Vol.56



JEPAキーパーソンズ・メッセージ!

業界を代表するJEPA理事の皆様から旬のメッセージをいただいておりましたこの
コーナーは、順番が一巡したため42号にて終了致しましたが、再開のご要望が多く
第45号から再びお届けしています。

“質の違う”電子出版


(株)有斐閣 電子メディア開発室次長
JEPA理事 鈴木道典


 本を読むところ、それはやはり通勤電車の中が一番多い。二番目は、朝、布団の中で
グズグズしながら。三番目が風呂に浸かってか(これには本を濡らさないための多少の
テクニック(?)がいる)。ちゃんと机に向かって本を読むことはとんと少なくなった。
読む本もこの頃は軽い内容の文庫本が中心だ。こんな怠惰な読書スタイルだが、だから
こそ軽くて小さくて、でも読みやすい、しかも廉価の電子書籍ビューアを手に入れたい
と思う。電車の中では、片手でページがめくれるというはかなりの使い勝手のよさだろう。

  しかし、やはりコンテンツだ。
 小生のような怠惰な読書人だけでなく、世の中には通勤時間を知識の習得やスキル・
アップのための読書に有効利用したいと思う人も多い(だろう)。これらの読者に有用
な専門的情報を提供する電子書籍コンテンツは、まだまだ少ないのが現状だ。先日の
JEPAの総会で理事の坂本さん(農文協)が「従来の紙を電子に置き換えただけで
ない、これまでと質の違う電子出版が必要だ」旨の発言をされていた。然り。現在の
電子出版は小説や漫画などのいわゆる“読む本”が主流。娯楽の対象が主で、紙を電子
媒体に置き換えたことによる利便性があればこれはこれで十分なのかもしれない。
“質の違い”の追求は、それほど必要ではないに違いない。“質の違う”電子出版は、
“調べる本”“学ぶ本”でこそ実現しやすいし、追求すべきであろう。

 小生の勤務する有斐閣は、大学のテキストを中心とした社会科学人文科学分野の専門
書の出版社である。“調べる本”“学ぶ本”(いわゆる学参物とは異なるが)がその
出版活動の中心で、“質の違う”電子出版がしやすい。というより、それをしなくては
ならない出版社だ。大学の教育現場では電子化された専門的情報が、質的に利便性の
高い電子出版物として求められ始めている。環境さえ整えば、きっと通勤電車の中でで
もそれらは求められるはずだ。

 社では、これに応えるための大掛かりな取り組みが動き始めている。「『知』の循環
システム」と称した書籍制作工程のIT化がそれで、制作した書籍・雑誌そのものを
コンテンツ・データベースと位置付け、この制作課程で生成する様々な情報を「共通
情報データベース」に統合・整理し、次なる書籍・雑誌の企画・制作の際の「編集支援
システム」として利用する仕組みの開発である。社会科学専門書とりわけ法律書におい
ては、社会の変化や制度の変更・改革に合わせた書籍の改訂が頻繁であり、その効率化
も背景にある。そして、このシステムで制作する書籍・雑誌のコンテンツをワンソース
・マルチユース展開しようというのが構想であり、それを支える技術にXMLを採用
した。この仕組みによって制作されたコンテンツは、当面、ほとんどは紙媒体に乗せて
提供する従来型の書籍として流通する。しかし、これは情報の多様な出口(=マルチ
ユース)の一つに過ぎない。ひとたび電子書籍などに姿を変えれば、「共通情報データ
ベース」の様々な情報が利用可能であり、かつ、書籍それぞれが必要に応じて相互に
関連付けられたきわめて利便性の高い情報として読者に提供できるものとなる。また、
必要な部分だけ入手したいという読者のニーズに応えた粒度の小さい情報の提供も可能
になる。“質の違う”電子出版を行うための書籍制作システムの変革が、今、動き始め
た。

 もう何年か後には、有機ELディスプレイで、長時間利用が可能で、フルカラーで
見やすく、携帯電話と融合した安価なPDAが出回り、通勤途上の読書は専らこれで、
ということになるかもしれない。その上、“質の違う”電子出版が盛んになれば、場所
を問わず“調べる”“学べる”環境が整うわけだ。有機ELは、蛍が発光する仕組みの
応用だという。そんなPDAを手に居眠りをしていると、“窓近く蛍飛び交い”では
なく、液晶ディスプレイ蛍光点滅し“怠り諌むる”時代が来るのかも……。
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今月の調査報告

【日 本】

書籍・雑誌推定販売額 2002年1月期 前年同期比0.4%増 3ケ月連続増

書籍が同0.1%増、雑誌は同0.6%増で、雑誌は4ケ月連続の増加。 返品率は、書籍が同1.5ポイント減の37.9%、雑誌は同0.1ポイント減の31.0%。 ((社)全国出版協会 出版科学研究所発行 出版月報2002年2月号)

BIGLOBE PDAユーザー向けの「eBOOK書店」開設 電子書籍販売を開始

同社は、昨年8月にPDA向けにコミックコンテンツの販売を始めている。 (2002.2.28 新文化)

幻冬社コミックス 連載中の漫画を無料で公開 販売促進につなげる狙い

無料会員制サイト「WEBバーズ&ルチル」の「立ち読みバーズ」で開始した。 http://www.gentosha.co.jp/comics/ (2002.2.26 日経産業新聞)

アマゾンジャパン 閲覧商品の一覧など新機能を相次ぎ追加し需要を喚起

追加したのは、「マイ・ページ」「リストマニア」「ウィッシュリスト」。 恋人や友人らに欲しい贈り物をねだれるのが「ウィッシュリスト」。 (2002.2.14 日経流通新聞)

ジェイブック 書籍・CD向け無料情報誌「フリーペーパーjbook」発行

掲載する商品に独自コードが付いていて、パソコンや携帯電話で番号を打ち込むと 購入や購入予約ができる。  (2002.3.7 日本経済新聞)

bk1 主要コンビニエンスストアで代金後払いサービス開始 ネット書店業界初

クレジットカードを所持していないユーザーでも利用でき、代引き手数料を 払わなくても済む。 (2002.2.28 新文化)

楽天ブックス 送料無料を打ち切り 購入価格1,500円未満は国内一律210円

他のオンライン書店より廉価に設定した。(2002.3.7 新文化)

共有書店マスタ改訂 EDI対応型へ 5月1日から新マスタの運用開始

改訂の大きなポイントの1つは、取次情報において、1書店で9つの取次情報しか 登録できなかった制約を無制限にしたこと。  (2002.2.21 新文化)

丸善 2004年秋に東京駅前に1,630坪の本店開店 「本のソムリエ」も配置予定

(2002.2.14 新文化)

総務省 通信衛星を利用した超高速ネットサービス 2010年実用化へ

2003年に通信衛星の開発に着手、2005年に試験衛星を打ち上げる予定。 地域間の情報格差の解消を狙う。  (2002.2.13 読売新聞)

国内IT投資の市場規模 2002年 前年比0.1%増の12兆3,968億円 ほぼ横ばい

需要の本格回復は今年後半から2003年。 IDCジャパン調査  (2002.2.19 日本経済新聞)

ブロードバンドインターネット市場 2001年 2,125億円規模

ブロードバンドインターネット契約数は285万1,000回線、 市場規模では前年比235.9%増、契約回線数では348.5%増。 さらに2002年には750万3,000回線、市場規模は6,430億円に達する。 2005年には、ブロードバンドインターネットコンテンツ市場は 1兆2,115億円規模に拡大。 イーシーリサーチ(ECR)調査 (2002.2.19 Internet Watch)

国内BtoB市場 2001年は34兆円 2006年には125兆4,300億円規模に

経済産業省、電子商取引推進協議会(ECOM)、NTTデータ経営研究所共同調査 http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0002379/ (2002.2.19 Internet Watch)

インターネット広告費 2001年 伸びにブレーキ

2001年の日本の総広告費は、前年比99.1%の6兆580億円、2年ぶりに減少した。 インターネット広告費は、前年比124.6%、735億円と伸びているが、 前年までは約2倍のペースで急拡大している。  電通調査 (2002.2.19 Internet Watch)

ADSL利用者 1月末 178万人 昨年比26万人増 2001年度中に200万人突破

総務省調査 (2002.2.9 日本経済新聞)

携帯電話を使ったネット接続 2月末 加入台数は初めて5,000万台を超えた

PHSを合わせた携帯電話の累計加入台数は、前月比0.6%増の7,367万8,200台。 携帯電話各社調査 (2002.3.8 日本経済新聞)

インフォシーク 月間検索キーワードランキング 1月 1位は「無料」

http://www.infoseek.co.jp/ (2002.2.15 Internet Watch)

【世 界】

日米欧、中国など7カ国と民間団体など ネット通販の国際的認定制度スタートへ

世界共通安全マークの使用を認め、同時にトラブルなどを素早く解決する仕組みを つくる。 (2002.3.6 日本経済新聞)

インターネット人口 2001年第4四半期 約5億人に

家庭からのインターネット利用者が第3四半期から2,400万人増加し、 第4四半期には4億9,800万人に達した。 米Nielsen//NetRatings調査 (2002.3.8 Internet Watch)

モバイルコマース市場 2001年 1,100億ドル規模に

Gartner調査 (2002.3.5 Internet Watch)

携帯情報端末の出荷台数 2001年 前年比18%増の1,310万台 売上は鈍化

出荷台数の伸び率は前年を大きく下回った。 ガートナー・データクエスト調査 (2002.2.21 日経産業新聞)

【米 国】

無線データ通信利用 2006年 3,900万人に ビジネス用途を中心に進む

InStat予測 (2002.3.7 Internet Watch)

ネットを介したビデオ・オン・デマンドの本格始動は2005年以降になる見通し

家庭のブロードバンド接続の普及が進まない上、配信側のシステムの高度化に あと3年かかると見られるため。 ガートナーG2予測 (2002.2.13 日経産業新聞)

ネット利用時間 2002年1月 ブロードバンドがダイヤルアップを初めて上回る

ブロードバンドの利用時間は11億9,000万時間で、全体の51%。前年同月のブロード バンド利用時間は7億2,700万時間で、全体の38%だったが、1年間で64%の急増。 米Nielsen//NetRatings調査 (2002.3.7 Internet Watch)

電子商取引の小売売上高 2001年10〜12月 100億4.300万ドル 前期比34.4%増

99年10〜12月の統計開始以来、最高の水準。 商務省調査 (2002.2.22 日本経済新聞)

ネット広告 バナー広告に変わって、摩天楼型や正方形など大型が人気

大型広告の表示回数は、前年4月の20億回から185%増の57億回へ急増、 中でも縦 約16センチ、横 約3〜4センチの「スカイクレイパー(摩天楼)」 と呼ばれる広告の伸びは大きく436%増。 ジュピター・メディア・メトリックス調査 (2002.3.8 日経産業新聞)

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【連載】
「電子出版のデスクトップ」


- - -第30回:「発信者教育」- - -


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