携帯コミック出版社事情

2009.06.01

リイド社  荒井 敏夫

 電子書籍の市場は2002年度が10億円、2008年3月期は355億円とこの5~6年で飛躍的に市場を拡大しています。
 逆に紙の市場は1996年に27,000億円でしたが、現在2兆円を割ろうとしています。講談社でも一時は2,000億円を超える売上がありましたが、2008年度では1,350億円とピーク時の3/4以下に落ち込んでいます。大部数を印刷して利益率が高いコミックだけを見ても、1994年度は単行本と雑誌を合わせると5,800億円が、2007年度は4,700億円程度まで落ち込んでいます。大部数を印刷できる本が少なくなり、発行点数が増える。しかし、読者が望んでいる本かは疑問であり、結果として返品が増えています。実際に良い時の単行本の返品率は17%~18%でしたが、2007年は27%になりました。これだけ返品率が高ければ利益を上げるのが難しくなってきます。
 さて、電子書籍に目を移してみます。355億円の内、携帯電話電子書籍だけで283億円です。2007年3月期は112億円ですから、この2年位で飛躍的に売り上げをのばしています。(但し、出版の失った市場規模からすれば微々たるものですが)。携帯電話電子書籍の中でもコミックだけを取り上げると、283億円の内の229億円となっています。コミックが急激に売上を伸ばしているのは間違いないのです。失ったコミックの紙の市場は1,000億円強ですが、このまま伸びて行くと、疎かにできる出来事ではないと出版社は思っています。
 デジタルコミック協議会が当初は10社程度で2006年10月にスタートし、今は30社を越える出版社が参加しています。また、今年の4月にデジタルコンテンツ推進委員会が雑誌協会で立ち上がっています。
 出版社も今までに無かったデジタル部門を立ち上げて、人材を投入しているところも増えています。当然部署として存在するためには実際に売上を上げていかなければならいので、積極的に電子書籍を作っています。ただ、残念なのは携帯電話電子書籍の市場は紙の本と違う種類の本が売れています。やはりアダルトなコミックが数多く配信されていて、それが売上を牽引しています。誰にも知られることなく購入出来てなにを読んでいるかも知られることがないという事情があるにせよ、紙で売上を上げている本が売れて欲しいと思うのですが、まだ紙で大ヒットしているコミックの多くは配信されていないのだから仕方ないのでしょうか。「デジタルで配信したら紙の売上に響く」と考えている出版人が今でも多々おりますが、電子書籍の市場が疎かに出来ないものと考えるなら、今こそ優良なコンテンツを投入すべきではないかと考えています。