3文字アルファベット恐怖症

2009.07.01

文藝春秋  西川 清史

 長らく雑誌の世界に棲息してきたのだが、2年前に、デジタル・メディアの世界に引っ越してきた。観るもの聞くもの、目新しいことばかり。というか、よく分からないことばかりの連続で、はなはだ面食らった。まず、一番驚いたのは、デジタルの世界に生きている方々は、そのほとんどがビジネスのワーディングで話を始めること。つまり、金儲けですな。これこれをやると、これこれの儲けが出て、お宅の分け前(レヴェニュー・シェアと呼ぶこともはじめて知りました)はこれこれ、ってな調子。
 入社以来30年間、一度も本気で金儲けのことを考えたことがなかったから、このことには驚いた。ひとりくらい、「こんなことをしたら大損こきますが、どうしてもやりたいので、ダンコとしてやります!」という人がいてもいいはずなのに、なかなかそういう奇特な方にはお目にかからない(雑誌の世界にはそういう方がときどきいた。今も稀少残存動物のようにいるけど)。この不景気下では仕方ないことなのかもしれない。
 その次に驚いたのは用語。WEB制作会社の方々と話をしていたら「冗長化」という。冗長? ということは、まとまりのない、やたら長いだけのことなの? と尋ねると、どうもそうではない。肯定的な意味合いでその用語を使っている。おそらくは、そもそもの英語の用語があり、それを日本語に置きなおす際に、どこの誰だか知らないがよく日本語を理解しない方が「冗長化」という漢語を当てはめたに違いない。まるで明治維新後、「哲学」が我が国に来着したときのような按配である。
 もうひとつ面食らったのが、アルファベット3文字の用語。CDNとかSEOとかがめったやたらに出てくること。頼むからへんちくりんな日本語でいいから、誰か置き換えてくれないだろうか。そんなことを考えていたときにいたずらで書いた短文を最後にコピペして、ご挨拶に代えさせていただく。
 JCBカードでBLTサンドを買った後、ATMで金を下ろし、ETC付のホンダのFITで首都高に入ってOMCのカードでゲートを通過、NRTに向かう。ポケットにはJTBで入手したLAX行きのチケット。JALかANAかで迷ったが、結局NWAに。TDLをすぎたあたりで、TFMをつけると、SASの曲が流れている。それも飽きたので、DATでとったELTの曲をBGMに、UCCの缶コーヒーを飲む。やはり、家でJBLで聞いたほうがいい音だ。NTTの携帯でTELしようとうつむくと、なんとAPCのJKTのファスナーが壊れている。YKKなのに!JISマーク付いてるのに! 飛行場のロビーでNECの液晶PCでWEBチェック。その後TVを見ようとするが、URLがよく分からず、NHK、BBC、FOX、NBC、CBSのどれにしようか悩んだ末にTBSにすると、そこでは冷戦時代のKGBとCIAの争いのレポート。前FBI長官やらIEA議長まで登場してきたところでいやになりMTVに。AIUで保険をかけて、機内に乗り込み、シートに座るといかにもVIP然としたおっさんが腕にBCGのあとの残る部下と話をしている。どうやらJFEにお勤めのよう。「TOBであの会社を買収してOEMでCPUを作らせたのはいいが米国SECが目を光らせている。FRB議長に助っ人を頼んだがCEOもCOOもそんなことは知ったことじゃない。それどころか、一緒に連れてきたWEB事業室の連中と、SEOはどうした、CMSはどうした、やっぱこれからはCGMだろうなどと分けの分かんないことをほざいていたかと思うと、TBCのMENSエステに出かけている。昨日は子供のPTAで休むし、もっと仕事をしろというとILOに訴えるぞというし、ときどき会社を抜け出して、MLBやPGAやWBCの試合を観にいったりしている」「これではGDPもだださがり。ああいう連中にはNPOかNGOにでも行ってもらうしかないですな。自衛隊に入ってPKOにでも行って頭にDDTでもかけてもらえば根性もなおるでしょう。でもDDTかけるとWHOに怒られるかも。もうSOSですな」「全く仕事のABCも知らないし、毎日CNNでPLOのNEWSばかり見ているし。KKKにやっつけてもらうかUFOにさらってもらうしか手はありません」