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空白――伸びたり縮んだりなくなったり


 以前、日本語の組版は固定幅の四角四面の文字を枡の様に組むのが原則だと書いた。その時に書き忘れた空白の話をしたい。世の東西でこんなに空白の意味が異なるという話である。
 アルファベット圏の空白とは単語の区切りだ。単語が区切れれば良いので空白の幅は固定的ではない。欧文文字は幅が多様であり、単語の長さもいろいろである。行の折り返しの部分をきれいに揃えたり、単語が行で分割されるのを防ぐためには単語間の空白の幅を伸び縮みさせるのだ。
 また行末の単語と次の行頭の単語の間には理論的には空白が入っているのだが、空白を残すと行頭や行末が揃わなくなる。だから行末や行頭の空白は幅が何とゼロになってしまう。(この現象は日本語で書かれたWebページでも起こる。文頭に半角空白を使うと空白が消えてしまうのだ。)
 伸びたり縮んだり、ある時には姿を消してしまうのがアルファベットの空白なのである。
 逆に日本語では空白には明確な幅がある。「行頭1字下げ」という基本中の基本の記述法も1字分の固定幅の空白を前提としている。「姓と名前の間は1字空けて下さい」と文中でも固定幅の空白を使う。段落のインデントも1字下げ、2字下げと字の幅を基準とする。「行頭1字下げ」を「行頭何ミリ下げ」と指定するとしたら文章など書けるものではない。
 もっとも日本語の字の中にも全角以外の幅を持つものが存在するし、その幅が可変なものもある。
 たとえば句読点や括弧など「約物」と呼ばれる記号類の幅は半角で、使用するときは必ず半角の空白を伴うというルールがある。こういうルールにしておくと約物の連続といわれる場合、たとえば「閉じ括弧」と「始め括弧」が連続する時は間の空白を半角一つにすることで間が抜けた感じを避けることができる。
 残念なことにコンピュータの括弧や句読点は記号とそれに伴う空白を接着剤でくっつけてしまった。だから括弧が続いたり、句読点と括弧が続いたりするとひどく間が抜けてしまう。
 和欧混植の場合には4分の1幅や3分の1幅の空白も登場する。プロポーショナルな文字システムである洋数字や欧文文字と枡形である日本の文字の間の緩衝材としてこの4分の1などの空白が使われる。幅の狭い洋数字や欧文文字が前後の漢字の間に埋没してしまったり、行末が不揃いになったりするのを防ぐためである。
 和欧混植の例外はあるが枡形組版とは字の幅を基準としそれを整数分割して使うシステムである。コンピュータにとっては欧文より簡単で実現がたやすいと思われるが、現実は欧文のプロポーショナルな世界をそのまま引きずり込んでしまった。だから「字下げ何ミリ」といった日本語では実に使いずらいワープロが大手を振って存在したりもする。
 でも最近はずいぶん事情が良くなってきた。Webの世界ではスタイルシートを利用すれば字幅を基準とした指定が可能になった。たとえば「margin-left:1em」と書けば左に1字分の字下げ指定が簡単に実現できる。
 先日ユニコードのコード表をながめていたら空白類がたくさん収録されていることを発見した。欧文で通常使われる変幻自在な空白、和文の全角空白、3分の1、6分の1、4分の1の幅の空白と10種類以上の空白が規定されている。
 こういった空白類を自在に使える環境はまだ整っていないし運用ルールも不明だが、遠くない将来にはずいぶん読みやすい画面組版が実現できそうで期待が膨らんでいる。

『情報管理』Vol.43 No.12 Mar. 2001 より転載

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