Vol.49



JEPAキーパーソンズ・メッセージ!

業界を代表するJEPA理事の皆様から旬のメッセージをいただいておりましたこの
コーナーは、順番が一巡したため42号にて終了致しましたが、再開のご要望が多く
第45号から再びお届けしています。

イーブックは多様な姿で登場する?

(株)翔泳社 執行役員出版局副局長
JEPA理事
清水  隆


 対面と手元、読むことの違い

 コンピュータ出版物の編集をやっていたため、PCのディスプレイ上で編集作業を
したり、原稿を書いたりという仕事がもう15年以上にもなります。作業はもっぱら
スクリーンエディタで行うため、行間のないベタな文字を読むことにあまり苦痛は
感じません。でも、ディスプレイ上でものをじっくり読めるかというと、仕事だから
ディスプレイでかまわないのであって、楽しみや興味をもって読む、読書とは
異なります。

 ディスプレイは、対面して作業をしたり、読んだりできますが、電子的に表示した
ものでも、「本」として扱うには手に持って読めることが大切なのだと感じています。

 対面と手元で読むことの違いは、編集という仕事の結果に如実にでます。DTPの
導入が進むなかで、制作進行の合理化をめざして、ペーパーレスの編集作業にでき
ないかという意見がときどきでてきます。DTPでも、通常は紙に印刷して校正作業を
行うのですが、それを画面上で行ってしまおうということです。しかし、画面上と
紙で行った校正の結果を見ると、明らかに画面上のほうがミスが多くなります。
現在では、原稿から印刷の実用版の出力まで、すべてがデジタルデータで進行して
いますが、品質保持という面から紙での校正はまだ欠かすことができません。
編集工程でのディスプレイ表示について、そのような印象をもっていました。


表示デバイスにも異なった方向性が

 このたび、JEPAのイーブック端末研究委員会に関わることになり、イーブック用端末
として使われる可能性のあるいくつかの表示デバイスを見る機会を得ました。技術の
進歩によって、現在広く普及している液晶ディスプレイがより高精細になっているのは
もちろんですが、それとは異なるアプローチとして、電子ペーパー、電子インクのよう
な紙に近い見え方と扱いのできるデバイスの研究開発が進んでいることも知りました。

 10年以上前にMITで電子ペーパーの研究が行われていることを知って興味をもっていた
のですが、その後、ニュースで見かけることもなかったため忘れていた分野でした。

 メーカーによって試作品の完成度にばらつきはあるものの、紙とトナー、つまりコピ
ーしたものに近い質感を実現しているもの、あるいは高精細なカラー液晶で非常に薄い
フィルム状の表示デバイスなどがあります。いずれも、データを書き込むときには電力
を使いますが、その後は無電源でも表示を維持します。表示の書き換え速度が実際に
どの程度になるのか気になるところですが、イーブック端末に新しい可能性を示して
くれるデバイスです。

 さきほどの手元に校正紙をおいて、手にペンをもって校正を行うということも、電子
ペーパーのようなものが実用化すれば、紙に出力しなくても可能になるのでしょう。


イーブックの普及期が近づいてきた

 高精細、高輝度、高表示速度をもつTFT液晶は、イーブック端末の有力なデバイス
であると同時に、モバイルPCやテレビなどさまざまな応用が考えられます。
しかし、電子ペーパーのような反射型を基本にしたデバイスは、紙の代替を目標に
しており、まさにイーブック向けのものではないかと感じました。PC上のイーブック
ビュワーやPDA機能をもったイーブック端末だけでなく、イーブックもさまざまな
形があり得るのだと実感することができたのです。

 考えてみると、現在のデスクトップやノートPCの延線上にイーブックを捉えるとい
う固定観念があったのかも知れません。SF映画などを見ても、未来の電子端末は音声や
映像などでマルチメディア化が進んでも、たいがいはCRTやパネルディスプレイが
描かれています。それも、固定観念が原因なのでしょうか。

 デスクトップのアプリケーションとしてのイーブックビュワー、ポータブルPCの
一機能としてイーブック、そして、紙に近い感覚で扱うことのできる専用端末など
……イーブックは多様なかたちで実現されていくことになるのではないかと思います。

 これまで、電子書籍に対するさまざまなアプローチがされてきました。そして、
一部では商品として流通してもいます。しかし、まだ電子出版が出版全体のなかで
大きな流れとなるには至っていません。

 ここへきて、その大きな流れを創出するためのさまざまな基本的な問題に方向性が
見えてきたようです。デジタル出版物の権利関係の管理(DRM)、オンライン出版物
の決済、ファイル形式の問題……次第に条件は整ってきています。イーブックの
本格的な普及期がもうすぐそこまで近づいていることを感じます。
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今月の調査報告

【日 本】

書籍・雑誌推定販売額 6月期 前年同月比2.1%増 2ケ月連続で前年同月比増

書籍が同3.6%増、雑誌が同1.1%増。雑誌の内訳は、月刊誌が同1.2%減、週刊誌が 同8.7%減増。返品率は、書籍が同1.4ポイント減の43.3%、雑誌は同0.2ポイント減 の30.7%。 上半期(1月〜6月)の同販売金額 前年同月比3.2%減 4年連続マイナス成長 書籍が同2.1%減、雑誌が同4.0%減。雑誌の内訳は、月刊誌が同4.9%減、週刊誌が 同1.0%減。返品率は、書籍が同0.5ポイント減の37.1%、雑誌は同0.9ポイント増 の29.1%。 ((社)全国出版協会 出版科学研究所発行 出版月報2001年7月号)

ミノルタ 「電子ペーパー」を世界初のフルカラーに 厚さ約1ミリメートル

ユーザーが自宅のパソコンなどに送られてきた電子新聞などの画面を複数取り込んで 持ち歩くことを想定した。約100ページを取り込める。 (2001.8.3 日本経済新聞)

シャープ新規格 電子本でルビ・挿絵が表示可能に

「ザウルス」の電子文庫機能の中で、ルビなどの特殊文字や挿絵などを表示できる 新規格「モバイル・ドキュメント・フォーマット(MDF)」を開発した。 他のPDAメーカへの公開も検討する。  http://www.spacetown.ne.jp/ (2001.7.30 Internet Watch)

講談社 ネオ・ウィングと協力しデジタル漫画を海外配信 秋以降は韓国語版も

国内向けの「e-manga」のコンテンツを英語化、サービス料は毎月800円。  http://www.cdjapan.co.jp/ (2001.7.30 日本経済新聞)

アイ文庫 小説やエッセーなどのメール配信事業開始 閲覧は無料

作品は毎日あるいは週2〜3回配信し、会員の属性に基づいた広告も配信できる。 (2001.8.6 日経産業新聞)

アマゾンジャパン 洋書ジャンルを独立して拡充し、新サービス開始

「バーゲン・コーナー」と「初めての洋書コーナー」を設けた。 前者では最高60%まで割り引き、後者には英語が苦手な人でも楽しめる絵本や アート写真集など9ジャンルがある。 (2001.8.2 日経産業新聞)

トーハン 書籍の通販でギフトに対応 自宅以外の指定先に配送できる

ビデオ、CD、DVDなど映像ソフトの扱いも始め、約100人の作家の略歴や代表作など を紹介する「注目の作家」などの企画も開始する。  http://www.e-hon.ne.jp/ (2001.8.3 日経産業新聞)

日販 書籍・雑誌とニューメディア商品を一元管理する「ノア・プラス」開発

複合書店にとっては別個のシステムを導入していた場合に比べ月額81,000円削減、 簡素化できる。 (2001.7.12 新文化)

学習研究社 ブック・オーダー・ネット(BON)を使い、書店からネット受注

BONは、ダイヤモンドコンピュータサービスが運営する共同受注サイト。 同サイトの使用は、文芸春秋、エクスメディアに次いで3番目。 (2001.8.6 日本経済新聞)

大日本印刷 印刷物の制作状況をパソコン画面で確認するシステム開発

従来のように何度も試し刷りを出力し、担当者が相互に足を運ぶ必要がない。 コスト削減、納期短縮が可能に。 (2001.7.17 日経産業新聞)

凸版印刷 本に万引き防止タグ開発 製造段階から組み込むのは日本で初めて

背表紙の裏に張り込んだ後に製本するので、取り外すことができず、外側から目に 付かない。 ((社)全国出版協会 出版科学研究所発行 出版月報2001年7月号)

書店経営指標2001年 全店平均の売上高 前年比2.38%減 4年連続の前年割れ

売上総利益率24.25%(同1.19ポイント減)、営業利益率マイナス0.98%(同0.93 ポイント減)、経常利益率0.03%(同0.2ポイント減)。日販調査 (2001.7.26 新文化)

ブックオフ 都内出店加速 地価下落を追い風に最大の消費地を開拓

2004年9月までの3年で23区内に170店を新設、既存店と合わせ200店体制へ。 古書の買い取り機能強化の狙いもある。 (2001.8.9 日本経済新聞)

下期広告費 前年同期比2.9%減 2001年度では同2.1%減 98年度以来のマイナス

日経広告研究所予測 (2001.8.6 日本経済新聞)

デジタルコンテンツ関連市場 2001年 12兆256億円に 2000年は9兆9,735億円

(財)デジタルコンテンツ協会調査 (2001.7.19 Internet Watch)

インターネット動画広告 バナー広告の約2.5倍のクリック効果

シーエムジャパン調査 PDFファイル http://www.cmjapan.com/press/pdf/press20010718a.pdf (2001.7.19 Internet Watch)

ブロードバンド契約者 2004年 1,461万件 PCでネット接続している人の約半分へ

2000年は197万件。 イーシーリサーチ「国内ブロードバンドアクセス市場実績と予測」 (2001.8.3 日経産業新聞)

ブロードバンドコンテンツ利用者 2005年 5,500万人に

2001年は430万人。2002年には3倍の1,292万人に急増、その後もADSLやFTTHの 本格的な普及が起因となる。 イーシーリサーチ予測 (2001.8.10 Internet Watch)

DSL加入者 6月末 29万1,333人 5月末の1.6倍に

総務省調査 (2001.8.1 日本経済新聞)

携帯ネット利用者 6月末 4,037万5,000件 5月末より172万件増

前年同期比で3倍以上の伸び。CATV利用者も6月末で96万7,000件、3月末に比べ 18万件増加した。 総務省調査 (2001.8.2 日刊工業新聞)

デジカメ出荷台数 2001年上期 前年同期比48.7%増 591万1,000台

フィルムカメラは同11%減の1,324万台。 日本写真機工業会調査 (2001.8.2 日経産業新聞)

国内PC出荷台数 2001年度 前年度比8%増 1,498万台

ビジネス向けの出荷がコンシューマ向けの落ちこみを補うと分析。ソニーの勢いは 2001年も続く。 矢野経済研究所予測 (2001.7.25 PC Watch)

【世 界】

eリクルーティング市場 2005年 現在の8倍の134億ドル規模へ

IDC予測 (2001.7.19 Internet Watch)

ネットワークプロセッサ市場 2005年 25億ドルに

Yankee Group予測 (2001.8.8 Internet Watch)

PDA出荷台数 第2四半期 前期比21%減

Dataquest調査 (2001.8.8 Internet Watch)

パソコン出荷台数 第2四半期速報 前年同期比1.9%減 3,043万台

1986年以来初のマイナス成長。 ガートナージャパン調査 (2001.7.24 PC Watch)

【米 国】

Britannica.com 有料化へ 年間50ドルで全コンテンツを提供

項目の最初の段落の閲覧や、Britannica.comと提携した新聞社・雑誌社による記事 などは無料で利用できる。  http://www.britannica.com/ (2001.7.23 Internet Watch)

オンライン売上高 2カ月連続で減少 5月の39億ドルから6月には32億ドルへ

5月は9%減少した。4〜5月の2カ月間で、売上高は26%も減少。 米Forrester調査 (2001.7.27 Internet Watch)

モバイル・ネット市場 7年間で62倍の258億9,000万ドル規模に

Frost&Sullivan予測  http://www.gartner.com/ (2001.8.8 Internet Watch)

AT&Tワイヤレス 「2.5世代」の携帯サービス開始 来年までに全米へ

「GPRS」という規格を採用、データ通信速度が毎秒100キロビットと現在より最大 10倍速くなるのが特徴。 (2001.7.19 日本経済新聞)

オンライン広告市場の落ち込みは一時的 2006年には150億ドルに拡大

2001年には5%の伸びにとどまるものの、その後5年間は年平均22%で成長する。 Jupiter Media Metrix予測 (2001.8.10 Internet Watch)

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【連載】
「電子出版のデスクトップ」


- - -第23回:「空白―伸びたり縮んだりなくなったり」- - -


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