電子出版のデスクトップ 7

縦の物を横にする(2)

 ひとつの文章を縦にしたり横にしたり,勝手気まま,気分のままに読みたい。そんな電子出版が欲しいという話の続きである。
 横組みの文章を縦に直す場合は文字を上から下へ並べるわけだが,記号類のフォントは縦組みと横組みで共通して使えない。
 まず括弧類が困る。横組みの括弧をそのまま使うと括弧は横を向いて開いたり閉じたりしてしまう。横組みから縦組みでは括弧類は右に90度回転する必要がある。
 次に句読点(、。)が困る。これは回転では解決がつかない。横組み用の句読点を括弧と同じように回転するととてもおかしな位置におかしな向きで点丸が付く。横組みでは仮想ボディー(フォントの配置される枠組み)の左下に点や丸を打つが,縦組みでは右上に打つ。括弧は向きを変えたが,句読点はボディーに対する配置を変えなくてはならないのだ。
 こういった事情から日本語コンピュータでは縦組み用のフォントというものが用意されており,ワープロなどで縦組みの際に利用されている。この縦組用フォントのおかげで縦横変換のフォント問題は基本的には解決済みである。しかし,解決できていない問題もある。
 前回,縦横変換が簡単ではないという例としてカンマを読点に使っているケースをあげた。この連載もそうだが,横組みでは読点として「,」を使用する場合もある。こういった文章をそのまま縦組みにしたらおかしなことになる。縦組み中では読点としてカンマを使うことはないからだ。
 流行のT-Timeというビュアでは全角のカンマを縦組みモードでは点(、)に変換して表示する。これは感激ものである。ところが他の縦書きビュアではカンマはカンマのまま縦組みになっていた。しかも「縦組み用のカンマ」という不思議なものに変身していたのである。
 普通カンマは仮想ボディーの左下に打つものだが,「縦組み用のカンマ」はボディーの右上に打たれている。「不思議」と形容したのはこんな文字はパソコンの世界以外では見たこともないからだ。「縦組み用カンマ」は,ついでに言えば「縦組み用ピリオド」も,今まで存在していなかった文字であると思うがどんなものだろうか?
 試しに日本語ワープロを使って縦組みで全角のカンマを打ってみた。アメリカ出身のワープロと純国産ワープロと試したが,ふたつとも見事に「縦組み用カンマ」が出てきた。いやはや勘弁願いたいものだ!!
 しかし,単にカンマを点に変換すればよいのだろうか?カンマを点に変換するのは,たしかにアイデアではあるが,この文章では困ってしまう。
 たとえば『横組みでは読点として「,」を使用する場合もある』をT-Timeで縦組みにしたら案の定『「、」』となってしまった。やはり自動変換では少々無理がありそうだ。
 縦組みでは句読点は「、。」に固定されている。しかし横組みでは「、。」方式,「,。」方式,「,.」方式の三種類がある(なぜか「、.」方式はない)。
 こんな風にいろいろ表記があるのは横組み表記の歴史の浅さ故だろうか。安定しているように思える縦組みの句読点システムも,パソコン文化の影響で「縦組み用カンマ」なる代物が闊歩する可能性がないとは言えないだろう。
 どちらにしても『縦横自在電子出版』の道には落とし穴がいっぱいある。次回もその落とし穴の続きとしたい。
『情報管理』Vol.42 No.7 Oct. 1999 より転載

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