18 農と食の「ルーラル電子図書館」 (小林 誠)

 私たちの運営する電子図書館は、その名に「ルーラル」(rural:農業の/農村の/田舎の……という意味)を冠しているとおり、農業を中心とした出版物を電子化し、インターネットで公開している有料・会員制のサイトです。1996 年にオープンしました。当時はインターネットの普及が急加速し始めた時期ですが、まだブロードバンドという言葉も一般的でなく、ユーザのいる農村の多くはネット環境も十分に整っていない状況でした。それでも私たちは「農」とネットワークとの結びつきが極めて重要であると考え、新しい事業に着手しました。
 主要なコンテンツのひとつである月刊誌『現代農業』は、その読者の多くが、バックナンバーをいつまでも手元に置いています。農業の情報は「古くならない」のです。そして農業は実に様々な情報を駆使しながらの仕事ですから、それを自在に検索できることはとても重要です。この事業を本格化させるきっかけのひとつは、読者から「目次をパソコンで検索できないか」という要望が数多く寄せられたことでもありました。
 年月がたってもすたれない記事がたくさんある一方、現代の農業は新しい技術を積極的にとり入れ、次々に開発される資材を使いこなすことが必須である点も見逃せません。それらに関する情報がきちんとメインテナンスされていることが重要です。雑誌はもとより、専門的な技術書を「加除式出版物」として刊行を続けてきた歴史がある農文協にはその準備ができていました。
 そして私たちはパソコンという機械を、農家が必要とする情報を自らが編集する道具ととらえ、ユーザを単なる読者から「自分の本を自分でつくる」主体に変えるものと位置づけました。作物や家畜を相手にする農業には、画一的なマニュアルは通用しません。地域と人間の個性を生かすには、農家は「自分の本」を自らつくり、それを書き換えながら経営に役立てていくのです。
 そればかりか最近はすっかりおなじみになった、ネットを駆使して消費者に直接農産物を届ける農家は、「物」だけではなく同時に様々な「情報」の発信者ともなっています。パソコンとネットワークの普及し始めた当時はその条件が整いつつある時代でもあったのです。
 蓄積される「古くならない記事」と「日々更新される情報」の中から、自分に合ったものを的確に引き出し、使いやすいように編集していくと同時に、仲間や消費者に対して、空間を超えて情報発信をしていくときがやってきた……「農」の現場からは一見距離があるようにみえる「電子図書館」ですが、私たちはむしろ「農でこそ生かせる」と考えています。
 「食」については「日本の食生活全集」が好評です。食生活が地域の自然や農業と密接に関わり合っていた大正から昭和にかけての各地の食事をお年寄りに聞き書きをした貴重な記録ですが、食材や調理法を手がかりにした検索が可能になっています。これは本づくりのときからデータベース化を念頭において編集をしてきた成果ともいえます。
 このように私たちは、ルーラル電子図書館を、長年取り組んできた本づくり・雑誌づくりを新しい環境下でもうひと展開させる活動の拠点として位置づけてきました。
 これまで何度かのリニューアルを重ね、タッチパネル対応の「JA 版」(農協に対するサービス)や、学習コーナーを充実させた「高校版」など、新たな提供形態を模索しています。
 会員でなくても、検索だけなら無料で誰にでもできます。読者にとっては電子索引として活用できる便利なサイトになっています。一度アクセスしてみてください。〈http://lib.ruralnet.or.jp

◎小林 誠(こばやしまこと)農山漁村文化協会からJEPA に参加