電子辞書

2015.07.27

電子辞書とは

電子化された辞書や百科事典などのデータを検索・閲覧するための電子機器、またはソフトウェア。ふつう、ディスプレーとキーボードを備えた携帯型の電子機器を指す。パソコンやモバイル端末で利用するアプリケーションソフト、またはインターネット上で利用できるサービスを含む場合もある。デジタル辞書。

 

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歴 史

パーソナルユースとしての電子辞書の歴史は意外に古い。1979年の「ポケット電訳機IQ-3000」(シャープ)を嚆矢(こうし)とし、電卓型・CD-ROMなどを経て、20世紀末には現在につながるユーザビリティーと市場の基礎が完成している。

上述の「IQ-3000」の後、1980年代は各社から電卓型・カード型の電子辞書が相次いで発売された。これらは数千語程度を収録する“単語帳”レベルのものが大半であったが、1992年に研究社『新英和・和英中辞典』を丸ごと収録した「IC辞書 TR-700」(セイコーインスツル)が発売され、電子辞書はフルコンテンツ時代に入った。1990年代後半にはクラムシェル型の電子辞書が登場し、現在までその基本的デザインが踏襲されている。今世紀に入ってからは、収録コンテンツ数やマルチメディア対応を中心とした機能拡張が競われるようになり、ユーザー層も小学生からシニア世代に至るまで拡大することになった。

辞書単体・フルコンテンツベースでの商品化は、1980年代半ばから90年代半ばにかけて、CD-ROMを媒体として進められた。この時期、携帯型電子辞書はメモリ容量の制限から単語帳・ミニ辞典程度の情報しか扱えなかったのに対し、CD-ROMは600MB超の大容量を有し、岩波書店『広辞苑』の全文情報も1枚のCD-ROMに収めることができた。また、EPWING(岩波書店・富士通など5社)や電子ブック(ソニー)といった統一フォーマットが登場し、多くの辞書タイトルが発売されたことで、各種CD-ROM辞書を“入れ替えて”使えるようになり、市場も拡大した。

携帯型電子辞書やCD-ROM以外でも、インターネットの辞書検索サービスやスマートフォンのダウンロードアプリなど、デジタル辞書を検索利用できる環境は今でも広がり続けている。

 

特 長

電子辞書の最大の特長はスピーディな検索である。調べたい言葉を入力すれば、凶器にもなりそうな分厚い大辞典でも、ほぼ瞬時にその言葉の解説本文にたどりつくことができる。

見出し語を対象とした検索方法には、通常用いられる前方一致(または完全一致検索)のほかに、「“法則”で終わる見出し語を探す」(後方一致検索)、「先頭でも途中でも末尾でもいいので、とにかく“火山”を含む見出し語をピックアップしたい」(部分一致検索)といったバリエーションがある。

さらに、目次や索引のように階層構造をたどっていく(選択肢を選び進めていく)メニュー検索、特定のカテゴリーに属するキーワードまたは分類名で絞り込む複合検索など、検索ニーズに応じた多様な検索方法が用意されている。複数の辞書を一括して調べる串刺し検索、用例文のみを対象とする用例検索、複数形・活用形などでも検索できる変化形検索(あいまい検索)なども便利な機能である。

検索機能以外に目を転じると、本文中の「⇒○○」や「○○を見よ」といった記載について、書籍であればページをめくって探すところを、ワンクリックで(または参照ボタンを押して)自動的に指定された項目にジャンプできる参照機能も便利である。電子辞書は、紙の辞書と比較して一覧性に乏しく言葉の広がりに欠けるといったマイナス面が指摘されることが多いが、この参照機能はその欠点を補って余りある“言葉のつながり”を学ぶことのできる機能だと言える。そのほかにも、文字サイズの変更、単語や会話文のネイティブ発音、動画の再生など、多くの補助機能が電子辞書には付加されている。

機能面以外の特長としては、書籍版より内容更新が早いことが挙げられる。デジタル版では、書籍版誤植の修正のほか、時事の変動に基づく内容修正や新語の追加などが随時行われているものがあり、ほとんどの場合、書籍版よりも早く商品・サービスに反映されている。

 

課 題

近年、出版にかかわるビジネス環境は厳しさを増しており、辞書出版もまた同様である。パソコンやモバイル端末での辞書のバンドル、電子辞書専用端末への辞書データの提供は、一定の売り上げを出版社にもたらしたが、コンテンツ単体としての価値の減少とデジタル辞書分野での寡占を引き起こした。また、ウェブポータルサイトでの辞書サービスは、サイト運営者からロイヤルティ収入を前提としたものであったが、ネット利用者の「インターネット上の情報はタダ」という感覚に拍車をかける結果となり、辞書ユーザーの“正確・適切・有意義な”情報への対価意識を大きく減ずることとなってしまった。

一方で、CD-ROMやダウンロードを通じての、“比較的適切な価格設定”による辞書コンテンツの販売も、順風満帆というわけではない。新機種の発売や頻繁なOS更新への対応コストは利益を圧迫し、これをアプリ更新(内容増補も含む)時に回収する環境を作らなかったことが(仕組み上は可能)、状況をより悪化させている。

ウィキペディアを例に挙げるまでもなく、インターネットの世界には玉石混淆の情報があふれている。
そのような時代であるからこそ、入念に議論検討された編集方針に従って専門家が執筆し、プロの編集者が適切に編集を施した、正確で有意義なコンテンツが、価値あるものだという公知と理解を取り戻さなければならない。今、電子辞書ビジネスに求められるものは、これに尽きる。

 

[永田 健児/株式会社ディジタルアシスト/20150713]