キーワード設定の現場から(5)

交通ルール

 検索の場面でよく「読みを入れてください」とか「読みで引けます」とかいう。「読み」と言われるものは通常「かな表記」のことだが、その「かな」とはカタカナなのかそれともひらがななのだろうか?
 一昔前の検索システムでは漢字での検索ができないばかりではなく、読みも半角カタカナで入れろ、濁音や半濁音は清音化して入れろ云々とうるさかった。最近はあまりうるさくなくなった。逆にインターネットなどでは「半角カタカナは絶対に使用しないでください」とくる。
 各種の手書きの申し込み書なども含めて読みをひらがなで記述することがずいぶん多くなってきているような気がする。個人的にも漢字に読みを振る場合はひらがなのほうが自然に感じる。カタカナでは少し気持ちが悪い。
 しかし、読みをひらがなで入れるようにしようと考えたとたんに困ったことが起こった。俗に「ヴヵヶ問題」と言われる問題だ。JIS漢字コードにはカタカナにあって平仮名にないものがある。それが“ヴヵヶ”の3文字だ。“ひらがなのヴヵヶ”という文字はJISの文字コード上に存在しない。
 “ヴ”は外来語で最近頻繁に登場する文字だ。かつては「ヴァイオリン」が「バイオリン」という具合に“ヴァヴィヴヴェヴォ”が“バビブベボ”に置き変わっていたのだが、最近は大きな顔をして闊歩している。
 外来語で使用される文字であるので通常は平仮名で書くことはないのだが検索文字列を入力する場合とかな漢字変換で「読み」を入力する場合には困ったことになる。
 次の“ヵヶ”はかなではなく記号に分類するのが正しいらしい。しかし一般的にはカタカナのように思われているようだ。よく考えてみると“ヵヶ”には“か”または“が”と読みが存在する。読みが別に存在する以上は“ヵヶ”は読み文字列にあってはいけないという帰結になり、読みの入力問題からは外れる。
 「ヴヵヶ問題」とは別に音引き記号“ー”も問題になる。音引き記号“ー”は記号だからカタカナでも平仮名でもないが表記のルール上はカタカナの中でしか使用できない。
 こう考えてくると読みをひらがなで入力するのには無理があるが、それでは窮屈だ。検索システム上ではひらがなもカタカナも区別しません、ひらがなでもカタカナでもどうぞという解決方法がもっとも適当だろう。
 さてここで「交通ルール」の読みをひらがなとカタカナで振ってみよう。
 「こうつうるーる」「こうつうるうる」
 「コウツウルール」「コーツールール」
 ひらがなの表記ルールは『現代仮名遣い』という内閣告示で決められていて、長音は原則として前の文字の母音を繰り返し、前の文字の母音が「お」の場合は「う」を使うことになっている。
 カタカナの表記法は『外来語の表記』という告示によるのだが、外来語の長音は音引き記号「ー」を使用することになっている。同じ音を使う文字によって異なる方法で表すよう決められているわけだ。
 和語か外来語かの観点に立てば「交通」は「こうつう」、「ルール」は「るーる」で良いのだが、使う文字で区別すると勘違いすると「交通」を「コーツー」「ルール」を「るうる」と思わず書きたくなる。
 ああでもないこうでもないと考えていくと上記の入力パターンが発生してしまう。これでは検索不能になってしまう。ひらがなで書こうがカタカナで書こうが長音の扱いは和語・外来語の区別に従って「こうつうるーる」「コウツウルール」と記述するのが正しいように思うがいかがなものだろうか?

『情報管理』Vol.40 No.7 Oct.1997 より転載


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