Accessible Books Support Center設立に向けて 5th Apr, 2022 ABSC準備会 座長代行 O2O Book Biz株式会社表取締役 落合早苗 はじめに、落合早苗とは何者か、ということを簡単にお話ししておきたいと思います。 私は出版社の社員ではなく、また、書店、取次、電子出版などの事業者でもなく、出版業界団体の職員でもありません。 日本出版インフラセンター、JPOと深い関わりがあり、お仕事もしておりますが、業務委託として出版情報登録センター(JPRO)をお手伝いしているという立ち位置です。 2009年までは出版社グループの一員でした。2004年にインプレスに入社して、電子書籍事業に従事してきました。 今や業界のスタンダートとなったインプレスの『電子書籍ビジネス調査報告書』の編集や執筆にも長くかかわっております。 ここに書いてある著書『なかったことにしたくない』のサブタイトルについている、「hon.jp」というのは、2005年に立ち上げ、2018年まで運用をしていた電子書籍の検索サイトです。 このサービスを提供していた株式会社hon.jpという会社は、インプレス100%子会社としてスタートしましたが、2009年にグループから独立しました。 検索サイトというポジションから、出版社をふくめた、あらゆる関係者と等距離でつきあうよう心掛けてきました。 在職中は大変エキサイティングな経験をしてきまして、それを電子書籍にまとめた本です。 おかげさまで「続きが気になって一気読みでした!」というご感想をいただき、ご興味おありでしたら、ぜひ主要な電子書店にてお求めください。 アマゾンではオンデマンドでも対応しております。 さて、そんな私がこれから出版業界の読書バリアフリー法対応に向けて情報を発信していかなければならないABSCの座長代行としてご指名を受けたわけですが、 ABSCもまた、関係する事業者や団体とも等距離でつきあっていくことが求められているという理解です。 私の過去のこうした経験を生かせればいいな、と思っております。 また、専門がデータベースやメタデータなので、出版情報登録センター、略してJPROの前身であった近刊情報センターの立ち上げのころから日本出版インフラセンターからお仕事を受託して関わってきました。 あとで詳しくお話しますが、Booksでは読書バリアフリー法に対応する出版物がわかるような表示を検討しております。 前置きはここまでにして、読書バリアフリー法について。 私自身も、この任について、この法律を「自分事」として考えることで見えてきたことなどを、簡単にお話しいたします。 読書バリアフリー法とは。 読書バリアフリー法について、多くの方は、「なんとなく」はおわかりかと思います。正式名称は「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」です。 視覚障害者等というのは、 視覚障害,発達障害,肢体不自由その他の障害により,書籍(雑誌,新聞その他の刊行物を含む。以下同じ。)について,視覚による表現の認識が困難な者 と定義されています。 必ずしも「視覚的な障害がある方」が対象ではない、ということは、各自心に留めておく必要があると思います。 参議院でこの法案が成立したのが、6月21日、公布・施行まで1週間というスピードで、大きな特徴としては、「読書」に特化したバリアフリー法であることです。これは、先ほど植村先生からご説明があったように、マラケシュ条約を批准したことが背景にあったということです。 もうひとつ、これは特に出版社、商業出版という観点からはもっと理解した方がよいと思いますが、この法律は、「買う」ということにも対応しているということです。 これまでは、図書館やボランティア団体などによる点訳は、「無償・無許諾」が前提でした。それが必ずしもそうではなくなった。商売として組み込んでよくなった、これは読書バリアフリー法で出版社であればきちんと理解しておかねばならない特徴かと思います。 ちなみに、文科省さんでは、こんな啓発用のリーフレットが作られています。 ここで、「書店で販売される本も、一層利用しやすい形式になっていきます。」とプレッシャーをかけています。ただし、「ぜひサービスを利用してみてください」とも書いてあります。ここで「書店」ではなく、「サービス」と言っているところはポイントだと思います。特に、電子書籍に対する期待が大きかったことを示す文言ではないかと、私は考えています。 出版業界のこれまでの対応についてざっと振り返ってみましょう。 電子書籍ビジネス調査報告書は2003年から発行されていますが、2007年度、ガラケーの時代にコミックの売上が7割を超えて以降、ずっと高い構成比できています。 電子書籍だけで見れば、8割以上という高水位できています。電子雑誌を合わせ、dマガジンが話題になった2015年度に一度だけ70%を下回ったことはありましたが、今やすべてのジャンルで8割を超えています。 1月に発表になった出版科学研究所の調査でも、2021年の電子書籍市場は4662億円、うちコミックは4114億円、なんと88%という驚異的な構成比となっています。 つまり、電子書籍はいいと言いながら、自動読み上げ機能の実装が難しいマンガが8割以上を占めていて、出版社の側では、実は世間で言われるほど電子書籍は売れているという実感を持てていないというという現実があります。これはご理解いただきたい。 総務省のレポートを引っ張ってきましたが、平成30年度、つまり2018年、施行の1年ほど前の調査ですが、読書バリアフリー法に向けて各社がどう対応すべきか迷っていた時期とはいえ、 対応しているストアは外資系ストアとごくわずかな国内資本のストアのみで、その後も増えていません。むしろ、パピレスがRentaに統合されて減っているというのが実態です。 電子図書館サービスも期待されていました。が、そもそも電子図書館の導入が遅れています。コロナ禍で非接触型のサービスとして電子図書館が見直され、補正予算も出て増えたとはいえ、電子出版制作・流通協議会の最新の、2022年1月1日付の調査結果でも公共図書館の導入館数は265館です。 とはいえ、一般書の電子書籍化は進んできていると言っていいと思います。 トーハンの2021年ベストセラーがどれくらい電子書籍化されているかを調べまました。一部、電子書籍ではなくアプリになっているというものもありますが、85%は電子書籍化されているという結果です。サイマル配信されているものも多く、65%が書籍と同日の発売日となっています。1か月以内までだと75%というよい結果が出ています。 この調査は、毎年、インプレスのビジネス調査報告書にも掲載していますが、年々電子書籍化率は上がってきてはいたものの、ここまで良い結果ははじめてでした。 では、ABSC設立までの動きを見てみましょう。はじめに書協で、AB委員会が立ち上がります。書協の会員社は現在394社とありますが、出版社は3000社弱と言われています。このため、普及促進するには、日本出版インフラセンター、JPOと連携するのがいよだろうということになりました。出版情報登録センター、JPROは利用者が2000社を超えています。AB委員会と連携する形で立ち上がったのがABSC準備会です。 では、ABSC設立までの動きを見てみましょう。はじめに書協で、AB委員会が立ち上がります。 2021年1月には、第一回のAB委員会が開催されました。 書協の会員社は現在394社とありますが、出版社は3000社弱と言われています。 このため、普及促進するには、日本出版インフラセンター、JPOと連携するのがいよだろうということになりました。出版情報登録センター、JPROは利用者が2000社を超えています。AB委員会と連携する形で立ち上がったのがABSC準備会です。 2021年6月に、JPOの理事会にて、ABSC準備会設置が承認されました。 第1回の準備会で、まずは出版社に対して案内を発送しました。12月にはJPROの説明会において、書協の理事長であり、AB委員会の委員長でもある河出書房新社の小野寺さまから、ABSC設立に向けての経緯についてのご説明がありました。 出版社向けに案内をお送りした時に、ずいぶんお問い合わせがありましたが、理解度がバラバラだなと感じています。 おそらく、経営者に近い立場、著作権関連の部署の方、編集部、販売部、電子書籍の部署など、読書バリアフリーを、どういう立場から見ているか、ということによってもかなり見える景色が違うのかな、と思いました。 ちなみに、昨年11月1日付で出版社2200社に対してABSC準備会を告知した時に、各社に連絡窓口を設置するようお願いしております。 回答があったところは330社程度です。 代表者の方宛てにお送りした文書なのですが、「届いていない」という声も多く聞かれました。 書協代表理事とJPO代表理事の連名でお出ししたのですが、ダイレクトメールと勘違いされて、放置されてしまっているケースも多いように思います。 お手紙がなくても、JPOのウェブサイトから、今からでもご登録できますので、ご対応いただければ幸いです。 窓口といっても、単にABSCからのお知らせを集約し、必要に応じて社内に発信していただくだけですので、読書バリアフリーに詳しい人でなければいけないとか、制作技術に詳しい人でなければいけないということはありません。 各部署とコミュニケーションがとれる人であれば、ABSCとしては部門は問いません。 では、具体的にABSC準備会の活動を軽くご紹介していきます。 まだ準備会の段階ですので、それほど活発に動いているわけではありません。 まずは、読書バリアフリー法について、ABSCについてなど、主には業界内の一定の理解を促すために、情報共有をしていきます。 次に。できるところから、電子書籍の自動音声読み上げ機能、text to speechを促進を考えたいと思います。 また、冒頭でも少し述べましたが、JPOが運営している本の総合データベース、Booksのアクセシブル対応をしていきたいと思います。 もう少し詳しくお話をしていきますと、ひとつめ、 業界内での情報共有のため「ABSC準備会レポート」を発信していきます。 業界内に対する理解、業界外に対する理解を促進するツールとして、 冊子体とウェブとで展開する予定です。 現物ができて、各出版社や関係団体に発送できるのは5月になると思いますが、すでに創刊号の取材もはじまっています。 例えば…すでにアクセシブル対応をしている出版社の事例をご紹介します。 現代書館さんが、20年前から、書籍の奥付に「活字で利用できない方のためのテキストデータ請求権」というのを付けています。 問い合わせにどうご対応されているのか、どういうところからの問い合わせが多いのかなどを取材し、記事にする予定です。 また、日本でオーディオブックの草分け的な存在であるオトバンクにも取材しています。 オトバンクは、JEPAが主催する「電子出版アワード」において、2018年に大賞を受賞しています。その際の上田会長のスピーチが感動的なものでしたが、それをあらためて取材しています。 TTSを推進するという点で競合することはないかなど踏み込んだ質問もしておりますので、こうご期待。 それに、私自身も学びたいということもあって、点訳の現場を見せていただきました。それもレポートをしたいと思います。 紙だと文字数に制限がありますが、足りないものはウェブで展開していく予定です。 またTTSについては、「TTS推進WG」を設置し、検討していく予定です。 ここでは、技術的なことを研究し推進するというのではなく、関係各社がTTS対応できるよう環境と整えていく場である、お考えください。 先ほども申し上げた通り、現状ではTTSに対応している電子書店は限られています。 実際にストアさんにヒアリングをしたことがありますが、「ストアの判断で、勝手にTTS対応はできない」つまり「出版社や著者の許諾が得られていないので、対応していいかどうかわからない」という声が圧倒的です。 こうした、現在障害になっていることを取り除けるよう、ABSCが関係団体と連携したり、理解や協力を求めたりしながら、ハブの役割を果たしていきたいと考えております。 Booksでの進捗状況です。 Booksはこれまでは「紙の出版物」のデータベースでしたが、 これに電子書籍やオーディオブック、大活字本を含めたオンデマンド本なども掲載されるようになります。 今後は電子書籍のうち、TTSに対応するものや、それがどこで入手できるかといった案内にも対応していきたいと思いますが、今はまだここまで。 今期はBooksそのもののアクセシビリティ対応も予定しています。 これはABSC準備会に関わる当事者からのお願いでもあります。 こういう会ができると、まるですべての出版物がすぐにでもバリアフリーになると考える方が、出版業界外ともに多いようなのですが、できることから少しずつ、取り組んでいきたいと考えていきます。 TTSをどうしていくかと、電子データの提出をどう進めていくかとは分けて考え、進めていきたいですし、 一般書と専門書や学術書、 あるいはこれまでのものをどうしていくかと、これからどうしていくかも全くベクトルが異なります。 どういう障害をお持ちなのかにおっても、求められるものも違ってくるはずです。 こうしたことを整理し、一歩一歩進めていく所存です。 どうぞご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。 読書バリアフリーについて、出版業界の取り組みについて、ABSC準備会ほか、出版業界の取り組みとして、文字・活字推進機構でオンラインセミナーを公開しています。 ここにあるURL、QRコードからアクセスできますので、ご覧いただければと思います。 https://www.mojikatsuji.or.jp/news/2022/02/25/5469/ なお、後日お問い合わせをされる場合についてご案内をいたします。 現在、JPOはリモートワーク中で、電話が受けられなくなっております。 何かありましたら、電話ではなく、メールでお願いします。 代表のメールもあるのですが、日々お問い合わせが多く、埋もれてしまう可能性もあるので、私宛、 ochiai@jpo-center.jp までお願いいたします。 本日はご清聴ありがとうございました。