キーワード設定の現場から(12)

読みの検索は四苦八苦

 今年の春は「花に嵐」のたとえどおり天気の良くない日々が続いてますが、この号が出るころは五月晴れの日々が続くと思います。ところでこの「晴れ」は「バレ」と読むということで今回もひきつづいて音の変化の話です。
 前回は「日本、凸版、一匹…」の「ッ」+「パピプペポ」の話でした。日本語ではこの類型ばかりではなく音の連続で音が「ッ」に変化する場合が多いようです。
 「学校」は「ガクコウ」→「ガッコウ」、「楽器」も「ガクキ」→「ガッキ」といった具合です。
同じ「ガク」でも「ゲ」がついた場合は「ガクゲイカイ(学芸会)」、「ダ」がつけば「ガクダン(楽団)」と「ク」を発音します。
上にあげたことばは読みが一つで検索上問題はないでしょう。でも「借家」ということばになると「シャクヤ」と「シャッカ」と二つの読みが生まれます。「家」をどう読むかで促音化するかどうかが変化するのです。単独で「借家」と使う場合は「シャクヤ」が多いと思いますが、「借地借家法」となると俄然「シャッカ」となるから不思議ですね。
 法律名ついでに「独占禁止法」。これを略した「独禁法」。略す前の「ドクセン」に引かれて「ドクキン…」という読みの振り間違いが多く見られます。正しいのは「ドッキン」ですね。
 さてこんな具合に日本語では小さい「ッ」の後ろには清音を好む癖があります。このルールが外来語にも波及すると面白いことになります。
「♪ベッで煙草を吸わないで…」
「ソースといえばブルドッソース」
「ハンドバッにご注意を!」
 ここでは何と「ベッド(
bed)→ベット」「ドッグ(dog)→ドック」「バッグ(bag)→バック」という変化が発生しているではありませんか「tag」という英語が日本語化すると「タック(値札)」と「タグ(標識)」に分かれるのも同じ理由からでしょうね。
 もちろん国語辞典では「ベット」「ドック」「バック」という表記はしていませんが、実際の発音ではよく出会うケースです。お時間があればスーパーの店先でソースのビンをとくとご覧あれ。『ブルドッソース』に出会えます。
  さて「五月晴れ」の話しに戻ります。語が連続した場合に後ろの語が濁音化するというのも日本語の一般的ルールで、「腕時計、心斎橋、文庫本…」いくらでも例があげられます。
 後方一致検索という便利な検索方法があります。「〜会議」とか「〜症候群」などとことばの最後から検索しようという検索方法です。
 「橋」が付く語を集めようと「〜ハシ」と読みの後方一致検索をしても半分しか集まりません。「〜バシ」も調べる必要があります。漢字で検索する場合は問題ない物が読みで検索するととたんに困る語です。
 そこで濁音の清音化という読みの揺れの吸収ルールを考えます。すべての音を清音化して検索すれば、外来語の促音に引っ張られて清音化してしまった語も、「腕時計」「心斎橋」など2語の連続で濁音化するケースも検索可能ですね。
 でも「(経済)特区」も「ドッグ(
dog)」も船の「ドック(dock)」も一緒くた、頭の「ヘッド(head)」と寝台の「ベット(bed)」も一緒に検索されてしまい、なかなかうまくはいきません。「バック(bag)」に至っては「八苦(ハック)」に通じてしまい。読みの検索は四苦八苦。お粗末さまでした。

『情報管理』Vol.41 No.2 May 1998 より転載


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