デジタル化資料の限定送信

2013.11.01

岩波書店  桑原 正雄

 国立国会図書館が「デジタル化資料の限定送信」を始めると知らされ、あわてた出版社は多かったのではないだろうか。しかも、現在でも流通している書目が、国会図書館の作成した「送信対象候補資料リスト」に載っていれば、自ら除外手続きをしなければならないと知らされ、憤慨した方もいたのではないか。
 小社でもさっそくリストを取り寄せてみたら、登録されている書目が1万点以上あり、青くなってしまった。これだけの書目が在庫しているかどうかチェックするのに、どれくらい時間がかかるのか、年末までに終わるのか、それを誰にやってもらうのか。あれこれ議論しているうちに、自社の在庫リストをもとにチェックすれば手間が省けることに気がついた。国会図書館に登録されている書目でもっとも新しいのは1968年刊行のものなので、それ以前に刊行した書目の在庫リストを作ったところ、700点程度であることがわかった。このリストにある書目が「候補資料リスト」に載っているかどうかをチェックするのなら、なんとかこなせるだろう。
 国会図書館による「限定送信」の流通への影響と、除外手続きにかかる手間とを考慮して、厳密さは求めないことにした。いま品切でもいずれ重版する可能性があるとか、電子書籍にするかもしれないとか、一つ一つ判断することはしない。それらは実際に重版したり電子書籍にしたりしたときに除外手続きをすればよい。また厳密にいえば、版元で品切でも書店店頭にある可能性は充分にあるが、それも考えない。
 さて、とりあえずどの程度の作業量になるか見極めなければならないと思い、実際に自分でやってみた。在庫リストに載っている書目は圧倒的に岩波文庫が多いので、文庫を刊行順に並べ、チェックしていく。暇を見てやっているうちに、文庫のチェックは終わってしまった。やっていて、もっとよい方法があるだろうとは思ったが、どんな本がどんな状態になっているか見るのも面白いので、このまま最後までやってしまうつもりだ。
 やってみていろいろわかってきたこともある。国会図書館の候補資料リストにある刊行年は、西暦と年号が混在している。だいたいは初刷の刊行年になっているものの、刷りを重ねたものは、最後の刷りの年になっていることもある。第○版、第○刷などとなっていればそうとわかるが、明示してないものもある。同じ本が版を変えて何度か出てくることもある。書誌データの扱いに一貫性がないように感じられる。
 国会図書館が候補資料リストを作成するにあたって、戦前に刊行されたものはそのまま送信対象候補とし、戦後のものについては入手可能性調査をするとしている。ということは、戦前に刊行されたもので現在でも立派に重版し、販売しているものはリストに載ることになる。実際、岩波新書を代表するともいえる『万葉秀歌』(斎藤茂吉)をリストに見つけたときは仰天した。『カラマーゾフの兄弟』(米川正夫訳)、『武士道』(新渡戸稲造)などの岩波文庫、『零の発見』(吉田洋一)、『数学入門』(遠山啓)などの岩波新書ほか、看板書目もリストに載っている。戦前に刊行されたもので現在でも流通しているものは多くないと判断したのかもしれないが、いかがなものか。
 入手可能性検査では、児童書もチェックしたのだろうか。というのは、在庫を切らしたことはないはずの多くの絵本がリストに載っている。世代をこえて読み継がれてきた『ちいさいおうち』もあった。
 すでに述べたが、在庫リストに載っている刊行年の古い本の多くは岩波文庫である。とくに戦前のものはほとんどが文庫であった。逆に言うと、戦前に刊行された文庫で100点ほどのものがまだ重版を続けている(途中で改版されたものもあるかもしれない)。そしてもちろん、それらのほとんどは国会図書館のリストに載っている。また、1950年代に刊行された「岩波の子どもの本」の絵本がいまでも刷りを重ねている。小社は今年創業百年を迎えているが、こうした本たちがいまでも私たちを支えてくれている。