「デジタル・コンテンツ」の流通促進の要

2009.08.01

二玄社  藤原 正義

●小さな収益を多数から集めるプラットホームの構築
 もともと出版という事業そのものが、多品種量販による収益を得るシステムとして、出版社+取次各社+書店が一体になって作り維持してきたシステムであり、これまで本という紙メディアに情報(コンテンツ)を乗せて利用者(読者)に発信し、同時にそこから収益を得てきたシステムといえます。人間が得た知識を活字や画像によって紙に固定し流通させるという、これまでで最も優れた情報流通のプラットホームというべきものが、出版であることは確かです。
 しかし今日、コンピューターと通信の結合によるICTの発展によって、この出版システムが部分的に壊れたり、圧迫されたりする状況に陥ってしまいました。この原因は、1995年に商用利用が解禁されたインターネットの影響によることはいうまでもありません。現在は1998年に設立されたGoogleが、人類が使う全ての情報を集め整理するという壮大な目的を持って、全世界に100万台超のサーバーを持ち、自身が開発した検索エンジンによって2002年以降は検索サイトとして世界標準となっています。売上高 106億ドル(約1兆2720億円)、純利益で 13億ドル(約1300億円)というGoogleが行おうとしていることは、全世界の人類の英知を総べて集め整理した膨大なプラットホームを造るというもので、その中にはもちろん出版された書籍群/雑誌群の内容も含まれています。そのため出版社や図書館の協力を求め、既に700万冊以上をスキャンしています。Google和解勧告がアメリカで出たとはいえ、これは日本にとって無視出来ない脅威です。ただし、この例から得られることは、できるだけ多くの知識を集積したプラットホームを構築すること、それがひとつひとつのクリックによる微々たる広告費収入の蓄積で多大な収益を上げることに繋がるという事実です。
●専門分野を深く掘り下げた知識の宝庫というプラットホームを造る
 Googleがその力と金にモノをいわせて世界の情報を集め整理するというのならば、小さな専門出版社が生き残ると同時に、これからの収益を得るシステムとは何かを考えざるをえません。当協会のデジタル情報ビジネス研究委員会で主催した「成功例を聞く会」でお話を聞いたことを整理し、そこから成功するための要件として得られたものは、以下の5点です。
1)専門分野に関しては網羅的に文献・記事を集積したものを構築すること。
2)求める情報が簡単容易に得られるよう、自由な検索に対応していること。
3)個人向け/法人団体向けのサービスを別に用意すること。
4)会員制を採り、会員であれば全てを自由に検索できること。
5)読者と出版社、ひいては読者同士のコミュニケーションが図られていること。
 専門分野の信頼に値する情報のプラットホームを創造するにあたって、これら5つの条件を満たしていれば、利益に繋がる成功の確率は大きくなるはずと考えました。
●小さいながらも自社デジタルコンテンツで実験
 以上のプラットホームの考え方や、成功例から得られた要件を弊社に当てはめた時、Web上に有料のデータベースを構築し、そのデータを自由に見ることができる会員からは、年間閲覧料金を取る仕組みを作ることが望ましいと考えました。昨年のJIPDECからの「インターネットによるコンテンツ開発・流通及び技術開発促進事業」の補助金を使わせていただいて、小さいながら弊社の自動車情報デジタル・コンテンツをweb上に置きアーカイブを構築してみました。
 URLは、http://www.cgas.jp/ で、そこにこれまでのCAR GRAPHIC創刊号から40年分の誌面(現在7800記事)を記事別に全文検索して見ることができる仕組みを作り、同時に1960年代から1990年代に至る世界の乗用車のデータ(約3000件)と写真(約30000点)を閲覧出来る仕組みを作ってみました。まだまだ、アーカイブと言うには絶対量が少ないですが、クルマについて調べたいと思えば確実にヒットするような自動車アーカイブを目指して、日々更新し新たなデータをアップしています。
●日本の文化は日本人の手で守り伝える
 こうした専門分野ごとのアーカイブズをまとめて造る事によってGoogleの一社独占という文化の集積に対抗する手がないのでしょうか? いえ、あるはずです。日本の文化の粋である日本語の書籍は、日本人の手で将来の日本人にしっかり手渡していくべきです。今、JEPAでは、納本制度に裏付けられた国立国会図書館との協力を模索し、出版業界だけでなく多くの関連業界にも働きかけて行こうとしています。その際、著作者も出版社も書店も図書館もちゃんと機能し収益を上げる構造を維持した上でのデジタル・コンテンツの流通を産み出し、将来の日本のために日本文化のデジタル・アーカイブズを実現しようではありませんか。