JEPAキーパーソンズ・メッセージ！
(株)文藝春秋 マルチメディア部長
JEPA理事・デジタル情報ビジネス研究委員会委員
藤田 瞭彦
What……, if……？
現実から少し離れて、電子書籍が普及した時代のことを想像してみたい。どんなこと が可能になっているのだろうか。 欲しいときに欲しい本が手に入るという環境になれば、出版社が編んだ全集や叢書など を買うよりも、むしろ自分の好きな作家や作品だけをまとめて「お好み選集」を作るこ とが行われるのではないか（電子書籍関係者は一丸となってこれを流行させるべきだと、 まじめに思います）。フォントや背景などもカスタマイズできるようになれば、その楽 しみは一層増すだろう。 さらに、これまで出版される機会が限られていた小品、たとえば短篇小説、詩、短歌、 俳句などが改めて注目されるようになるかもしれない。そうなれば、誰の吟詠、朗読か ということも選択の新しい要素となりうるだろう。 新しいといえば、読書用のＢＧＭというのはどうだろう。一定の読書スピードを維持 するためのリズムやテンポがページに貼り付けられていたり、ある語句に特有のメロディ がシンクロしていて暗記の役に立つとか、あるいは巻頭で音楽を流してその読書に相応 しい精神状態になってもらうといった利用法も考えられるのではないか。 記述の順序を崩せない、いいかえればもっとも書籍的な小説などは、どんな電子化が 行われているだろう。たとえば推理小説であれば、謎の解決までを10段階に分け、今の ページは何段回目にあるかをインジケーターで表示するとか、個々の内容に応じた工夫 をせいぜい凝らす以外にないと思うが、論文、評論などは、初めは本論部分だけを表示 しておいて、「たとえば」「ところが」「ちなみに」などの例示、反対例、補足などの 部分はすべてリンクで呼び出すようにしておくと、まず本論を頭に入れ、必要に応じて 枝葉の部分を読み、全文を読みたい場合には「全文表示」を選択することで、その論の 構成までしっかり頭に入るだろう。これは書く側、読む側の双方にとって利点になるの ではないか。 ある時代を特定の人物を通して眺めると、歴史の面白さ、メカニズムがわかってくる ということがある。たとえば、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を読んで、幕末という時代 に興味を持ったとする。そういった時に、「司馬作品の幕末物」、あるいは「他作家の 幕末物」「幕末の主要人物」といったキーワードで該当する作品が検索でき、オンライ ンで購入できる環境があれば便利だろう。このようなユーザーにとって使いやすく親し みやすいオリエンテーリングサービスというのは十分商売になるだろう。本来ならこれ は出版社の販促業務の一環であるはずだが、アイデアとやる気に溢れたサードパーティ の活躍を許すことになっていようとは……。 ──絵空事ばかり並べて、と笑われるかもしれませんが、時々夢想することのいくつか を並べてみました。新しいビジネスチャンスがごろごろ転がっていそうだと思ってもら うことも、電子書籍を普及させるためには必要ではないか、と愚考しつつ。 （文藝春秋マルチメディア部長 藤田瞭彦）
ワンポイント調査報告
【日 本】
書籍・雑誌推定販売額 99年４月期 前年同月比 5.3％減
書籍は同0.9％減、雑誌が同8.5％減。雑誌は月刊誌が9.0％減、週刊誌が7.0％減
１〜４月累計では、書籍は前年と全く並び底ばい状態、月刊誌は同3.8％減
当月返品率は書籍が1.5ポイント減の36.1％、雑誌は3.0ポイント増の32.7％
（(社)全国出版協会 出版科学研究所発行 出版月報1999年５月号）
ソフトバンク、セブンイレブン、トーハン 書籍などの電子商取引で提携
「イー・ショッピング・ブックス」を設立。国内140万点の書籍を検索・注文できる
ホームページを開設し、注文を受けてトーハンに発注。トーハンは商品を顧客の
最寄りのセブンイレブンに送るか、ヤマト運輸を通じて宅配する。在庫がある場合は
最短２日で届く。手数料は受取方などに応じて決める方針。
（99.6.4 日本経済新聞）
大日本印刷 「専門書の杜」サービス内容を大幅に増強
カード決済を導入し、海外住居者にも対応する。品揃えは、現在約35社の書籍9,000
品目だが９月をメドに100社の20,000品目に倍増する。
（99.6.9 日経産業新聞）
新潮社と大日本印刷 文芸作品の朗読をネットで配信 無料試験サービス
文芸作品の朗読や講演会の音声を配信する「インターネットラジオ」の試験サービス
では、夏目漱石の「草枕」など10作品をRealPlayer G２で聴くことができる。今秋
にも有料サービスを開始予定で、現在90作品について準備中。
→ http://ccweb.mediagalaxy.ne.jp/
（99.5.25 Internet Watch）
So-net 辞書検索サービスに音声再生機能を追加
辞書検索サービス「電子ブック閲覧室『私の仕事部屋』」は、国語辞典など14種類
の辞書をネット上で利用できる有料サービス。会員以外でも利用可能。今回、音声
再生機能を付けたのは、岩波書店の「広辞苑第５版」。今後ほかの辞書タイトルも
対応する予定。
→ http://www.so-net.ne.jp/myroom/
（99.5.24 Internet Watch）
角川書店 モバイル店頭受発注システム開発 店頭での書籍の補充管理を省力化
表示面積が３ミリ四方の超小型バーコードを背表紙に印刷、これを専用スキャナー
で読み取り、携帯型コンピュータと組み合わせる。2000年４月にも本格稼働。書籍
が棚に入ったままの状態で商品管理ができるのが特徴。商品補充システムの業界
標準として提唱していく。
（99.5.12 日刊工業新聞）
大日本印刷 「漢字入力エディタ」開発 印刷時と同様の文字をPC画面上で再現
CTS組版で使用している同社保有の書体「秀英細明朝体」21,686文字をパソコン用
フォントに搭載する。出版社などに無償提供、営業支援に役立てる。
（99.5.27 新文化）
ボイジャー パソコン文章を軽快に読むソフト「T-Time」を全面改定へ
画像の変化に連動して挿絵を自動調整、画面の表示速度を高め、操作性も向上させた。
（99.5.14 日経産業新聞）
共有書店マスタ構想を「共有書店マスタ」と改称 ７月から本格稼働
有志出版社12社の準備会は、200社をメドに会員を募集中。入会金は10万円、月間の
負担額は基本料金8,000円に比例配分負担金を加えたもの。算出のためにISBNコード
を掲載する出版物の年間正味売上高と法人の年間売上高の提示を要請している。
書籍のJAN２段コードは当面現状のまま 雑誌コードについては今年度中に結論
書籍・雑誌のバーコード見直しを検討してきた出版バーコード研究会は活動休止、
雑誌コードについては共通雑誌コード管理センターが結論を出す。
（以上 （社）全国出版協会 出版科学研究所発行 出版月報1999年５月号）
紀伊國屋書店福岡本店 ５月１日オープン 国内最大 ワンフロアで1,060坪
タッチパネル式書誌検索機「KINOナビ」２台を初めて設置。タイトル、著者名など
を入力すると探している本のある場所を画面上の「店内マップ」で示し、プリント
アウトもできる。１日に約45万人の人出があるという。
（99.5.13 新文化）
紀伊國屋書店 店頭在庫をネットで確認 電子メールで返信 取り寄せ依頼も可能に
サービス名は「ハイブリッドウェッブサービス」（仮称）、福岡本店、シンガポー
ル本店で８月から導入。読者はホームページから接続し、注文品の有無、取り寄せ、
入荷をメールで確認できる。来春までに新宿本店、梅田本店にも導入予定。
→ http://www.kinokuniya.co.jp/
（99.6.1 日本経済新聞）
ジュンク堂大阪本店 開店７日間で売上１億円超 日商1,300万円ペースで推移
年間売上目標を25億円としていたが、45億円を突破するとの見込みが強まっている。
（99.5.13 新文化）
郵政省 「第３世代ネット」開発 2010年「スーパーインターネット」実現へ
2003年をめどにテレビ、ゲーム機など情報家電に接続できるようにし、2010年には
コンピュータを使ったすべての電子機器がプラットホームになる「スーパーインター
ネット」の実現を目指す。例えば、１つのリモコンで自宅の全ての家電製品に指示
できるようになる。
（99.6.2 朝日新聞）
BS、地上波など全ての放送 2010年までにデジタル化へ アナログ放送は姿消す
各放送メディアは高画質の映像や音楽ソフトなどの有料配信、ホームバンクキング
など新ビジネスに必要な放送・通信のインフラを提供できるようになる。
（99.6.1 日本経済新聞）
ネットで買い物 即時に口座決済 500企業、100金融機関参加 2000年３月実用化へ
多数の企業と金融機関が提携し、統一規格で相互接続するのは初めて。通信規格は
SETが基になっており、日本インターネット推進協議会が準備を進める。住友、
三和、第一勧業、さくらの４行は別に独自の規格での共通化を検討している。
（99.6.2 読売新聞）
通産省、通販サイトの表示項目を一斉検査 不備なサイト約1,000件にメールで警告
通販サイトの表示義務が守られているか検査する「インターネットサーフデイ」の
結果、表示項目が不十分なサイトが３分の２に達した。
→ http://www.miti.go.jp/press-j/consumer/u90519ad.html
（99.5.21 Internet Watch）
オンライントレード 国内の参入証券会社は23社 軌道に乗りつつある会社も
各社の取引口座数を合計した総口座数は推定で５万前後。月あたりの手数料収入が
1,000万円以上になる会社は５社あり、事業として軌道に乗りつつある。
大和総研調査
（99.5.14 Internet Watch）
バナー広告の需要 急拡大 一部人気サイトでは広告料金引き上げも
電通によると、掲載費と制作費を合わせたインターネット広告費は今年198億円と
昨年比７割強増える見通し。
（99.5.20 日本経済新聞）
モバイル 機器所有は86.3％ その内「よく利用」は78.6％
利用するアプリケーションはメールが88.8％と当然だが、イントラの普及からウェブ
を見るユーザーが半数に迫る。PDAよりもパソコン利用者が圧倒的に多い理由はここ
にありそうだ。
NIKKEI NET 99年４月16日〜５月10日調査
（99.6.7 日経産業新聞）
パソコン出荷台数 98年度 前年度比10 ％増の753万8,000台 過去最高
出荷額は価格競争の激化で販売単価が下がり、１％減の１兆6,327億円
(社)日本電子工業振興協会（JEIDA）調査
（99.5.13 PC Watch）
【世 界】
次世代データベース言語 「SQL3」が国際標準規格に
数字や文字しか蓄積できなかったデータベースに、画像や地図など「空間データ」を
蓄積し、検索機能などを与える新言語。米専門家は、2005年には世界で約120億ドル
の市場が生まれると予測している。
（99.5.14 日経産業新聞）
インターネット関連サービス市場 2003年には780億ドル規模に
98年は71%拡大し、78億ドル。今後５年間は１年に60%近いペースで拡大を続ける。
IDC調査
（99.5.28 Internet Watch）
99年第１四半期「.com」「.net」「.org」新規登録件数 前年同期比35％増の23万件
98年の年間データと比較すると、日本は10位から14位に落ちている。（米国を除く）
Network Solutions社調査
（99.5.27 Internet Watch）
ネット家電 ４規格を接続 日米欧企業が合意 2000年以降に投入予定
相互接続するのは、松下電器産業などが推進する「エコーネット」「HAVi」、マイ
クロソフトなどの「ホームAPI」、サン・マイクロシステムズが開発した「Jini」。
（99.5.2 日本経済新聞）
オンライン女性比率 2001年 45%の9,600万人に
特に女性比率の多い北米では、男性を上回る51%となると予測。
Computer Economics調査
（99.5.28 Internet Watch）
ホームページ作成ソフト市場 2002年 10億ドル規模に
98年は前年比44%増の２億4,300ドル
IDC調査
（99.5.24 Internet Watch）
携帯情報端末の出荷台数 99年 前年比47％増の570万台 ４年後は2,100万台へ
年間の伸び率はパソコン（98年分）の３倍の勢い。
データクエスト予測
（99.5.31 日本経済新聞）
パソコン出荷台数 ４〜６月期 前年同期比21.3％増 出荷金額は同11％増
１〜３月期の出荷台数は同21％増、中でも日本は最も成長率が高く同30％増、４〜
６月期は同36％増の見通し。
IDC調査
（99.6.10 日経産業新聞）
【米 国】
グラスブック 違法コピー防止機能を組み込んだオンライン出版ソフトを製品化
グラスブックは「電子本」の技術開発会社。従来は著作権保護の問題から専用端末
が必要だったが、コンテンツを暗号化することで、通常のパソコンでもネット経由
で入手できるようにした。今夏に100冊を出版予定、閲覧ソフトは年末までに50ドル
以下で発売する。
（99.5.17 日経産業新聞）
ネット書籍販売 価格競争がし烈に ベストセラーが５割引き
アマゾン・コムが68冊のベストセラー本で５割引きを発表すると、数時間後には
バーンズ・アンド・ノーブル、ボーダーズも同価格で追随した。アマゾンは「今後
も半額セールを続けていく」予定。
（99.5.25 日経産業新聞）
電子商取引開設費用 平均100万ドル 今後２年で毎年25％上昇へ
コンテンツの更新、新技術の導入や安全対策に常に大規模な投資が必要、各業者が
差別化に高額をつぎ込まざるを得ない実態が明らかに。
ガートナーグループ調査
（99.6.7 日経産業新聞）
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