何をいまさら

2018.09.12

研究社  関戸 雅男

久しぶりにJEPAニュースのコラム執筆の順番が回ってきた。最近はこの方面のことをあまり考えていなかったので、三瓶事務局長の期待に応えるトピックが思いつかない。困った。ということで、皆さん先刻ご承知、何をいまさらの話でお許しを乞う。忙しい人は読まないで。

インターネットは便利で楽しい。わたしの趣味は天文すなわち天体観測と鉄道模型。いつまでたっても初心者の域を出ないわたしにとっては、どちらの趣味も対象に関する情報とソリューションの発見を外に求めることが欠かせない。これを得るのにインターネットはすこぶる有用で活用のし甲斐がある。検索結果をブラウズして回ると、天文であれば見落としたくない天文現象を詳細なデータとともに誰かが教えてくれるし、当日の観測条件の重要な要素である天気や月齢も簡単に知ることができる。望遠鏡を自作することもあるが、ファインダーのマウント方法や鏡筒の三脚への固定方法が考えつかなくても、適当なキーワードで検索すると多くのメーカー製品の写真や自作派の方々がご自身の工夫を記した記事に行き当たり、ヒントが得られる。鉄道模型の世界もご多分に漏れず電子化とそれによる自動運転化が進んでいる。しかし自動運転を古典的な方法で実現するのはそれはそれで楽しい。たとえば、車両の連結は連結器のデザインで解決済みだが、連結の開放はいまだこれといった方法が確立されているわけではない。これも愛好家による様々な工夫が行われていて、ネット上を探すと、なるほどね、いやこれはいまいちでしょといったいろいろなアイデアが出てくる。こうした趣味の世界の情報やソリューションをこれまでアマチュアは雑誌や同好の士との交流で得てきた。それは一部今もづづいているが、相当な部分がインターネット上に移ってきている。ローカルに限定されていた交流の輪はインターネットによって格段に広がり、雑誌のもつ紙数の制限や編集者の嗜好、バイアスから解放されて網羅的といってもいい情報へのアクセスが可能になった。事前に多くの時間を費やして情報取得のための準備をすることも必要が少なくなった。ときには自分のささやかな発見を人と共有するよろこびを味わうこともできる。SNSが大はやりで、それに伴う危険も指摘されている。安全な利用技術の身に着けよう。悪いハッキングによる社会の崩壊は深刻な不安だ。しかしあらゆる技術は危険を内包している。危険回避策の開発は技術開発の最優先課題だ。

ここで話をむりむり電子出版に移さなければならない。出版物の売上はここ十数年右肩下がりが続いている。わたしは電子出版に長年かかわってきたが、紙の本を読まないわけではない。逆に紙の本でなければ読まないというわけでもない。もちろん電子化されていればそれを読むことも多いが、そうすることが多いというにすぎない。スマホの普及で電子本を読める環境は急速に拡大し万人のものになりつつある。つまり読書手段はかつてに比べて多様化している。そんな中、多くの人の読書行動はわたしとそうは違わないのではないか。それなのになぜ出版業はふるわないのか。考えられるのは、出版社の生産物と読者の求めるものとのミスマッチ。コンテンツの良否はおくが、出版物は時代のニーズに合っているのか。一例に過ぎないが、情報に対する要求は体系的なものに対する場合もあれば断片的なものへ向かう場合もある。日常的に求められるのはむしろ断片的な情報が多いと考えられるが、断片的な情報提供は書物ではけっこう難しい。また伝統的な出版社以外からの生の情報提供が増えているということ。こうした情報の提供手段としてインターネットが強力な媒体となっていることは疑う余地がない。企業や個人がその気になればインターネットを通じて自身のもつあるいは生み出した情報を発信することが容易にできる。わずらわしい手続きもいらず即時性もある。世間の目からすればこれも電子出版だ。ほかにも業界不振の理由はたくさん考えられる。経済活動の様相は刻々と変わる。ボッーっと生きていてはチコちゃんに叱られる。つらいな。変化に即した行動の選択が必要だろう。