Vol.37


JEPAキーパーソンズ・メッセージ!

(株)新潮社 ネットワーク室 次長
JEPA理事 村瀬 拓男

 この原稿の締め切り日である8月3日は、「電子文庫パブリ」立ち上げ作業の 大詰めの時期でもあります。「こんな原稿を書いているひまがあるなら、もっと さっさと仕事をしろ」という声が各方面から飛んできそうですが、宣伝告知にも なると思うので、せっかくの機会ですから、パブリのことをネタに少し思うところ を書いてみたいと思います。  「電子文庫パブリ」とは、出版社8社(角川書店、講談社、光文社、集英社、 新潮社、中央公論新社、徳間書店、文藝春秋)が共同して立ち上げる、電子本の ダウンロード販売サイトです。独自の電子本販売サイトを以前から運営している 光文社さんが中心となって、各社に声をかけることによって、この前代未聞の プロジェクトがスタートしたのですが、当然のことながら、ここに至るまでには たいへんな紆余曲折があり、それに環境の急激な変化、各社の思惑などが複雑に からまり、客観的にはとても興味深いものとなっています。もちろん当事者の一人 である私の口から詳しく語るわけにはいきませんので、誰か第三者にレポートして もらうとおもしろいのですが。  それはともかく、このプロジェクトを通してあらためて感じたことがあります。  それは、電子出版というのが、単なる出版の一形態ではなく、「出版のフルコース」 であるということです。企画をなんらかの形に仕上げて読者の手許に届けるのが出版 という作業だと思いますが、紙の出版においては、形態を決めれば(たとえば文庫なの か新書なのかということ)中身や装幀以外のだいたいの要素は確定します。中身の 見せ方だってそんなにバリエーションはありません。えんえんと積み重ねられた「約束 ごと」が山のようにあるからです。 しかし電子出版においては事情が異なります。電子出版にはそんな「約束ごと」は ありません。中身をどう見せるのか、デザインはどうするのか、一つの商品として 妥当な分量や価格はどの程度か、どのように宣伝、告知し、流通させていくのか、 著作者の権利をどう守り、一方で読者の利便性にどこまで配慮するのか、といったこと について、読者、著作者を含めた出版界全体での了解事項、常識、コンセンサスが、 まだ十分には存在していないからです。  そうすると、電子出版に携わる人間は途方にくれることになります。いったいどこ から手をつければよいのか。与えられる制約は「技術的」なことだけです。それも 半年単位で大きく移り変わっていくような。そんなあやふやなものに依拠して考えて いくことはできません。パブリのプロジェクトにおいて関係者が直面したのは、まさに この問題であったように思います。出版界の既存のルールからの類推だけでは問題は 解決しません。結局ある程度「あるべき」全体像を見据えて、出版事業の全プロセスに わたって、ひとつひとつの問題を解決していかなければならなかったのです。このような ことを「出版のフルコース」と称してみたのですが、いかがでしょうか。  これはたいへんな作業ではありますが、考えてみれば非常におもしろい作業でも あります。作るところから読者の手許に届けるところまで、その全てに主体的に関わる ことができるのですから。この「手作り」感覚は、紙の出版においてはなかなか味わい にくくなっています。パブリのような、主義主張が異なる出版社どうしの共同プロジェ クトが、空中分解もせずに立ち上げ直前までこぎつけているのは、携わっている人たち が大なり小なりこの楽しみを味わっているからでしょう。  ということで、そろそろ「苦しくも楽しい」作業に戻りたいと思います。 BACK

今月の調査報告

【日 本】

書籍・雑誌推定販売額 6月期 前年同月比 8.4%減 今年最大の落ち込み

書籍は同5.1%減、雑誌は同10.4%減。雑誌は月刊誌が同8.7%減、週刊誌が 同15.8%減。 当月返品率は書籍が同1.3ポイント増の44.7%、雑誌は同0.2ポイント減の30.9%。 1月〜6月の累計推定販売額は、書籍雑誌合計で同3.4%減。 ((社)全国出版協会 出版科学研究所発行 出版月報2000年7月号)

文藝春秋 「文春Web文庫」で文庫のダウンロード販売を開始

昭和30〜50年代に発行されて品切れとなっている「文春文庫」シリーズを電子書籍 化し、オンライン販売するもの。作品を読むには、ボイジャーの「T-Time」を元に 開発された専用ソフト「文春ブックブラウザー(BBB)」が必要となる。 → http://www.bunshunplaza.com/ (2000.7.18 Internet Watch)

講談社 電子漫画の有料配信サービス「e-manga(イー・マンガ)」開始

ネット用に限定したオリジナル作品含め、毎月10以上の作品を掲載し、「Web現代」 を通じて配信する。 → http://kodansha.cplaza.ne.jp/ (2000.8.1 日本経済新聞)

産能コンサルティング ネット上で書籍出版システム 世界で初めて開発

ホームページ上でユーザー登録し、使用するデータ等を同社に送付する。 オンラインで文章の編集等行い、印刷を依頼すると製本された書籍が宅配される。 1冊から発注でき、フルカラー、ハードカバーも可能。 → http://www.bookpub.ne.jp/ (2000.8.2 読売新聞)

白峰社と三省堂書店 雑誌の最新号をネットで検索できるサービスを共同で開始

「BIGLOBE」向けに60〜70社に及ぶ出版社の雑誌情報をリンクさせたサイト 「三省堂書店e-Book 立ち読みn@vi」を開設した。コンテンツによっては、記事の 一部購読などができ、利用者は掲載された雑誌を注文し、JR駅などの販売店で 受け取ることもできる。 → http://aruzo.cplaza.ne.jp/e-book.html (2000.7.19 日経産業新聞)

ネットクレードル ネットで書評検索サービス 新聞21紙、雑誌220誌から

対象は97年以降に発行した媒体の書評。 会員制で年会費は個人が3,150円、法人が21,000円から。 (2000.7.31 日本経済新聞)

両毛システムズ 図書館向け「iモード」による蔵書検索システム開発

図書館内の専用端末による図書検索と同等のサービスをiモードで提供する。 (2000.7.17 日経産業新聞)

凸版印刷 子供向けの電子書籍サイト「Bitway-booksキッズ」開設

「Bitway-books」の子供版で、子供に安心して与えられるコンテンツを揃えた。 コンテンツには、PDF形式とBitway独自ブラウザーを使用する「Book Jacket」 形式がある。「Book Jacket」は縦書きやページめくりに対応しており、今回は 機能ボタンを子供向けにひらがなで分かりやすくした「Book Jacket for kids」を 開発、配布を開始している。 → http://books.bitway.ne.jp/kids/ (2000.7.24 Internet Watch)

米アマゾン 日本進出 来春にも日本語サイトを開設

年内をメドに札幌市に顧客サービスを担当する電話センターを設ける。 (2000.7.29 日本経済新聞)

JCBとブックワン ポイントの交換商品にネットで書籍選びの新サービス追加

ブックワンがネット上で運営する「ビーケーワン」にアクセスし、獲得した ポイント相当額の書籍を約1万タイトルの中から選べる。 → http://www.bk1.co.jp/ (2000.7.11 日本経済新聞)

本屋さんとオリエントコーポレーション カード会員に配送料無料サービス

「本屋さんカード」を発行し、会員に商品の個数や金額にかかわらず無料で宅配 する。1回に3,000円以上を注文した場合、購入金額の5%をポイントとして受け 取れ、1ポイントを1円相当で決済に利用できる。 (2000.7.25 日経産業新聞)

セブンドリーム・ドットコム 手数料無料で書籍をネット通版

イー・ショッピング・ブックスと組み、50万種類の書籍・雑誌を取り扱い、 全国のセブンイレブン店頭で受け渡し決済する。 → http://www.7dream.com/ (2000.7.25 日本経済新聞)

ブックオフ 米穀店で古本買い取り 将来は1万店まで広げる計画

コメ販売店が個人宅を訪問して古本を集める。 売った個人には現金でなくポイントを与え、コメ販売店を通じて各種の商品と 交換できるようにする。 (2000.7.17 日本経済新聞)

CCC DVDや書籍などネット販売 パソコン向けにも開始

対象は同社のチェーン店「TSUTAYA」で扱う全ての商品。 (2000.7.28 日本経済新聞)

日販 サークルK・サンクスなどが出資の「ときめきドットコム」に資本参加

コンビニ店頭を拠点とした電子商取引分野で商品・情報を提供していく。 (2000.7.6 新文化)

日販 ネット販売専用の物流倉庫「web-Bookセンター」稼動

「本やタウン」の物流拠点になるが、「BOLジャパン」へのデータベースの提供と 商品調達にも対応する。 (2000.7.13 新文化)

太洋社 コミックスと文庫の客注・注文品の流通改善を目指し、センター稼動

「コミックセンター」、「文庫センター」で共に50万部を超す在庫を持ち、迅速な 対応を図る。ネット書店「bk1」へも対応する。 (2000.7.13 新文化)

トーハン・コンサルティング 出版業界向けに人材紹介 経験者を中心に

http://www.tohan-c.co.jp/ (2000.7.18 日経流通新聞)

2000年上半期 書店の新規出店 前年同期比 52店減の262店 大幅に落ち込み

(2000.7.6 新文化)

書店の売上高(CDなど含む) 99年 前年比2.9%減 3年連続前年割れ

減少幅も過去2年に比べ大きい。日販調査「2000年版 書店経営指標」 (2000.7.24 日本経済新聞)

電子文書の規格統一を目的に「電子文書・電子申請推進協議会」発足

公文書のやり取りや各種申請手続きの電子化を促す。12企業・団体で発足し、 13企業のほか約300の行政機関などが参加を予定。 (2000.7.12 日経産業新聞)

郵政省 デジタル時代の通信・放送の融合に備え、新たに統合協議会発足

課金方法など技術規格と消費者保護ルールの統一を図る。 コンテンツ流通プラットフォーム実証推進協議会など4協議会の上部組織として 「通信・放送融合技術・サービス開発協議会」を設立、NTTグループなど52社も 参加する。 (2000.7.17 日本経済新聞)

公取委 ネット上の虚偽情報や誇大広告など取り締まる専門チームを今秋発足

来年度には電子商取引のルール作りを目指すガイドラインも作成、米国の連邦 取引委員会などと連携して進める。 (2000.7.17 日本経済新聞)

デジタルカメラの総出荷金額 2000年上半期 「デジタル」が「フィルム」抜く

デジタルは前年同期比117.3%で1,716億円、フィルムは同13.1%減の1,447億円。 日本写真機工業会調査 (2000.8.2 日本経済新聞)

【世 界】

インターネットの大きさは21億ページ 2001年にはさらに倍の大きさに

現在1日700万ページの割合で増殖を続けており、この増加率がさらに伸び続ける。 平均的なページは、サイズが10,060バイト、内部リンクの数は23、外部へのリンク の数は5.6、ページ上にある画像の数は14.4。 米Cyveillance社調査レポート「Sizing the Internet」 → http://www.cyveillance.com/newsroom/pressr/000710.asp (2000.7.12 Internet Watch)

パソコン出荷数 4〜6月 前年同期比 18%増の3,162万台

シェア1位はコンパック(12.6%) データクエスト調査 (2000.7.25 日本経済新聞)

【米 国】

人気作家スティーブン・キング氏 ネットで連載小説「ザ・プラント」を“直販”

読者は直接ネットからコンピューターにダウンロードする。 代金は連載1回分当たり1ドル。ダウンロード後に代金を支払うこともできる。 ダウンロードして代金を支払った読者が75%に満たなかった場合には、連載は2回 で打ち切られる。 → http://www.stephenking.com/ (2000.7.26 Internet Watch)

アマゾン 99年小売業売上ランキング 93位 1位はウォルマート・ストアーズ

ネット専門の小売業としては初めての上位100社に顔を出した。 (2000.7.8 日本経済新聞)

2000年末までにネットユーザーの68%がオンラインで買い物

ネットで買い物をする人の数は2000年末までには634万人、2003年には1億600万人 で増加。買い物による売り上げは、今年末までに370億ドル、2003年には1,040億 ドルへ。 eMarketer予測 → http://www.emarketer.com/ (2000.7.13 Internet Watch)

検索エンジンに関するユーザー調査 1位はGoogle

NPD New Media Services調査 → http://www.google.com/ (2000.7.18 Internet Watch)

DVD市場急拡大 2000年の出荷台数 900万台へ 98年の8倍以上

ソフト出荷は2億3,000万枚へ DVDエンタテインメントグループ、アーンスト&ヤング社予測 (2000.7.18 日本経済新聞) BACK

【連載】「電子出版のデスクトップ」

- - -第11回:「金太郎飴」- - -


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