海外に侵される日本のデジタルコミック

2017.12.07

パピレス  天谷 幹夫

1.はじめに

事務局さんから私に、このキーパーソンメッセージの番が回って来ましたよと連絡がありまして、はたと困りました。今回で4回目ですし、前回までやっていた、「次世代コンテンツ」関連 https://www.jepa.or.jp/keyperson_message/201505_2425/ も、皆さん読み飽きただろうと思いまして。いろいろ考えているうちに、自分が今、一番、危機感を抱いていることを皆さんに訴えてみようかと思っていたら、上記のようなセンセーショナルなタイトルになってしまいました。私は、スマホも携帯も無い1995年に、将来電子書籍の時代が来るのではないかと空想し、電子書籍の配信を始めた輩なので、「海外に侵される日本のデジタルコミック」と言いましても、このまま行くと10年後にそうなってしまうかも知れないという空想だと思って、お読みください。

 

2.韓国、中国の電子書籍の歴史とデジタルコミックの発展

韓国での電子書籍の歴史は日本に劣らず、古くから始まっています。1997年に始まった「Barobook」を最古参として、「Booktopia」や「Naver」、「Netmarble」、「Daum」、「Nate」、「Bugs」、「Hitel」、「Sumson」など数えたらきりのないくらい電子書籍配信サイトが現れました。しかし、売上は2010年頃でも韓国書籍全市場の数%と伸び悩み、電子書籍配信サイトが入れ替わり立ち代わり参入・撤退を繰り返したのは日本と似た状況でした。

しかしながら、2003年からWEBTOONと言われる縦スクロール形式のコミック(以下タテコミと称する)の無料サービスが「Daum」などで始まり、2013年から「Lezhin」や「Toptoon」などのコミック専門の有料サイトが売り上げを伸ばしはじめ、「Kakao」や「Naver」もこれに参加しました。近年では、無料も含めた読者数は、韓国総人口5100万のうち1700万人とも言われ市場が急激に広がっています。

一方、中国では、2000年頃に「漢王書城」や「方正Apabi」などの電子書籍配信サイトが現れ、2008年には、教育書、実用書、文芸書など総合的に81万冊を掲載していました。これらのサイトは、彼らが開発した電子書籍リーダを電子書籍と併売することが目的でしたが、中国の電子書籍市場も2008年で、34億円とそれほど伸びませんでした。これは、2000年代に日本の大手電機メーカが次々と電子書籍リーダを開発しましたが、売上がそれほど伸びず撤退を繰り返したのと似ています。

ただ中国では、2008年頃から始まった「盛大文学」や「中文在線」を始めとする無料投稿サイトにおいて、エンタメ系の小説作品がどんどん増加し、読者人口も数億と言う単位に膨れあがりました。もともと、中国の紙書籍出版は、政府の規制もあり、小説などエンタメ系の出版物は少なかったですが、規制の少ないネットの投稿サイトで火が付いたと言えます。その後、2015年に「盛大文学」を運営する「Shanda」は、中国最大のSNS企業「Tencent」に買収され、「閱文集団」となり、2017年に香港取引所に上場し多額の資金を調達したことでも有名です。掲載するエンタメ作品数は300万とも言われています。

一方、中国のコミック配信においては、日本漫画も掲載されている「有妖气」、「腾讯动」、「网易漫画」、「卡科漫画」などが読者を集めていましたが、近年では韓国の漫画が大量に掲載されるようになりました。この韓国の影響で、2014年頃からタテコミ中心の無料投稿サイトが現れ、「可米酷漫画」や「快看漫画」などが、1億人の読者を集めたとも言われています。

 

3.韓国デジタルコミックの世界展開日本への進出

これらのデジタルコミックの発展において、注目すべきは、韓国の「Lezhin」や「Toptoon」などの配信会社は、このタテコミの漫画を描く若い漫画家を集め育てて、タイトルをどんどん増やしていることです。また、韓国政府の文化体育観光部が漫画産業を振興しようと後押ししているという話もあります。

また、中国でも政府が漫画産業の育成を目的として、北京、上海、深圳などの主要都市に漫画学校を設立するという話もあります。これら政府の政策と「可米酷漫画」や「快看漫画」などの漫画投稿サイトは、韓国と同じように中国の漫画家を集め育成しタイトルを増やしています。

韓国や中国の狙いは、これらのオリジナル漫画を世界的に広めて行き、家電や機械の輸出を拡大したのと同じように、漫画やアニメを輸出産業として育てようと考えているように見えます。具体例として、韓国漫画配信会社が、最近、日本へどんどん進出しています。「LINE漫画」や「Kakao」や「Naver」だけでなく、「Lezhin」、「Toptoon」や「Comico」などもサイトを設け、オリジナルのタテコミ漫画を提供しています。このタテコミの漫画は日本でも若い人に人気があるようで、「Comico」などはアプリのダウンロード数が2016年に2,000万を達成したとアナウンスしています。

 

4.タテコミはデジタルコミックを変える

私が、この動きを何故脅威と感じているかと言いますと、デジタルコミックにおいては、このタテコミ形式が将来、市場を席捲するのではないかと思えるからです。スマホなどのデジタル機器において、韓国や中国でタテコミが多くなって来たのは、進化における自然な流れとも言えます。2,000年代の初めは、電子書籍配信はパソコンが中心でした。このパソコンでインターネットを通して漫画を見せるには、ブラウザを使う方法が最も簡単で誰でも始められました。漫画の元はイラストですが、投稿サイトでこのイラストを何枚も書いて、物語にすれば漫画になります。そのイラストをブラウザの縦スクロールを使って、縦に並べればタテコミになるのです。そのパソコンで発達したデジタル漫画が、スマホ時代のブラウザやアプリに適合したともいえます。

この流れは、紙本における日本の漫画の発達を思い出させます。日本で漫画の元祖は、横スクロールする巻物に描かれた鎌倉時代の鳥獣戯画ですが、江戸時代には、木版印刷を使った絵本、「黄表紙」が物語を1枚1枚の絵で表した最初の漫画と言えます。その絵本を戦前の「のらくろ」が1頁に3段縦組みにして、コマ割りの基にしました。さらに、戦後すぐに漫画を出し始めた手塚治氏以降は、1ページに6コマや8コマの組みを入れ、右から左、下段に移るようにしました。さらにそのコマを破って、吹き出しを出したりしたのは、藤子不二雄氏とか、ときわ荘の人たちです。それ以降は、少女漫画家などが、さらに複雑ないろんな形のコマ割りを開発して現在の漫画雑誌の版面形式に至っています。戦後、貴重な紙を使って漫画を出版しようとすると、コストの点からもできるだけ1頁にコマ割りを多く詰め込もうとしたのは自然な流れであろうとおもいます。

これに対して、スマホの画面で漫画を見せる場合、見易さとコストの比較から考えれば、版面形式の横スクロールではなく、タテコミに成るのは自然な流れで、まさに、2013年に書かせていただいた、キーパーソンメッセージ「新しき器には新しきコンテンツ」https://www.jepa.or.jp/keyperson_message/201302_389/  を実現したものと言えます。

さらに、版面の漫画には、版面のコマ割りに適した表現方法があるように、スマホのタテコミにも、縦スクロールに適した表現方法があります。韓国や中国の新しい漫画家はどんどんその漫画を作っています。日本でもこの流れを起こさないと、10年後に漫画市場は韓国や中国の漫画家に席巻され、現在、ヨーロッパで浮世絵が中国のものと思われているように、20年後には、漫画も中国が発祥と思われるのではと、私は危機感を抱いています。

 

5.まとめ

私どもパピレスでは、この海外勢に劣らないために、及ばずながら2016年からタテコミの製作を始めています。もちろん、新しい漫画家を育ててタテコミを書いて貰うのが理想ですが、私どもに向いた方法として、過去の紙版用に書かれた漫画のコマ割りを編成し直して、タテコミにしています。さらにスマホに最適化するために着色も行って、カラー漫画にしています。従来の版面形式の漫画に比べれば、数量は未だ僅かですが、徐々にお客さんの認知度も高まって来ています。今後、この日本版タテコミを英語圏や中国語圏にも広めて、韓国漫画や中国漫画だけでなく、日本漫画の良さを世界的に知ってもらおうというのが、私どもの願いです。

興味のある方はRenta!のサイトへ来ていただいて、タテコミコーナで試読をしていただければと思います。