電子書籍が可能にする「MANGA」の国際展開

2006.09.01

イーブックイニシアティブジャパン  川合 恵太

 当社は、京セラコミュニケーションシステムならびにKYOCERA COMMUNICATION ASIA PACIFICと協業して、電子書籍の海外販売を「電子書籍国際ネットワーク事業」として9月19日からサービスを開始した。サービス名は「eBookJapanASIA」(http://www.ebookjapanasia.com/)でシンガポールからリリースする。スタート時に配信する作品数は30タイトル100冊を用意し年内300冊目指をリリースしていく。1冊の販売価格は、現地の紙のマンガ書籍とほぼ同じ価格設定にし、5.8~8.8シンガポールドル(日本円で約400円~600円程)となる。
 今回の事業は、電子書籍の販売モデルによって日本の文化である「MANGA」の海外市場への展開を行うわけだが、いわゆる「翻訳出版」のスタイルではなく、いわば「電子書籍のインターナショナル化」という位置づけで展開するもので、電子書籍が世界市場を対象に広く事業展開していくためのファーストステップとなる。そのアウトラインをご説明させていただければと思う。
●現在の国内市場
 日本国内の出版市場は、出版物販売額は約2.2億円,各ジャンルそれぞれ約2%減となっている。(参考:出版科学研究所2005年調査データ)この減少傾向はここ8年間で常にあるものだが、マンガ市場はそのうち約6000億円と大きな割合を占めるなか、やはり縮小傾向は否めない。
 縮小する国内市場に対して、海外市場へは電化製品や自動車など世界がターゲットとなっている各業界にあって、「言語の壁」が大きく立ちはだかっている出版業界においては、翻訳などの権利ビジネスにて展開するのが中心となるため、結果としてドメスティックな市場への競争が激化している状況である。
●世界市場における「MANGA」
 ご存知のとおり、アニメなどを中心にマンガを原作とするコンテンツは海外で活躍し、「MANGA」という固有名詞自体が世界共通となっているほどである。これはマンガ自体が絵の占める割合が極めて大きく、キャラクターやシーンを直接表現しているため、文章では伝えにくい感情なども伝達できているためだろう。「アニメ」ではそれを既に物語っていると言ってもいいと思う。
 ではマンガ市場というものが世界に既に出来上がっているかというとまだそこまではいってなく、コンテンツ市場においてはアニメが新たに躍進している中で、マンガはこれからという状況である。
●電子書籍における「マンガ」
 当社では電子書籍販売サイト「eBookJapan」にてマンガを中心に電子書籍の販売サービスを開始して7年を数えようとしているが、ブロードバンド環境の整備や、コミュニティによるユーザの定着に連動しながら、着実に事業を伸ばし販売モデルを培ってきた。
 eBookJapanは既に会員は25万名に達し、ブレークスルーする数字にそぐそこまで来ていると言っていい。月間ダウンロード数は3年前の10倍以上になっている状況だ。
 マンガにおいては、現在約3000タイトル約8000冊を常に販売しており、名作を中心に電子書籍ならではの作品を集め、その作品の質を落とすことが無いようナローバンドの当初から高解像度の品質にしてきたことでファンを着々と集めてきた。
 特徴的な購買傾向をあげてみると、そのひとつとしてリピート購入率の高いことがあげられる。30巻ほどの長編マンガでも最終巻を買う率が7割を超えるほどだ。また「まとめ買い」など同時に複数冊購入する率は全体のオーダーの6割を超えるといった傾向もある。こういった傾向からも、マンガそのものが電子書籍においてもその作品の魅力を存分に伝えることができるコンテンツであり、インターネットの販路によってその販売機会を補完するだけでなく、それ以上に活性化していると言える。
●電子書籍による新たな国際展開
 こういった背景と実績により、設立当初から構想のあった国際展開を今回具体的に進めることになるわけだが、それはマンガを電子書籍の販売モデルで展開することで、各業界において常識となっている「世界は単一市場」という考え方をベースとし、「出版市場の国際化」にチャレンジしようとするものである。
・翻訳権ビジネスではない「新たな販売モデル」
 今までの書籍の海外展開は翻訳の権利ビジネスであったが、今回のモデルは全く異なるもので、基本的に現在日本で販売している電子書籍を販売する。当然、著作権者から海外での販売の許諾を頂いたものが対象になるわけだが、販売する電子書籍は現在販売されている日本語の作品とは別に新たに海外向け翻訳版を描くといったものではなく、日本で販売している電子書籍のマンガそのものを販売する形になる。ただ、そのままの電子書籍では日本語のままでは読めないことになるが、そこを「翻訳シート」を噴出しなどの上に直接添付表示することで、各言語で読めるようにする仕組みにしたのだ。
 従来、翻訳本となると、ページを左右逆にしたり、噴出しの大きさが変更されたり、背景の擬音を再度描き換えたりと、まさに新たな作品制作物として相応の労力とコストが発生していたが、今回はあくまで日本語のマンガに「翻訳シート」のデータを追加して活用するためコストが押えられるところがポイントともなっている。
 また、ポイントのもうひとつとしてこれはビジネスの要でもあるのだが、海外展開において不正流出への対策が必要であった。ご存知のとおり既に海賊版などで作品を認知している海外の読者が多いほどその対策は難しく、そのため事業展開も往々にして消極的とされてきたが、今回は国内で培った電子書籍による独自のDRM(デジタル著作権管理)技術と、書籍配信サーバを国内で運用することで対応が可能となった。
 こういったことにより、まさにインターネット(=ネットワーク)を経由して日本から海外(=国際)の読者へお届けすることができるようになったのが「電子書籍国際ネットワーク」なのである。
 今回の電子書籍国際ネットワーク事業は、売上とともに日本のマンガ家が世界の読者に作品読んでもらえる機会の創出とビジネスチャンスの拡大につながることが目的であるが、今後は新たにアジアにもマンガ家が生まれ、マンガというものが日本だけでなく「MANGA]としてアジアそして世界の文化となっていき、電子書籍がそれに少しでも貢献できることを期待する。