「次世代コンテンツ」の萌芽

2015.05.07

パピレス  天谷 幹夫

はじめに

このキーパーソンメッセージで新しいコンテンツの話をすると、また、天谷は先の見えない話をするのかと思われるかもしれません。というのは、2006年7月号で「次世代のコンテンツを作ろう」https://www.jepa.or.jp/keyperson_message/200607_306/という表題で書かせていただき、2013年2月にも「新しき器には新しきコンテンツを」https://www.jepa.or.jp/keyperson_message/201302_389/という表題で投稿させていただきましたが、10年前には書いている私自身も本当に「次世代コンテンツ」なんて生まれるのかなと思うこともありました。

次世代コンテンツとは

しかしながら、10年たった今では違います。インターネットのさまざまなWebやスマフォアプリで新しい「次世代コンテンツ」の萌芽が見られるようになりました。「次世代コンテンツ」とは、今までの映画や音楽、ゲーム、アニメ、小説、コミックなどのコンテンツが進化しただけでなく、それらのミックスしたものや、全く新しい形の出現も含めての総称を言いますが、ここでは、出版に関係したものを中心に述べます。

ニュースやスポーツ、地図、不動産、旅行、美容、ファッション、辞書、事典などの情報は、従来であれば雑誌や書籍で扱われていたものが、新しい形のWebコンテンツやアプリコンテンツに移りつつあります。小説、コミックなどのエンタメコンテンツもWebやアプリで扱われる例が多くなりました。その、具体例をここで細かく述べますと相当な量になりますので、専門の識者の方がまとめられたJEPAセミナーなどの過去ログをご参照ください。

この進化を総括すると、従来の紙で印刷されたものとの大きな違いは、情報系であれば、ユーザがより短時間に必要な情報を得られるようになったことでしょう。スマフォのインタラクティブなユーザインターフェースとWebデータベースの解析技術を使って、ユーザ自身が自分の欲する情報を検索し、目的にすばやく近づいて行くことができるようになります。あるいは、ユーザが嗜好する関係情報を、Webバックヤードの人口知能が探し出し、ユーザの前面に表示することにより、ユーザが新たな情報を得るチャンスが広がります。さらに学習系であれば、データベースに蓄積されたユーザの学習レベルを自動的に分析し、ユーザの学習意欲を高めるなど、紙出版ではできなかった機能が次々と考え出されています。

小説やコミックなどのエンタメコンテンツも、より分かり易く内容に没入できるように、文字テキストの一次元的表現から、イラストや画像を駆使した二次元的表現へ進化します。また、動画や3Dグラフィックを駆使した三次元的表現を駆使したものが増え、さらには、音声や効果音を加え、より表現力を高めたものに進化します。どれも、未だ成功とまでは言えませんが、今後さらに広がるきざしが見えます。

パピレスの次世代コンテンツ

私どもパピレスも言っているだけではだめだと、自ら進んで次世代コンテンツの開発を手掛けてきました。古くは1999年の電子料理カタログで、料理の材料からその時のお勧めメニューを表示する、「らくらく検索 食卓の一品」を発売しました。また、今では当たり前と思われるかも知れませんが、同年に毎日新聞社さんの協力で将棋の名人戦の棋譜をWeb上で実際に動く画像棋譜として表現する「第27期電脳将棋名人戦」を発売しました。

その他、2002年に「からくりコミック」、2004年に「ボイス付きコミック」、2007年に、マスク付き「英単語ターゲット1900」、同年に、読者投票による「分岐型ホラーノベル」、2011年に音声付き英語学習教材「マンガEnglish」を発売しています。いずれも読書デバイスとしてはPCが対象で、普及にいたらなかったのは、時代が早すぎたのかも知れません。

 現在、推し進めている次世代コンテンツは、「コミックシアター」と「絵ノベル」です。以下これらについてご紹介します。

「コミックシアター」とは、2013年に始めた、デジタルならではの演出を付加することにより、従来の漫画を電子コミックとして進化させた新時代の電子専用コミックです。ページをめくって読み進めていく紙書籍の見せ方とは異なり、PC/スマートフォン/タブレット端末の画面上でコマやセリフが次々と表示されていきます。ストーリー展開やキャラクターの心理に合わせてスピードや見せ方を変えているため、読者はよりストーリーを体感することができます。従来のコミックに、アニメーションや色・視差効果などのデジタルならではの演出を付加しております。背景が映画のように動いたり、目立たせたいシーンに色をつけたりすることで、ストーリーの臨場感を感じることができます。また、最近では音声や効果音を付けたものも発売しています。もちろん付加価値を付けますので、それなりの制作コストはかかりますが、アニメと比べると低コストで済みます。スマフォ時代のコミックの新しい見せ方と考えています。

「絵ノベル」とは、2014年に始めた小説やゲームをシナリオ化してビジュアルを付加し、スクロールによるインターフェイスで「より分かりやすく・より読みやすく」した新感覚のデジタルコンテンツです。ページをめくって読み進める従来の小説とは異なり、セリフや文章を一定の文字数で区切ってウィンドウ化し、スクロール動作で閲覧するデジタルならではの仕様なので、移動中でも楽に読み進めることができます。また、物語が展開されている場所やセリフをしゃべっているキャラクター画像など、作中の情報を可能な限りビジュアル化し、文章と共に常時表示しています。この結果、ストーリーをより読みやすく、分かりやすい形で表現することが可能になりました。「絵ノベル」は、パピレス独自仕様となるため2015年に特許も取得しています。

 これらのコンテンツ開発は、独自の思いつきを進めるだけではだめで、常にユーザの意見を取り入れながら改良に改良を加えて行く必要があります。私どもは、Renta!という月間の延べアクセス数が1000万人を超えるコンテンツ販売Webで「次世代コンテンツコーナ」を作り、「コミックシアター」と「絵ノベル」を発売しております。そこで、熱心なRenta!ユーザのご意見をいただきながら改良を重ねています。

次世代コンテンツの今後

1890年頃に、映画という新しいメディアが出てきて、映画館がそれまでの歌舞伎や演劇の劇場を席巻するのに約50年かかっています。また、1950年頃テレビという新しいメディアが出てきて、映画館が衰退するのに約40年かかっています。歴史に習うならば、1995年頃始まったインターネットメディアが紙のメディアを席巻するのにあと20年は必要でしょう。すなわち、「次世代コンテンツ」が成長するには、まだまだ時間がかかりますが、これからの若い皆さんには、新しいコンテンツを生み出すチャンスがそれだけあると言えます。

1997年に予測されたデビット・モシュラの「覇者の未来」を信ずるならば、1970年代に始まり、システム、PC、ネットワークと10倍ゲームで進んできたITビジネスの世界は、いよいよ2020年に向けてコンテンツが花開く時代になります。すなわち21世紀の覇者は、現在、隆盛を極めるネットワーク市場から、さらに10倍大きいコンテンツ市場に移るのです。これを読まれた方は、ぜひ新しいコンテンツの開発に携わってください。