電子出版のデスクトップ8

縦の物を横にする(3)


 ひとつの文章を縦にしたり横にしたり、勝手気まま、気分のままに読みたい――『縦横自在電子出版』の道には落とし穴がいっぱいある。今回もその落とし穴の続きだ。
 前回は文字を縦に並べた時と横に並べた時、フォントを使い分けることによって文字そのものはまともに表示できるという話を書いた。問題の句読点も「、。」方式なら縦組みでも横組みでも使えるので問題はない。
 さあこれで完成と思っていたらこんな記号に突き当たった。「↑↓←→」である。文章の中で「(参照→××章)」などと使う。また「↑」とやって前の行を示したり、「↓」とやって次の行を示したりすることもあるかも知れない。この矢印が縦組み横組みでどう変化するか、これも縦組み用フォントを調べてみると分かる。
 横組みフォントの右向きの矢印は、縦組みフォントでは下向きに、左向きは上向き、上は右、下は左になるよううまい具合に対応させてある。
 横組みで右向きとは、文字を送る方向を示す。したがって縦組みでは下向きになるわけだ。というわけで黙って縦組のフォントを使えばうまく対応することになっている。
 これは便利!方向問題はこれで解決!といいたいところだが、残念なことにこんな表現もある。
  「右に述べたように……」
 縦組みで「右に述べた」というのは前に述べたこと。「左にあげる」とはこれからちゃんと言いますよということだ。
 これを横組みにそのまま変換すると読者は右や左を一生懸命捜して首をひねることになる。横組みでは「上に述べた」とか「下にあげる」と直してやらなくてはいけない。
 つまり「上←→右」「下←→左」という関係にある。「上記」は「右記」、「下記」は「左記」とこのルールは割と簡単である。矢印と同じように自動変換はできないだろうか。
 答えはどうやら不可である。「右契約において」を「上契約において」とすると表現がどうもこなれない。「上の契約に…」とか「上記契約に…」などと「右」を「上の」「上記」と直さなくてはいけない。こうなってくるとやはりこれは人間の仕事のようだ。横組みで「上野さん」が縦組みで「右野さん」にならないためにも、縦横変換に備えて、変化する語句をあらかじめ指定する方法を考えておく必要がありそうだ。
 でもこんな指定をいちいち行うのは面倒である。そこで「縦横変換自在文体」を考える。上下左右は縦組みと横組みでは意味が異なってくるが「前、後、次」という言葉は変化しない。だから「上記」「上の」「右の」「右記」は「前記」とか「前述の」、「左にあげる」「左記」「下の」「下記」は「次にあげる」「次の」「後述の」というような書き方にしてしまうのだ。この文体では前回問題となった句読点も「、。」方式に統一する。これで安心して縦にも横にもなれるというわけだ。
 「文章読本」という定番の人気企画があるが、今後は「縦横自在文体」という項を設けたほうが良いかもしれない。
 文章を縦に書く文明は漢字圏だけになってしまったが、古代エジプトのヒエログリフには縦書きがあったようだ。この場合は横書きでも縦書きでも可、縦書きの場合は行を送る方向が右から左でも、左から右でも可と自由自在な記述ができる。こんな言葉の場合でもこの「縦横自在文体」の方向指定は有効である。ヒエログリフで記述した電子出版を行う場合にはぜひともご採用あれ。
『情報管理』Vol.42 No.8 Nov.1999 より転載

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