紙か電子か?米国の話

2016.02.07

JEPA 会長/研究社  関戸 雅男

 「紙か電子か?」この議論はすでに遠い過去のものになったと思っていましたが、最近(と言っても半年ほど前のことですが)このトピックを取り上げた例に触れましたのでご紹介します。タイトルに記した通り米国の話です。この古典的議論が今また登場したのは、下にリンクを示した記事が報じた、順調に伸びていくと思われた電子書籍の売り上げが減少に転じ紙の本の巻き返しと取れる現象が米国に起こっていることによるものと思われます。
 2015年9月22日付けNew York Timesは米国の書籍市場において2015年1-5月期の電子書籍の販売が前年同期比約10%落ち込んだことなどを報じるAlexandra Alter氏の記事を掲載しました。
http://www.nytimes.com/2015/09/23/business/media/the-plot-twist-e-book-sales-slip-and-print-is-far-from-dead.html
(日本語訳 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45562
 これを受けてその3日後同じNew York Timesの教育・学習のページに「紙の本はEブックにまさるか?」と題する記事が掲載されました。
http://learning.blogs.nytimes.com/2015/09/25/are-paper-books-better-than-e-books/
 筆者のMichael Gonchar氏は先の記事を引用して課題を提示し、記事の全文を読んだ上で表題の質問に回答するよう学生に求めました。回答者は13歳以上の学生であり回答の公開を承諾することが前提となっています。
コメントの形で寄せられた回答は全部で33件、内2件は他の回答に対するコメントなので実質的には31人の回答を見ることができます。
まず紙派と電子派の分布を見てみましょう。31人中、紙の本のほうが良いとする人は20人、電子のほうが良いとする人は6人、ほかの5人は優劣なしとするか優劣の観察または分析を述べています。回答を寄せた人には紙派が多いようです。
次にその理由ですが、実際の回答は上記のページで読んでいただくとして、ここでは質問者が紙の本の長所を問う形で誘導的に示した理由を見ておきましょう。
紙の本は実際に手に取ってページを繰ることができることにより電子本にまさる豊かで満足を与える読書経験をもたらすか、また手に触れそして書棚に置かれているのを見ることができることから情緒に訴える価値(emotional and sentimenal value)を有するか?
質問はこれにとどまりませんが、質問者の関心はここに絞られていると考えてよいでしょう。かつてわたしたちはこれに加えて、あるいはこれよりもむしろ、紙と電子それぞれの媒体としての自立性や永続性、携帯性や可読性、購入にあたっての利便性、コストや価格面での差異や環境へのインパクトなどを詳細に比較して優劣を論じていました。そんなわたしたちの目にはずいぶん単純化された議論に見えます。一方わたしたちの議論においては読者の価値観が軽視されていたようにも思います。紙か電子かの選択において読者が重視するのは、つまるところここで問われている情緒的価値の有無あるいは大小だとすれば、ビジネスとしての電子出版の将来はどのようなものと予測されるでしょうか。もう一度この観点から考えてみるのもよいかもしれません。みなさんはどう思われるでしょう。