電子出版と著作権

2000.01.01

NECインターチャネル  伊東 進

 昨年、本協会の“デジタル情報ビジネス研究委員会(略称デジビジ)”で出版物の 著作権と違法コピーが話題になり、“電子透かし(Water Mark)”が議論された。 電子出版物を作り、販売する側からすると、違法コピーは収入減となり、特に制作に 費用のかかった高額商品では打撃が大きい。違法コピーを間接的に押さえ込む手段と して、“電子透かし”が提案され、一部で実際に活用され始めている。 これは、原画にコンテンツの由来や著作権情報を僅かに混入させ、一見何も入っていな いようであるが、特別のフィルター処理を施すとこれらの情報が浮かび上がってきて、 それが原画の著作権者の証明をするもので、著作権者の許可を得ずに出回った場合 違法と証明されることになる。 この“電子透かし”技術に関して、動画と音楽についてはほぼ国際規格が確定され、 著作権者の情報を埋め込むハードやソフトが出来つつある。しかし、静止画に関しては 未だ決定打が無く、目下検討が続行されている。
 著作権を主張する所以は、乱暴な言い方をすれば、適切な対価を主張するお金の面 と、著作者としてのオリジナリティ主張の面とになろう。 お金の面は、適切な対価が関係者に戻る仕組みがあれば、コピーは自由と言っても良く なる。例えば、百科事典のブリタニカは内容をホームページで公開し、そこで同時に 見せる広告で収入を得ることにした。これでどれ位の収入になるのか知らないが、 大変興味のある方法である。 また、オリジナリティの面は、常に出典引用を義務付けることにすれば、OKとなる。 学術文献では、必ず先駆者の仕事を引用することが要請され、レフェリーに引用が 適切でないと内容が如何に独創性に満ちていても、採択を拒絶されることが多い。 但し、レフェリーも関連分野の全ての文献に目を通し内容を覚えているとは限らない ので、採択された論文が後で問題になることもある。最近では高温超伝導でノーベル賞 を貰った人達の論文に、先駆者の一人として同じ材料で金属的な伝導を示すとして報告 した日本の研究者の論文が引用されていなかったとして問題になった。 “電子透かし”は画像情報に適しており、テキスト情報には向かないので、テキスト 情報の違法コピーには、似ているかどうかと言う曖昧な判断基準を用いることになる。
 仮に電子出版物がテキスト情報より、画像や音声情報に価値があったとしよう。 電子出版物を集めた国会図書館関西分室では、ネットワークによるアクセスも当然 受け付けられるだろうから、違法コピーが問題になると思われる。 出版者には納品義務が課せられると聞いているが、それならば是非ネットワークに 乗せる段階で“電子透かし”を入れてもらいたい。そして違法コピーを摘発すると 共に、コンテンツの内容とアクセス回数に応じて料金を徴収し、その大部分を著作権者 に戻してもらいたい。そうすれば皆喜んで納品するのではないか? そのことによって、数が出なくても貴重な内容の著作物も出版されよう。国会図書館の ホームページに有料の広告を載せても良い。 但し、オリジナリティの面を保証するため、データを引き出した人は勝手に使っても 良いが必ず出典を明記する義務を負うことにする。もし、出典明記が無ければ法外な 罰金が課せられるようにし、罰金の一部が著作権者に戻るようにすれば、皆ハッピーに なるのではないか?これは言わば、国会図書館が国立電子出版物販売店に変身すること である。
 これは新しいミレニアムを迎えるのに、y2kのために会社で年越し徹夜した私の 初夢ならぬ妄想。ご消去下さい。