Vol.52



JEPAキーパーソンズ・メッセージ!

業界を代表するJEPA理事の皆様から旬のメッセージをいただいておりましたこの
コーナーは、順番が一巡したため42号にて終了致しましたが、再開のご要望が多く
第45号から再びお届けしています。

「電子書籍」は本当に「書籍」か?


(株)文理 メディア開発室長
JEPA理事 浜地 稔


  “紙の本に匹敵する読書端末”とか,“紙の本を電子化する”とかいう議論を聞いて
いて(いや,私自身そういうことばを使ってきたし,これからも使うに違いないが),
どうも最近引っ掛りを感じるようになった。「電子出版協会」のニューズにこんなこと
を書くのはマズイかもしれないが,やっぱり書いてしまおう。

 と言っても,私は“ディスプレイ読書”に否定的なわけでは全くない。それどころか,
「テキスト」であれば,紙で読めるものはすべてディスプレイで読める,というのが
私の実感である。テキストの“意味”や“描写ストリーム”を把握することに限れば,
紙とディスプレイの間には何の違いもない。だから,デジタルコンテンツを「読む」とき,
どんなに長くとも原則としてプリントアウトは取らない。
(例外は「校正」と「持ち歩き」であるが,これについてはここでは省略。)
画面で読んでも理解できないようなことは,紙に印刷してみたってやっぱり理解できない
し,印刷文字を読めば分かるように書かれているものは,画面で読んでも当然分かるので
ある。もちろんディスプレイ解像度やレイアウトなど,電子媒体の様々な未熟さに起因
する「読み難さ」という問題はあるが,技術的発展と読者層の世代交代が不可避である
以上,これらは明らかに解決可能であろう。そういえばついこの間まで我々の隣では,
“キーボードで日本語が書けるか否か”なんてことが大真面目で論じられていたっけ。

 さてしかし,問題はここからだ。果たしてぼくらは,“理解”を求めて読書するのだ
ろうか? 確かに「本を読んでいる」には違いないが,そういう行為は,ふつう「勉強」
「研究」「調べもの」などと呼ばれ,「読書」とはちょっと違う行為とみなされている
ように思う。ふつう読書というのは,“読みたい本を,読みたいから(読みたいふうに)
読む”という行為を指して言われるのではないだろうか。つまりは,「読書」とは純粋に
時間を消費する行為,そしてその只中に生起する快楽体験を求める行為なのではないか,
ということだ。だったら,「ほら,ディスプレイでもこんなに読み易いでしょう!紙と
同じですよ!」とか言われても,関係ナイのではないだろうか。問題は本当のところ,
「ディスプレイで本が読めるか?」ではなく,「ディスプレイで本が読みたいか?」と
いうことだとすれば,ディスプレイで“この本”を“読む”という行為が,いかに我々
の快楽体験になるか,ということが問題なんだ,と思う。

 で,今書いた“この本”というのが,はたして本当に“本”なのか(駄洒落みたいで
すみませんね),ということが次の問題なのである。キー概念が「快楽体験」なのだと
すると,読書という行為はぼくらの身体性というものに分かちがたく結びついていると
考えるのが自然であろう。この意味で,現存の「紙の本」の“かたち”というものは,
単に便宜的な姿としてあるのではないことは勿論,何らか実用的な根拠(可読性だとか
可搬性だとか)だけに基づくのでもなく,もう一歩根元的なものである可能性が高い,
とみなすのが妥当なのではないか。もし本当にそうなら,「読書」に比肩しうるディス
プレイ上の「本」は,「紙の本」のメタファから自由にならない限り,読者の快楽体験
の担い手にはなれまい。まだ発展途上であるにせよ,「デジタルコンテンツ」の対人
インターフェースがぼくらの身体性に与えうる快楽体験の諸要素は,明らかに「紙」の
それとは異なるはずである。そして「ディスプレイで読みたい本」が登場したとき,
ぼくらはなおもそれを「本」と呼ぶのだろうか?

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今月の調査報告

【日 本】

書籍・雑誌推定販売額 9月期 前年同月比5.8%減

書籍が同5.6%減、雑誌が同5.9%減。雑誌の内訳は、月刊誌が同5.1%減。 週刊誌が同8.5%減。返品率は、書籍が同ほぼ横ばいの34.7%、 雑誌は同0.6ポイント減の24.8%。 ((社)全国出版協会 出版科学研究所発行 出版月報2001年10月号)

アドビシステムズ「Acrobat eBook Reader2.2」を使って電子書籍サービス開始

「eBook Reader」の特徴は、著作権管理が行ないやすくなったこと。 コンテンツ提供者は、書籍の販売・時間毎のレンタル提供などが可能になった。 http://www.adobe.co.jp/aboutadobe/pressroom/pressreleases/200110/20011023ebook.html  (2001.10.24 Internet Watch)

ボイジャー PDA画面の電子書籍を読みやすく表示するソフト開発

縦書き、横書きが設定でき、文字サイズ、行間変更も自由。 「T-Time」の機能をPDA向けに拡張した。 (2001.10.16 日本経済新聞)

月刊漫画誌「ガロ」の創刊号から100号まで オンデマンド出版で完全復刻

原本をデジタル化し、オンデマンド出版で漫画雑誌が復刻されるのは初めて。 創刊号は古書店で数万から数十万の高値がついている。 http://www.digigaro.co.jp  (2001.11.2 読売新聞)

講談社 電子漫画を単行本に再利用 新しい出版形態を実験する

来年1月をメドに自社サイトで有料配信していた「e-mangaKC」を刊行する。 (2001.11.5 日本経済新聞)

集英社 新刊本をネットで立ち読み 馳星周氏の長篇小説の冒頭を無料で

利用者は読書ソフトをパソコンに取り込み、簡単なアンケートに答えると 冒頭47ページ分を読める。配信期間は未定。 http://www.shueisha.co.jp/  (2001.10.30 日経産業新聞)

インフォシーク 楽天ブックスと共同で書籍サイト開設

「インフォシークブックス」では、検索技術を生かし楽天ブックスの約180万の タイトルを検索しやすくする。 (2001.10.17 日経産業新聞)

アマゾンジャパン 通販商品を拡大 8,000種類を超えるソフト、機器など

全商品ともに配送料は無料で、ビジネスソフトなどは本体も最大30%割り引く。 (2001.10.11 日経産業新聞)

ブックワン 駅の売店やコンビニで書籍の受取りOK

午後4時までに注文すると在庫がある場合は翌日5時に受け取れる。送料は250円。 (2001.11.6 日経流通新聞)

犬猿の仲と言われる新刊書店と古書店が手を結ぶ 新刊書店に古書店同居

「ふるほん文庫やさん」が「ナガリ書店」内に古本文庫コーナーを出店する。 絶版、品切れ本だけを扱うため競合せず、新刊書店にも販売手数料が入る。 今後も積極展開する予定。  (2001.10.11 日経産業新聞)

トーハン 上尾市に建設していた雑誌発送専門の物流センターが稼動

150億円を投じ検品などの作業を大幅に自動化したのが特徴。仕入れから配送、返品 まで一元管理する雑誌のサプライチェーン・マネジメント(SCM)の体制が整った。 (2001.10.16 日経流通新聞)

栗田出版販売 「KINSパートV」の改良で80%の書店がネットへ移行

書誌検索・発注システム「KINSパートV」のネット導入で、栗田側の注文品処理が 速化、商品着荷のスピードもアップした。 (2001.10.11 新文化)

出版社が取次会社からの注文に何日で出荷しているか 85.6%が「3日以内」

「2日」は45.6%と最も多く、次いで「3日」が28.3%、「1日」が11.7%。 書協・雑協調査  (2001.10.25 新文化)

集英社 返品を認めた非再版書籍を刊行 売上に応じた報酬も支払う

同様な条件による試みは例がない。  (2001.11.5 日本経済新聞)

日本雑誌協会 出力した雑誌広告の色を標準化するキット開発

出力後の校正刷りの時間と経費を省くことで、デジタルデータによる原稿送稿が 容易になる。プリンター会社に販売を開始した。 (2001.10.17 日経産業新聞)

デジタルコンテンツ市場 2006年 5,530億円に 年平均60%以上で急成長

オンライン出版は260億円に拡大。野村総合研究所予測 (2001.11.9 日経産業新聞)

ネット世帯普及率 9月 前年同月比14.2ポイント増加し44.7%

昨年の9月は30.5%、今年の4月は38.8%だった。ビデオリサーチネットコム調査 (2001.10.12 日経産業新聞)

ネット接続携帯電話 10月末時点 4,618万1,900台 全体の7割を超えた

電気通信事業者協会、総務省調査  (2001.11.8 朝日新聞)

DSL加入数 10月末 92万1,867回線 11月中にも100万回線を突破しそう

1年前は3,171件。 総務省調査  (2001.10.11 朝日新聞)

ASP市場規模 2005年 850億円台 2000年は24億円 年平均4.1%増で成長

IDCジャパン予測  (2001.10.30 日経産業新聞)

パソコン出荷台数 2001年上半期 前年同期比89% 538万1,000台

出荷金額はPC本体のみで同80%の8,891億円、周辺機器込みで同82%の1兆2,454億円。 (社)電子情報技術産業協会調査 http://www.watch.impress.co.jp/pc/docs/article/20011031/jeita.htm  (2001.11.1 PC Watch)

【世 界】

オンラインショッピング売上高 10〜12月 前年同期比39%増の252億9,000万ドル

米同時テロによる消費者心理悪化の影響は限定的。 ガートナーG2予測 (2001.10.30 日経産業新聞)

パソコン出荷台数 2001年第3四半期 前年度比11.6%減の3,059万台

ベンダー別では、デル・コンピュータが首位を維持し、世界市場で423万2千台、 シェア13.8%。 ガートナー調査  (2001.10.20 PC Watch)

【米 国】

Amazon.com 本の中身を閲覧できるサービスを開始 25,000冊が対応

サービス名は「Look inside the Book」、目次やレビューなどの情報だけでなく、 本の表紙、裏表紙、目次などに加え、本によっては中の写真や最初の数ページなどを 画像として拡大して閲覧できる。 http://www.amazon.com/reading-room (2001.10.12 Internet Watch) 

BtoB市場規模 2006年 5兆4,000億ドルに下方修正

景気減速や企業投資の減少が原因。2005年に6兆3,000億ドルと予測していた。 ジュピター・メディア・メトリックス予測 (2001.10.16 日経産業新聞) 

消費者が受け取る広告メールの年間平均本数 2006年 3,846本に 昨年の3倍強

ジュピター・メディア・メトリックス予測 (2001.11.5 日経産業新聞)

ネット利用者数は64% 1994年の調査以来初めて横ばいに

2000年の調査以来変化していない。一年間変化がなかったのは初めて。 Harris Interactiv調査  (2001.11.9 Internet Watch)

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【連載】
「電子出版のデスクトップ」


- - -第26回:「誤字を作った話」- - -


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