学習指導要領はおよそ10年のスパンで改訂されます。改訂に向けて、2024年12月に文部科学大臣が教育課程の審議機関である中央教育審議会に諮問しました。ここからの議論を経て、2027年度ごろに改訂され、2030年度ごろから実施されます(新しい教科書が使用開始となります)。さまざまな形で報道がなされてはいますが、わかりにくい部分もあると思います。デジタル教科書・教材も広い意味では電子出版、ということで、今すすんでいることを少しご紹介したいと思います。
「デジタル教科書」とは
まずは「デジタル教科書」という言葉についてふれたいと思います。デジタル教科書は、紙の教科書の内容の全部(電磁的記録に記録することに伴って変更が必要となる場合を除く)を、そのままデジタル化した教材で、教科書発行者が作成したものを指す、とされています。教科書発行者ごとに、利用するビューアが異なることはあまり知られていないかもしれません。ビューアを開発、運営する社が複数あり、それらのいずれかを教科書発行社が利用するケースもあれば、ビューアを教科書発行社が自社開発するケースもあり、それぞれ方針が異なります。弊社の場合は株式会社Lentrance が提供するLentrance Reader を利用しています(高等学校では自社開発のビューアを使用している複雑な立場です)。
この間に、法制度の改正がおこなわれ、より紙の教科書の代替としての使用が可能になりました。デジタル教科書の各ビューアには豊富な特別支援機能が搭載されており、紙の教科書では難しかった、個々の特性に応じた細かなカスタマイズが可能です。また、デジタル化に伴う変更として、英語では本文の朗読音声、算数・数学ではドリル問題などの正誤判定や解答表示機能(教科書に掲載されているものに限る)の搭載などが認められ、特別支援機能とあわせ、より「個別最適な学び」につながる利活用が可能になってきました。
国内での議論
冒頭ですこしふれました、国の動向について「教育のデジタル化」を推進するために、中央教育審議会のなかに「デジタル学習基盤特別委員会」が設置されました。ここでは、学校ICT環境の整備やその活用推進のほか、教育データの利活用や校務DXの推進など、多岐にわたる議論がなされています。ひとつひとつが重要な事項なのですが、くわえて、デジタル教科書を含むデジタル教材のあり方も検討事項となっています。「デジタル教科書」は、日本の教育にとって重要な教科書制度と関係します。慎重かつ活発な議論をおこなうため、デジタル学習基盤特別委員会のなかに「デジタル教科書推進ワーキンググループ」が令和6年度より設置されました。
このワーキンググループは、年度ごとにすすむ学習者用デジタル教科書の効果・影響を検証し、さらなる学びの充実の観点から、今後のあり方などを検討するもので、令和6年度末に「中間まとめ」が出されました。そのなかでは、「紙」だけではなく、「デジタル」も教科書として、検定や採択、無償供与の対象と認めるべく制度上明確化していく必要性などがまとめられています。また、一部が「紙」、一部を「デジタル」で、といった「ハイブリッド」な形態の教科書のあり方も方向性のひとつとして示されました。
じつはすでに使われている
じつは、現在すでにデジタル教科書は児童・生徒に提供されています。令和3年度より文部科学省「学びの保障・充実のための学習者用デジタル教科書実証事業」として実証がスタートし、徐々に実際に利用してもらえるようになってきました。年度ごとの実証を経て、文部科学省は令和6年度から、小学5年生から中学3年生までを対象に、学習者用デジタル教科書の段階的な導入をすすめており、英語のデジタル教科書がすべての児童・生徒に提供されています(ついで算数・数学が全体の50ほどの児童・生徒に提供されています)。目下、紙の教科書とあわせて配られているため、使い分けに悩む声も聞かれます。文部科学省からは動画などさまざまな媒体で実践事例が紹介されており、各教科書発行社も授業実践の収集や機関紙などでの情報発信を競っておこなっています。
「デジタル教科書」のゆくえ
教科書発行社としては、物価高、為替の影響を受けて、開発費および配信に必要なクラウドのコストの高騰が大きな課題となっています。指導者用のデジタル教材・学習者用のデジタル教科書、それぞれの開発プロセスを可能なかぎり共通化するなどして、コストダウンを図っているところですが、弊社などの中小の教科書発行社にとって、年々教科書づくりが苦しくなっています。それだけによらず、まだまだデジタル教科書についての議論は道半ばと感じています。
また、ワークやドリルなどのデジタル教材との連携をはじめ、さまざまな教育データとの連携をどのようにおこなっていくべきか、4月当初の繁忙な時期でのアカウント管理をいかに簡便にしていくか、など、デジタル教科書だけで完結しない、多くの取り組むべき事項もあります。まさに荒波にもまれる小舟のごとく翻弄されていますが、向こう岸に子どもたちのよりよい未来があると信じて、船酔い状態で業務に励んでいます。