AIと創作物

2017.03.01

日本マイクロソフト   田丸 健三郎

ここ数年AI・機械学習などのキーワードを耳にすることが非常に増えてきている。私自身の業務においても、IoT、ビッグデータと共に頻繁に使用される用語がAI・機械学習だ。(厳密にAIと機械学習はそれぞれ異なるものと考えているが、AIで括られることが多いことからここでは機械学習であってもAIと表記する。)

10年近く前は多くのシステムが社内のサーバーでソリューション、サービスをホストする所謂オンプレミスで運用されてきた。しかし、ここ数年で急速にクラウドサービスが普及し、社内システムにおいてもクラウドでホストすることが一般的になってきている。コスト、セキュリティ、パフォーマンスなどあらゆる面で優れているクラウドの普及により情報の収集と分析にも大きな変化をもたらし、AIの活用を身近にしている。

旧来の分析手法では明らかにできなかった情報をAIの力を借りることにより明らかにできるケースが増えてきている。これにより公開した情報には企業秘密、個人情報が含まれていないと考えられたデータであっても、AIを活用することでそういった情報を明らかにできてしまうケースが出てきている。また、分析だけでなくAIによる二次創作も積極的に試みられるようになってきており、創作物の定義、即ち権利に関して大きな議論を巻き起こしている。内閣府 知的財産戦略本部が設置している委員会(座長 東京大学 渡辺俊也先生)の議事録などは大変興味深い。

ここで「SCIgen」を紹介したい。これはマサチューセッツ工科大学が2005年に作成したAIプログラムで与えたキーワードをもとに自動的に論文を作成してくれるといったものだ。下記のURLから誰でも試すことができるこのAIプログラムは、与えたキーワードをもとにもっともらしい論文を作成してくれる。面白いことにこのAIを使用して作成された論文の1つが2005年にWMSCIで受理されている。
https://pdos.csail.mit.edu/archive/scigen/

私の辛い通勤を楽にしてくれる小説。人が書いた小説とAIが作成した小説を見分けることができない時代が近い将来くるだろう。AIが学習に使用した小説、それをもとに作成された小説、AI技術だけでなくAIにとって学習する上で重要なデータである人による著作物について、これまでに無い視点でその権利関係を考えないとならない時期がきている。

最後にマイクロソフトが進めている”The Next Rembrandt”(次のレンブラント)プロジェクトを紹介したい。これは芸術とアルゴリズム、データと人によるデザイン、テクノロジーと感情の関係の潜在的な課題に関する議論を活性化させることを目的としたプロジェクトだ。例えば、AIが創り出すものには元となるものが存在する。それは、そのAIが学習する為に使用したデータとしての他者の創作物だ。芸術家も成長の過程において様々な作品の影響を受けていると想像される。人と異なり、AIの場合は学習に使用したデータが明らかであることが大きな違いであり、権利関係を複雑にする要素をはらんでいる。

 
https://news.microsoft.com/europe/features/the-next-rembrandt-blurring-the-lines-between-art-technology-and-emotion-2/

AIと創作物の今後の展開に注目したい。