「十年一昔」ですが、まだ「始まったばかり」ですから

2016.12.05

JTBパブリッシング  井野口 正之

JEPA30周年、おめでとうございます。

私事ですが、実は今年は、私が電子出版に関心を持ち始めてちょうど10年という年でもありました。
10年前、何がきっかけだったかといえば、ケヴィン・ケリー(Kevin Kelly)のエッセイ「Scan This Book!」を読んだことだったのですね。
ケヴィン・ケリーは、1960~70年代のカウンターカルチャーの時代のバイブル的存在と言われていた『Whole Earth Catalog』の編集者、US版『WIRED』誌の創刊編集長として知られていますが、彼が、10年前の2006年、ちょうどGoogle 「Book Search」 や Amazon の「Search Inside!」が話題になり始めた頃に、「本」のデジタル化について書いたエッセイが、この「Scan This Book!」でした。
そこに描かれていた、デジタル化されたすべての「本」が Liquid になり Connect して、巨大な織物のようになる、というワクワクするようなビジョンに魅せられてしまったのですね。

…で、それから10年後の今年。電子出版をめぐる環境も10年前(当時はKindleもまだ登場していなかった!)とは大きく変わった2016年、ケヴィン・ケリーは新刊「THE INEVITABLE」(不可避なもの)を出版しました。日本語訳も「〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則」として発行され、話題になったので、ご覧になった方も少なくないと思います。

同書では、大きく変化しつつあるテクノロジー/環境のトレンド、<不可避な>変化が、「BECOMING」、「COGNIFYING」といった12のキーワードに沿ってさまざまな具体的事例とともに語られていて(「SCREENING」というキーワードでは「本」についても主題的に描かれています)、いずれも刺激的なのですが、中でも印象的だったが、全体を包括する12番目のキーワード「BEGINNING」。

デジタル化されたテクノロジーがもたらす大きな変化に対して、「われわれは<始まっていく>そのとば口にいるのだ。もちろん、この<始まっていく>ことはまだ始まったばかりだ」。

これはデジタル化されたテクノロジー/環境全般についての話ですが、電子出版ももちろん例外ではないでしょう。5年後、10年後、あるいは50年後(それでも「紙の本」の歴史に比べればほんの1/10!)から今を振り返ってみれば、まだ変化は始まったばかりで、「未来」の当たり前はこれから創られていく、今はまさにその始まりのタイミングだ、という考え方には勇気づけられます。

出版業界界隈では、とかくネガティブな話題が多くなりがちな昨今ですが(また、自身の1年を振り返ってもいろいろと忸怩たる思いはありますが…)、時間・空間のスケールを少し広げた視野で新しい1年を明るく迎えたいと思います。

どうぞよいお年を!