“電子ならではのコンテンツ”を求めて

2006.08.05

新潮社  的川 史樹

 電子出版の仕事に携わるようになり数年がたつが、「電子ならではのコンテンツとは何か」というのが変わらざるテーマである。
 新潮社の刊行物の内容は、文芸、ノンフィクションからコミック、グラビアまで多岐にわたる。そのなかから何をどう料理していくのか、試行錯誤を繰り返してきた。 新潮社の電子書籍の企画としては、『CD-ROM版 新潮文庫の100冊』や新潮ケータイ文庫が知られているが、ここでは新しい動向として雑誌コンテンツについてご紹介したい。
 雑誌コンテンツの企画をたてる場合、まずは各号の雑誌全記事を一括で売るパターン、あるいは記事毎のバラ売りをするパターンが考えられる。しかし、それとは別の形の打ち出し方もあるのではないかと思い、それを具体的な形で実現したのが「フォーサイトeBooklet」である。
 「フォーサイト」は定期購読の国際情報誌で、国内外の著名な執筆陣を抱え、ジョージ・ソロスやビン・ラディンの存在をいち早く日本に伝えてきた。しかし書店での販売を行っていないため、いかにして世に同誌の存在を知らしめていくかが課題である。私は電子書籍の仕事に携わる以前に同誌の拡販部隊にいた頃から、同誌を知らしめるにはウェブ媒体も有効ではないかと思っていた。そこで執筆陣や編集長の了承を得て、2004年12月に電子書籍版「フォーサイト」ともいうべき「フォーサイトeBooklet」を立ち上げた。
 毎月発行される「フォーサイトeBooklet」は、本誌編集長と電子書籍スタッフが毎月会議を行って特集のテーマを決め、本誌の最新号あるいはバックナンバーからいくつかの記事を選んで電子書籍化し、PC、PDA、携帯電話の各電子書店にて200円(レンタルは150円)で販売している。販売当初はテーマが古びることを懸念し2ヶ月間の限定販売としたが、読者からのご要望もあり2005年8月号からは継続して販売している。
 販売成績を分析すると、PC、PDAサイトでの売上が90%を占める。なかでもPDAでの利用が多く、これは新潮社のコンテンツでは初めてのことであった。一番好評なテーマはアジアもので、中国、韓国、北朝鮮とどの地域を特集しても売行好調である。
 さて、当初の目的であった本誌の販売促進であるが、eBooklet経由で今まで2ケタの読者を獲得できた。2ケタというのはまだまだ発展途上の数字だが、200円の電子書籍を読んだことがきっかけで、1万2千円の定期購読料を払う読者がじょじょに増えつつあることに、電子書籍の可能性の新たな可能性を見いだした思いだ。
 「フォーサイトeBooklet」の好調を受け、「週刊新潮」の名物コラム「黒い報告書」についても、中村うさぎさん、岩井志麻子さんなどの作品を各電子書店にて100円(レンタル80円)で配信し、携帯電話サイトを中心に好評を得ている。
 「電子書籍に興味はあるけれど、いきなり何百ページのものを読むのはどうも…」という方にも100円、200円といった手頃な雑誌コンテンツを今後も提供することで、読者の裾野を広げることに貢献していきたい。しかし、これはあくまで「電子ならではコンテンツ」にたどり着くための一里塚にすぎないと考えている。
*フォーサイトeBooklet
  紹介ページ http://book.shinchosha.co.jp/e-booklet/
「黒い報告書」電子版
  紹介ページ http://book.shinchosha.co.jp/e_black/