キーワード設定の現場から(22)

発想する検索

 流行歌の歌詞を集めたCD-ROMがある。このお皿は歌詞の中の言葉で歌が検索でき,歌のタイトルを忘れても歌い出しとか途中のフレーズで目的の歌が探せる。カラオケボックスにあればこんなに便利なものはないという代物だ。
 このお皿,こういった実用的な使い方以外に,思いつきでいろいろな言葉を入れ検索結果を楽むのがとても面白い。
 タバコを吸えば検索キーを「タバコ」に,コーヒーを飲めば「コーヒー」,雨が降れば「雨」で歌を引くという具合だ。
 入れるキーワードによって検索結果が多かったり少なかったりする。私が試したところでは多かった検索語は「酒」「涙」「男」「女」だ。なるほどこれは納得だ。この歌謡曲のキーワードを全部をタイトルに入れてしまった歌,「酒と泪と男と女」がカラオケの定番ソングであることも当然だろう。検索にはこういった楽しみ方もある。
 あるときファミコンの発売年を調べようと記事検索をした。そこで「ファミコン」とキーワードを入れたところ,残念なことにファミコン新発売の記事は出てこなかった。その代わり最近のヒット商品という古い記事が出てきた。
 その記事によるとファミコンは1983年,その前年にレザーカラオケとオーディオCDが発売され,少し前1979年に発売されたウォークマンが当時ブームになっていたようだ。
 元祖マルチメディアのカラオケ,元祖モバイルのウォークマン,CD-ROMの基礎を作ったオーディオCDがファミコン発売の前後に揃ってブームになっている。1980年代の前半にその後時代を動かしていく商品群が次々と発売されたことを知って,とても得をした気分になった。
 検索というと大量の情報から目的のものを探し出す実用的な技術ということになっている。しかし流行歌のCD-ROMで私が楽しんだような検索はさまざまな歌との「出会いを演出する道具」としての検索である。
 「ファミコン」の場合,単に発売日が知りたかっただけだが,検索はもっと興味深い事実を教えてくれた。検索の本当の面白さは「思いもかけないものとの出会い」であるような気がする。
 紙の本の場合,執筆者や編集者はその本の使い方についてある道筋を設定する。読者はその道筋に沿って読み進めることになる。
 しかし検索という場面での編集者の役割は各項目に検索キーワードを設定するにとどまることになる。「編集の道筋」つまり入力される検索キーワードは読者の手に委ねられているのだ。読者の入力する検索キーワードは,膨大なデータを即座に再編集し,無数の新しい知識の体系を作り出してゆく。
 ぎっちりと束ねられた書籍がばらばらにされ,キーワードという号令にしたがって整列する光景はとても知的好奇心をくすぐるものである。
 当然,そこにはゴミがつきものだ。しかしそのゴミこそが新しい発見の糸口になることもある。よくできた検索とは質問に対して的確な答えを出すことだけではなく,思いもかけない発見や新奇な発想を生み出す検索でもありたいものだ。

 今回でこの「キーワード設定の現場から」の連載を終わります。重箱の隅をつつくような話の連続になってしまったかと心配ですが,読んでくださった読者の方々ありがとうございました。
 また広報委員会会報担当 インプレスの齋藤さん、事務局の露木さん、松田さんには、毎月締め切りで心配をおかけしました。この場を借りてお詫びするとともに感謝いたします。

 この連載は科学技術振興事業団 科学技術情報事業本部の『情報管理』誌に1997年6月から1999年3月まで連載したものです。転載を快く許可していただいた『情報管理』の森田さんにあらためてお礼を申し上げます。
 なお、来月より同じ『情報管理』誌で現在連載中の『電子出版のデスクトップ』の転載を開始します。今度は検索という枠組みを離れ、電子出版の現場で出会ったさまざまな話題を幅広く取り上げていきます。なにとぞご贔屓のほどお願いします。
さるまる

『情報管理』Vol.41 No.12 Mar. 1999 より転載


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