IGASにみる印刷のデジタル化について

2018.08.06

共同印刷  長田 良幸

 先日、ある社員教育会社が主催する、部長級の管理職セミナーに参加しました。変化する市場に対応できる、企業変革を担うビジネスリーダーのための教育と銘打った連続研修で、そのセミナーにはメーカーを始め金融・運輸・流通・建設など多様な企業の管理職が30人程集まっていました。
 その際「マーケティング戦略」と題して、講師が次のような質問をしました、「みなさんの中で、宅配の新聞を購読している方はいらっしゃいますか?」。部長級の研修ですから年齢は40代以上と思われるメンバーの中で、購読している人はほんの数名でした。しかもその少ない中のお一人は、「うちのカミさんが『●●新聞』の社員なんで…。」。
 有料の連続研修に参加するようなモチベーションの高いビジネスパーソンでさえ(だからこそ?)、全国新聞を購読している人は全体の1割にしか過ぎないのです。「デジタル新聞」が普及し、ニュースの受け取り方が多様化していることを良く表していました。
 次に講師は尋ねました、「それでは、電子書籍を読んでいる方は?」。挙手をした人は、全体の半分くらいでしょうか。講師は続けて、「デジタル新聞が出始めたとき、書籍もいずれ全部デジタル化すると話題になりましたが、現状はどうでしょう?マーケティングで成功するのは本当に難しいのです。」とコメント。この研修はマスコミや出版業界向けではありませんでしたが、それだけ「電子出版」の問題が一般化しているという事でしょう。
 「コンテンツ」という情報を加工して伝達することを生業としている印刷会社にとっては、このような媒体のデジタル化と並んで、加工・伝達方法のデジタル化への対応にも適切に対応しなくてはなりません。先月26日から31日まで東京ビッグサイトで開かれた「IGAS2018」(国際総合印刷テクノロジー&ソリューション展)は、6日間で約55,800人の来場者を集めました。総来場者数は3年前に開かれた時とほぼ同じでしたが、今回は特に海外からの来場者が5,000人と増加しており、実際に見学した時も、見学ツアーなどグループで視察している海外来場者を多く見かけました。
 オフセット印刷機が自動化・標準化のためにデジタル機能を搭載しているのは従来と変わりませんが、今回は「オフセット印刷に代わるデジタル印刷」がより大きく打ち出された展示会でした。展示会場では、デジタル印刷のメリットである高速化などの生産の優位性、品質の安定性、デジタルの高付加価値などを提案する各デジタル印刷機メーカーのブースに、来場者があふれていました。「オフセット印刷とデジタル印刷は別物」という認識が広まりつつあるという現われでしょう。
 「マーケティングは難しい」という先日の研修講師の言葉を反芻しながらも、生産工程も含めた印刷のデジタル化という現在の印刷を取り巻く状況を注視し、変革のために大胆に踏み出す必要性を痛感しております。