出版不況と電子書籍

2014.07.01

リイド社  荒井 敏夫

 前回の寄稿の表題は「電子書籍は出版の危機を救えるか」でした。2年前のアマゾンが上陸する前としてはタイムリーな表題だったと思えます。今はこの表題で出版の現状を考える事は間違いではないかと思うようになりました。
 それは、以下の資料による出版市場の縮小は、現在の書店やコンビニ等の取次ルートを経由した売上の市場を言っているからだと思います。
・出版市場の推移
 出版科学研究所によると取次ルートを経由した2013年の出版物推定販売金額は書籍が7851億円で雑誌が8972億円となっています。10年前の2003年は書籍が9056億円で雑誌が1兆3222億円となっています。書籍の落ち込みは10年間で1200億円程、雑誌は4250億円と大きく落ち込んでいます。
 これをみると確かに出版の市場は縮小しています。ですが、このデータは書店やコンビニ等の取次ルートを経由した売上データですので、それ以外に本を読んでいる人のデータは入っていません。
 この10年間の本の読まれ方の推移をネットで調べてみました。
・ブックオフの売上
 ブックオフの財務データの連結業績をみる限り売上高は2005年の400億円弱から2010年には710億円程、2013年には760億円と売り上げを伸ばしております。もちろん本だけの売上ではありませんので、一概にはいえませんが出版市場の数百億円程はこちらに流れたと考えられます。
・ネット書店
 取次を通さずに、直接出版社から仕入れをしているネット書店等が出てきています。また出版社自らがネットで直接読者に販売する事も広まっています。こちらも書店の売上を縮小させる一因になっていると考えられます。
・図書館利用の実数
 平成13年から平成22年の9年間の間に1億4千万冊の貸し出し数の増加があります。 単純に考える問題ではないのですが、本の平均価格を仮に1000円としても1千400億円程が図書館利用に変わったと考えられます。
・インターネット人口
 総務省の情報通信白書によると平成24年末のインターネット利用者人口普及率は右肩上がりで上昇し、この数年は微増が続いているがその普及率は80%となっています。
 今は雑誌の多くがネットで無料で読めたりもしています。雑誌購入者であった人たちがネットユーザーとして無料で雑誌を読んでいるのです。
 等々と他メディアでの無料や安価での利用者が増えている事は間違いないでしょう。書店やコンビニ等の取次ルートを経由した販売額は間違いなく減少、図書館での本の貸出数は激増、ブックオフ等の古書店やネット書店での販売も増加。こうしてみると、出版不況と言われている事とは、書店やコンビニ等の取次ルートで売られている本の売上が落ちたという事で、読者が減ったわけではないようです。であれば、出版不況の理由を特定し対策を建てる事も出来ると思いますが、出版業界はなかなか動きません。そろそろ、再販制度や取次流通で成り立っている出版の現状を見直す時に来たのではないでしょうか?
 そのような状況の中、電子書籍は再販制にもかからないし紙の取次流通とは違いどこにいてもネットに繋がれば何時でも購入できますから、これからが期待出来る市場になっていくでしょう。但し、どこにいてもネットに繋がる環境が必要となります。
 教育の現場では、タブレットが配布される小学校が出てきていて来年は増えるとの事です。あとは通信環境が整えば爆発的に売れてもおかしくないでしょう。
 只、まだ問題はあるようで、コンテンツが少ない。ISBNが付与されている本の電子化は2013年の時点では15万冊位と言われています。これでは欲しいときに欲しい本の購入はまだ無理のようです。ですが、それとは逆に電子書籍から生まれるコンテンツも出てきていますので、これからの発展に期待して良いでしょう。
 電子書籍の普及は出版不況とは関連なく発展する事と考えられますが、その販売方法や宣伝活動等に於いて、出版不況を更に深刻な状況にさせないよう配慮が必要となるでしょう。