電子出版の可能性

2014.09.01

大日本印刷  斉藤 二三夫

 電子出版:古くて新しいキーワードだ。我々の電子出版との関わりはいつ頃から始まったのか。辞書・辞典・事典や電話帳のCD-ROM制作がその第一歩であろう。CTSシステムをこのCD-ROM制作のデジタル加工プロセスに応用したものだ。つまり、当社の中では40年以上も前からデジタルによる各種プロセスが開発され、CD-ROMという新たなメディアが登場したとき、そのデジタル加工プロセスを上手く活用し、いわゆる古き電子出版制作の一助を担うことができたのだ。
 昨今の電子出版において、その出版物は版元・書店からネットを介しユーザに届けられるのが一般的である。ネットの環境があれば、どこにいても24時間、出版物としてのコンテンツを手に入れられる。
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                 図1 電子出版物流通環境
 図1のように、取次機能や書店を含め、インフラとしての電子出版物流通機能が急速に整いつつある。整いつつあるとしたが、少し乱立気味かも知れない。これには、様々な理由があるが市場立ち上げ期の過渡期に見られることであり、自然と淘汰される日が来るであろう。
 さて、スマートフォン、タブレットなどのモバイル端末が急速に普及しつつあり、スマートフォンに至っては、普及率40%を超えた。(出典:内閣府 消費動向調査 2014.2)これらは、電子出版物流通環境の重要な構成要素である閲覧環境の一つであり、急速に環境が整いつつあることを意味する。
 一方で出版物であるコンテンツに関し、一口に電子出版と言っても様々な種類の出版物がある。一般的な分類方法として、電子書籍、電子雑誌、電子コミック、電子写真集というような分け方がある。フロー型、ストック型という分類でいくと、電子雑誌、電子写真集はフロー型、電子書籍、電子コミックはストック型ということになる。ストック型の意味は、時間が経過してもコンテンツとしての価値が劣化しないことを意味し、長期に渡って読まれるコンテンツであることを意味する。フロー型は、逆に鮮度が重要な要素となるコンテンツで、ニュース記事などが該当する。
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            図2 フロー型、ストック型によるメディア分類例
 現在の紙の出版市場においては、フロー型コンテンツ市場の落ち込みが最も激しい。印刷業界においてもこの影響は甚大である。特に雑誌の落ち込みは死活問題である。旬なコンテンツを扱うがゆえにインターネット上に氾濫する情報との差異化が難しくなってしまったことが大きな原因と言われている。とはいえ雑誌はあるコンセプトに基き編集されたコンテンツの集合体であり、それへの一定のニーズは引き続き存在する筈である。すなわち電子出版の形での雑誌の出版ニーズもある筈である。
 すでに紙の雑誌の電子出版化は始まっている。様々な創り方があるようで、紙の雑誌そのままのいわゆるレプリカ版はその制作工程が単純であるが故に、必然となりつつある。残念ながら、読者に受け入れられているかというとなかなか厳しい状況にある。部数という概念でいうと紙の部数とは比較にならないほど低い販売部数である。
 では一体どうすれば良いのか。読者が興味を持ち、読んでくれるコンテンツを創り出し、タイムリーに届けることができれば良い筈ということは誰もが理解している。具体的にどうするのか。リッチなコンテンツにする、インタラクションの仕掛けを取り入れる、ネットワーク(インターネット)との融合を図るなど、様々な試みがなされているが、一定の成果は出ているものの起爆剤となるところまで至っていない。なんらかの付加価値創造が必要であり、そのためにユーザニーズをしっかり汲み取ること、出版するコンテンツの種類によってもニーズは異なる可能性があり、しっかり汲み取る必要がある。そして、その制作コストをどのように負担するのか、どのように回収するのかなど熟慮がなされなければならない。
 いずれにしても電子出版物流通環境は整ってきた。紙には紙の良さ、電子には電子の良さがあり、すべてが電子に置き換わることは想定出来ないが、一定のレベルで電子になり、そのレベルは環境が左右する。環境の進化はある意味では、必然であり、その必然に向けて、出版社の方々をはじめ、著者の方々など関連する業界が一丸となって備えて行かねばならない。