キーワード設定の現場から(7)

ちょっと一杯!

 日本語の複雑さにキーワードの設定では悩みは尽きない。そういった話を中心に書いてきたが、今回は視点を変えてキーワードの選択、つまりどんなキーワードを採るかという話。
 いわゆる本文キーワード、つまり本文の中に含まれている語句をキーワードとして設定しようという場面では何をキーワードとして採るかが常に問題となる。
 通常の場合、検索キーワードは名詞であるのが普通だろう。会社名、植物の名前、事件の名前…いろいろのキーワードが考えられるが、どちらにしても名詞が原則だ。
 動詞や形容詞、副詞などはほとんどキーワードにならない。「家へ帰る」は「帰宅」、「戦う」は「戦い」「戦闘」、と名詞化してキーワードとなる。
 でも、名詞以外も立派なキーワードになる場合もある。たとえば外来語辞典などでは「ビッグ」ということばには「大きい」という形容詞がその項目のキーワードになってくる。
 結局何がキーワードになるのかは内容次第、こんな内容ならこんなキーワードで引かれるだろうという設定者のセンスに頼ることになる。このキーワードでこんな項目が検索ができたよという読者の喜びの声を想像しながらの作業だ。
 ところで最近、面白いジャンルの電子ブックが登場した。俵万智さんの短歌集を電子ブック化した『恋歌』(河出書房新社)、それに『世界ことわざ大事典』(大修館)だ。短歌やことわざのデータベースで採られるキーワードには少々面白いものが登場しそうだ。
 残念なことに『恋歌』のほうにはフリータームキーワードでの検索がない。そこで、もし自分がキーワードを設定するとしたらどうなるか考えてみた。

「家族にはアルバムがあるということのだからなんなのと言えない重み」

 これは歌集『チョコレート革命』の中の歌だが、この歌では「家族」「アルバム」「重み」という名詞がキーワードになるだろう。これはこれで基本なのだが、私がこの歌で好きな部分は「だからなんなの」というフレーズだ。
 不倫相手の男がふと口にした「アルバム」ということばが引き起こす心の葛藤。反発?納得?悲しさ?…。そういった心の動きをダイナミックに表現したのが「だからなんなの」だろう。
 あとの句は忘れてしまって「だからなんなの」が頭の中に残っている場合もある。「だからなんなの」は立派なキーワードだと思うのだが…。
 さて次の『ことわざ大辞典』の方は実際の作業者が悩んだ実例だ。

「仕事は兎ではない,逃げはしない 」
というポーランドのことわざの解説に
「だから,ちょっと一杯やろうではないか,といったときに用いる。」
という解説がある。
 解説中のキーワードは何を採るべきだろうか?ここで「一杯」という名詞をとってもキーワードにはならない。この解説文のキーワードは「ちょっと一杯」という句なのである。
 植木等のスーダラ節を持ち出すまでもなく、「ちょっと一杯」という句はサラリーマン人生のもっとも重要なキーワードであろう。
 キーワードの設定とは実に人間的な作業なのだ。

『情報管理』Vol.40 No.9 Dec.1997 より転載


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