話から考えれば25年です。ネットワークは1980年のパソコン通信から考えれば25年です。ここで考える普及率は60~80%程度を想定しています。もちろん製品によって差はあるでしょうが、紙の時代から比べて近年では普及にかかる年数が25年と短くなっているといえます。
 それでは、紙に変わる端末機器の元祖は何と考えるべきでしょうか。持ち歩きができて、ネットワークにつながって、コンテンツが表現できるものとしては、ノートブックPCであろうと思います。この元祖は、1989年東芝のDynabookではないかと思われます。そうしますと、それに25年足しますと、今から8年後の2014年には新しい端末機器が一般に普及していることになります。
 仮にその名称をニューブックとしますと、最近発表された、Microsoftの開発コード名「オリガミ」で知られるUltra Mobile PCのSmartCaddie やWillcomのZERO3などは、その先駆けではないだろうかと思います。
 (参考: SmartCaddieのニュース http://plusd.itmedia.co.jp/pcupdate/articles/0604/17/news003.html )
  (参考: Willcom ZERO3のニュース http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/26175.html )
 過去の歴史的考察をもとに推測すれば、驚くべきことですが、今後10年以内に紙に代わるニューブックが一般に普及する可能性が高いことが予測されます。今の携帯の普及と同じくらいに、一般の人がニューブックを鞄に入れて持ち歩くわけです。例えば、中高校における授業風景を考えますと、学校内はすべて無線LANが張りめぐらされています。生徒はみんなニューブックを机の上に載せて授業を受けます。先生も、ニューブックを持ち歩いて、教材や問題集などは、デジタルコンテンツとして先生のニューブックから生徒のニューブックに一斉に送信するだけです。生徒は、それに解答して先生のニューブックに送り返すだけです。全く紙は使わなくなります。
次世代のコンテンツとは
 さて、このような10年後に普及している新しいコンテンツは何かと考えた場合、それは、ニューブックに対応したコンテンツでしょう。出版においても紙への印刷技術が発展するとともに、文字や描画だけの時代から、写真や画像がふんだんに取り入れられる時代になりました。そう考えると前に述べたニューブックに表現されるコンテンツとは、紙では表現できなかった映像、音声、音楽などがふんだんに取り入れられるようになるでしょう。それに、文字検索やリンク機能などのインタラクティブ性を取り入れたコンテンツです。エンタテーメント系のコンテンツにおいては、小説、漫画、アニメ、映画、音楽などの垣根はなくなって、これらのものが混在あるいは融合されたものが普通になるでしょう。もうすでに洗練されたWEBページには見られますが、目だけでなく耳も使って人間の感性に訴えかけるコンテンツはより脳を刺激します。情報系や学習系のコンテンツにはインタラクティブ性が欠かせません。従来の紙出版に見られる情報の羅列だけのコンテンツよりも、ユーザがより早く必要な情報にたどり着けるための、機能が重要視されるためです。
 ただ、映像、音声、音楽を入れるとなると、作り手を多くかけることになり、とてもコスト高で割が合わないと考えるのが今まででした。しかし、「IT時代のチープ革命」といわれるように、パソコンやその周辺機器を使えば、誰もが映像、音声コンテンツを造れる時代になってその制作コストはどんどん低下しています。また、誰もがブログや掲示板を使ってコンテンツを表現する「一億総表現時代」になって、すべての情報はネットから拾えばプロのコンテンツもいらないのではという考えまで出てきています。コンテンツを作成あるいは編集することにより対価を得て生活のなりわいとしている者にとっては、より専門性を高く、かつ付加価値の高いコンテンツを創り、差別化を計り一般の上を行く必要があります。
 さあ、10年後のペーパレス時代に間に合わせるために、明日からでも次世代のコンテンツについて考えましょう!!
 私どもパピレスは、その普及のためには、労力を惜しみません。次世代のコンテンツについて考えたいかたは、どうぞご連絡ください。
 (連絡先:staff@papy.co.jp )