電子書籍は出版の危機を救えるか

2012.07.01

リイド社  荒井 敏夫

 三年前のキーパーソンメッセージで、「デジタルで配信したら紙の売上に響く」と考えている出版人が多々おりますが、電子書籍の市場を疎かに出来ないものと考えるなら、今こそ優良なコンテンツを投入すべきではないか、と締めくくりました。 その優良なコンテンツ、言い変えると紙で売れているコンテンツですが、今まさに投入され始めています。そして、アマゾンの「キンドル」や楽天の「コボ」などの安価な読書端末も投入されようとしていて、市場の拡大は目の前にきたように思えます。
 出版市場の縮小は未だ止まらず、それどころか更に縮小していくという予測すらあります。矢野経済研究所の試算では2014年の出版物の販売額は14,900億円と推定しております。出版物の販売額のピークは26,500億円ほどでしたから、市場の45%ほどが消失する事になります。まさに出版の危機なのです。
 三年前の2009年度は出版物の販売額は19,356億円と2兆円を切ってしまいました。デジタルの販売額は2009年が574億円、2010年が650億円と売上を伸ばしています。そして2011年に出版デジタル機構ができ、今年は「経済産業省のコンテンツ緊急電子化事業」が始まり電子書籍で出版市場の縮小を止めようとしているようにも見受けられます。
 矢野経済研究所は2015年の電子書籍販売額は1500億円とも予測しています。また他には2400億円と予測している研究所もあります。この通りに進めばある一定のところで出版市場は電子書籍販売も含んで縮小は止まると考えられます。
 本の販売額が減っていく事の理由はいろいろとあげられています。例えば低年齢層の少子化、経済不況、新古書店や図書館利用の増加、携帯電話・ゲーム等。それらの問題が複合的に噛み合って販売額が減少しているのです。紙の販売額の減少が止められない今、電子書籍市場の加速度的な拡大に期待しています。
 気になる話もあります。まったく本を読まない人がいる、しかも若い世代に多いということです。電子書籍も書籍ですので、まったく本を読まない人が増えれば市場の縮小を押さえる役にはたちません。総務省の「通信利用動向調査」によれば2011年のインターネット人口普及率が79.1%と8割近くの人がネットを使っています。出版のピークだった1996年のインターネット人口普及率は5%程度ですが、この年にヤフージャパンが設立され飛躍的に伸びていきました。今やインターネットは生活の一部になっているのです。私は本を読まない人とインターネットは大いに関係があると思っていますが、まだその理由や関係が見えていません。これからの出版を考えるなら本を読まない人がどうして出来たかを探る必要があり、これが解けなくては出版市場の縮小を止める事はできないと思っています。