ハイブリッドキャストと電子書籍

2013.12.01

NHK出版  佐藤 耕至

 歳末商戦、家電量販店の店頭では4Kテレビが主人公。2020年の東京オリンピック開催を目指して、超高精細な8Kテレビも話題にのぼっている。地上デジタル放送移行後のテレビ買い替え需要喚起の目玉はこれらの高精細テレビだが、もうひとつ、次世代の放送サービスとして「ひっそり」と始まったのが「ハイブリットキャスト」である。
 放送界では、2011年の地デジ化完了とBS1・BS2・BShiの衛星波3チャンネル閉局、BS1・BSプレミアム放送の開始などに見られる放送波再編成、同年の東日本大震災でのメディア対応における課題などが、放送波による広域同時配信を見直すきっかけとなった。これにより通信に押されてきた「放送波の逆襲」ともいうべきムーブメントが起こりつつある。そのひとつがハイブリッドキャストだ。ハイブリットキャストとは、放送と通信を融合させ、番組を補完するさまざまな情報をテレビ画面上や端末(タブレット)上に表現する技術である。
 一方出版界では、何度も「電子書籍元年」といわれながらなかなか定着してこなかった。その理由のひとつには、タブレットの普及が十分でないことも挙げられる。高性能化、高画質化をうたい、携帯できるPCのごとく「全部のせ」の端末に、使いこなせる利用者はそう多くなく、さらにストレスなく使えるだけのネット環境がまだ整っていなかったことも原因といえるだろう。それに比べるとテレビの普及率は見事なものである。一家に複数台ある世帯も多い。地デジ化により画質の向上はめざましく、家庭の中心にテレビという時代が戻りつつある。そこで、タブレットを次世代の視聴体験を売りにお茶の間に浸透させようと、4K・8Kテレビへの買い換えに併せて売るという日本家電メーカーの戦略が行われるかもしれない。これは日本経済を左右する最終決戦となるだろうから、さまざまなプレーヤーが参入してくるに違いない。
 電子書籍をはじめとする出版社の文字コンテンツは、フィーチャー・フォンでのコンテンツ配信の初期において大いにニーズがあった。その理由のひとつとしては、軽くて表示させやすく、コミックやライトノベルなど手軽に読めるコンテンツを中心に充実を図ったからである。その後ブロードバンドの拡大にともない、音楽や動画コンテンツがメインを占めるようになったのは周知のとおりである。 放送と通信の融合によるサービスにおいても同様の潮流となるのだろうか。2020年東京オリンピックを核とするハイブリットキャストによるさまざまなサービスが実現する頃、電子書籍はどのような位置にいるのだろうか。そして私たち出版社は、いつまでコンテンツプロバイダーとしての位置を維持していられるだろうか。やるべきことは多い。