Vol.34


JEPAキーパーソンズ・メッセージ!

(株)朝日新聞社 出版局 電子出版編集長
JEPA理事 大谷 洋平

私の電子出版10年

★ 電子出版の幕開け  電子出版に関わり始めた頃から切り抜きを始めました。「できるだけ手を抜く」 あるいは「手を抜きたい」というモットーがあるからキチンとは整理しません。 おおざっぱにカッターナイフで切り裂き、それを大学ノートに貼り付けます。 初めのうちは、4紙を見ていましたが、それだけで半日ほどもつぶれてしまいます。 そのうち2紙に落ち着きました。ELという切り抜き専門の会社から、関係のある 記事の切り抜きが毎日送られてくるので、その他の新聞はELに任せておけばいい、 という事情もあります。  その初期の切り抜きの中に、1986年9月8日付読売の「幕開く電子出版時代 電子 出版という言葉が、ここへきてにわかに関心を集めている。……この12日に40の 出版社が集まって“電子出版協会”が発足する。……」という記事があり、5年後の 91年9月19日付電波新聞の「CD-ROM使う電子出版普及促進 EPWINGコン ソーシアム設立』があります。そして、電子ブックコミッティーが90年1月に発足 しています。  このころ、91年の半ばから、私の電子出版が始まりました。92年6月18日に現代用語 事典『知恵蔵1992』の電子ブック版を発売しましたが、ほぼ1年前から『知恵蔵』を 電子化する打ち合わせを始めていました。凸版印刷と、社内のニューメディア本部、 当事者の出版局新媒体開発室の3者で、どのようなものに仕上げるかを検討しました。 ★ CTSの神話 『知恵蔵』はCTSで組み版してあるから、データはデジタル化されている。簡単に 作れるよ、と思っていました。ところが、『知恵蔵』は言葉を五十音順に並べた辞書 ではなく、本体の項目のほかに「ニュー・トレンド」だとか欄外の「注」などで構成 された複合体で、CTSから出てくるデータはバラバラの部品。これを整理して順序 よく並べるのにえらく手間どりました。さらに、項目に関連する新聞記事をテキスト で付け加えます。1985年からの新聞記事が「HIASK」と言う名で保存され検索 できるようになっていました。これから該当する記事を抽出します。学生アルバイト を雇って、2カ月かかりました。  知恵蔵1冊に収容してあるテキストは、400字詰め原稿用紙で約1万枚。これに別冊 付録を加え、さらに新聞記事を入れると、ゆうに600万字を超える量になります。 テキストを整然と並べ、テキスト同士を結びつける作業が連日続きました。 電子ブック規格では、大きな図表や細かい図表を表現するのが難しい。そこで、 図表をテキストに戻し、表組みのような形にして読みとることができるようにしま した。ただ、ひたすら置き換える。これも結構な力業です。  95年版からは、文化放送の年末恒例の回顧番組「マイクの一年」の提供を受けること にし、報道編、スポーツ編それぞれ30分の放送をテーマ毎に区切って見出しを付け、 それに合わせた写真を入れることにしました。 『知恵蔵』は毎年11月の発売ですが、最初の電子ブックの発売にはそれから半年以上 もかかりました。この10年ほどの間に、CTSデータがきれいになり、凸版の担当者 との連携ノウハウも蓄積されて、作業は整理されやりやすくなってきています。 時間を詰めて発売を早めてきましたが、今でも書籍版の発売から4カ月はかかります。 CTSで書籍用に組んでから電子ブックを作る、という段取りには限界があります。 書籍とCD-ROMをほぼ同時に発行するためには、編集、入力から組み版にいたる 行程を変えなくてはなりません。XMLもその候補の1つです。 ★ 食いつぶされる暇 3年前からは、イーストの協力を得て「DTONIC」を使ったCD-ROM版の 発行も始めました。この10年、電子ブック作りでスキーに行く暇もなく、CD- ROM作りで桜を見る暇もありません。続いてオンライン用に知恵蔵データを整備、 そうこうしているうちに、書籍版の編集が始まり、その付録に付けるCD-ROMの 制作で夏がすこぶる忙しく、海に行く暇もありません。どっぷりと知恵蔵に浸かり ながら、CD-ROMの『ハイパー京都ガイド』や『民力』を作ったり、ごく最近では 『ジャパン・アルマナック』のPDF版を発行したりして来ました。NECのデジタル ブックを作ったのが、はや懐かしい思い出になろうとしています。  10年前、CDーROMドライブは1台25万円もする高価なものでした。安くなって 普及すればCDーROMの時代だ、と喧伝されていましたが、パソコンに標準で 組み込まれる今になっても実際には極めて渋い状況でしかありません。インターネット が膨らみ、産業革命以来のIT革命の到来だといわれます。紙の時代の終焉が説かれ ます。しかし、はたして紙に代わる媒体になり得るのでしょうか。  朝日新聞記事データベースに、例えば「インターネット」とキーワードを入れて 検索すると、1万9600件もの記事がヒットします。その中から重要な記事を数本 あるいは数十本選ぼうと、テキストを読み始めたら大変です。しかし同じ作業を、 切り抜きを使えば比較的やさしくできます。一覧性があり、見出しがあるからです。 数行の記事でも、大きな見出しで一面にあれば、まず候補の1つに挙げるといった 選択ができます。テキストだけのデータベースには、見出しのような属性が付いて いません。  今のデジタル媒体は、中身を作るにしても読むにしても、まだまだ従来の紙媒体には 及びません。デジタル技術が、文庫本から雑誌、新聞にいたる媒体の特性をカバーし、 携帯性、保存性に優れ、ハードの論理ではなく人の感性を志向した媒体を生み出す ならば、局面はガラリと変わるでしょう。  JEPAに集うハード、ソフト両者の柔らかい頭脳の交わりに大いに期待したい ものです。 BACK

今月の調査報告

【日 本】

書籍・雑誌推定販売額 2000年3月期 前年同月比 0.8%減 マイナス幅微減

書籍は同0.5%増、雑誌は同1.8%減。雑誌は月刊誌が同0.4%増、週刊誌が同8.4% 減。書籍は1月に続いて、月刊誌は昨年の6月以来9カ月ぶりに前年を上回った。 当月返品率は書籍が同1.3ポイント減の29.2%、雑誌は同1.6ポイント減の22.0%。 ((社)全国出版協会 出版科学研究所発行 出版月報2000年4月号)

宮脇書店 ネット通販の書籍受け渡し 酒販店や米店でも

委託窓口「メイト店」としてガソリンスタンド、クリーニング店などを含め1,000店 を目標に募集する。 (2000.4.16 日本経済新聞)

ブッキング ネットでの書籍復刊希望 全出版社に対象を拡大

今まで岩波書店など出版社8社の絶版本などに限定していた。5月中旬からは、 注文数が一定水準に達すると出版会社と交渉、復刊につなげる。 (2000.4.27 日経産業新聞)

本屋さん 地方出版社の絶版本など受注印刷 将来は楽譜、自費出版も掘り起こす

注文に応じて少部数印刷、製本、配達する仕組みで、受注してから刷り上がりまで の所用時間は約6分。地方小出版流通センターと提携し、画像をスキャナーで読み 込み電子データ化する。 (2000.5.2 日本経済新聞)

日本初のネット生協「コープランド東京」 書籍・CD・PC周辺機器なども販売へ

今後は家電製品や一般雑貨、家具など順次拡大する。 (2000.4.13 新文化)

書店廃業店数 99年 前年比68店増 過去最悪の1,134店

廃業売場面積も約7,000坪増の4万4,467坪と大幅に拡大、3年連続で1,000店以上 の廃業。 (2000.4.13 新文化)

郵政省 産学官共同組織「ネットフォーラム(仮称)」設立 標準化活動手助け

民間6社が発起人、民間企業は約100社が参加する。国内でバラバラに行われている 活動を改め、次世代ネット開発を促進し、国際機関でも日本勢の発言力を強める。 (2000.4.12 日刊工業新聞)

富士通など情報通信15社 電子商取引の認証仕様を統一 電子商取引の普及を促す

法務省が10月に導入を予定している電子認証システムに基づいて認証機関が発行 する「電子証明書」について、記載必要事項などを国際標準に準拠して統一する ことにした。 (2000.4.17 Internet Watch)

よく利用したオンラインショップ 99年 回数ではANA、金額ではゲートウェイ

購入金額では、ゲートウェイ2000が他を大きく引き離し、ユーザーの年代別でも、 すべての年代層でトップはゲートウェイ2000だった。 情報通信総合研究所調査 (2000.4.28  Internet Watch)

ネットを使った遠隔教育事業 2010年 現在の30倍を超える約1兆円へ

NTTデータ経営研究所予測 (2000.4.26 日本経済新聞)

パソコン出荷台数 99年度 前年度比32%増 994万台 初めてテレビを抜く

出荷金額は同21%増の1兆9,739億円。 日本電子工業振興協会調査 (2000.5.9 日本経済新聞)

パソコン世帯普及率 3月末時点 前年同期比9.1ポイント増の38.6%

経済企画庁調査 (2000.4.22 日本経済新聞)

家電販売額 3月 前年同期比13.7%増の2,453億円 2ケ月連続二ケタの伸び率

パソコン本体の販売額は初めて500億円を突破した。 日本電気大型店協会調査 (2000.4.26 日本経済新聞)

【世 界】

オンライン小売り業者の大半が2001年に市場から撤退

原因は、財務体質の脆弱さや競合圧力の激化、投資家の引き上げなど。 米Forrester報告 (2000.4.13  Internet Watch)

ノキア、エリクソン、モトローラ 携帯端末で電子商取引の統一規格を開発

規格が乱立する現状が続くと電子商取引の発展を妨げる懸念があると判断した。 (2000.4.12 日本経済新聞)

消費者向けEC市場 2000年 前年比85%増の610億ドルへ

成長率では、自動車 (2,300%)が第1位で、玩具 (440%)、医療と美容品 (780%) と続く。2000年末には、コンピューターや書籍、音楽とビデオなどが成長し、小売 市場全体の10%以上を占めるようになる。 Boston Consulting Group調査 (2000.4.19 Internet Watch)

ECサイト調査結果 売上高トップはDell ユニークビジター数はYahoo!

Dell.comの売上高は50億ドル。Yahoo.comのユニークビジター数は3,200万人。 ActivMedia Research調査 (2000.4.27 Internet Watch)

電子メールを使ったマーケティング市場 2005年 73億ドルへ

99年は1億6,400万ドル Jupiter Communications調査 (2000.5.10 Internet Watch)

パソコン出荷台数 2000年第1四半期 前年同期比15%増の2,998万台

当初の予測通り、ラテンアメリカ、アジア、日本市場は好調だったが、米国と欧州 市場は不振。 データクエスト調査 (2000.4.25 PC Watch)

【米 国】

99年に米特許商標局に提出された「e-商標」 前年比220%増の1,700件

「.com」を含む商標についてはさらに増加ペースが速く、前年比636%増の 1万2,150件。 Thomson & Thomson社調査 (2000.4.14 Internet Watch)

B2Cの売上高 2000年 前年比倍増 370億ドル 2003年頃には1,000億ドルへ

もっとも大きく浸食された分野はカタログと電話による通信販売。 eMarketer予測 (2000.4.28 Internet Watch)

携帯電話による無線データ・アクセス 今年激増

今後1年以内にオンライン人口の3%から78%に急増する見通し。 米キャップ・ジェミニと無線ポータル・プロバイダーのコアチェンジ発表 (2000.4.19 Internet Watch)

インターネット広告売上 99年 前年比141%増の46億2,000万ドル

バナー広告が56%を占め、スポンサー提供が27%、電子メール広告が2%、その他が11%。 Internet Advertising Bureau(IAB)調査 (2000.4.21 Internet Watch)

インターネットユーザー平均像 33歳で大卒 年収約67,000ドルの白人

世帯数で見ると、コンピューター所有率は58.3%、インターネットの利用率は47.6%。 PC Data Online調査 (2000.4.28 Internet Watch) BACK

【連載】「電子出版のデスクトップ」

- - -第8回:「縦の物を横にする(3)」- - -


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