「今昔文字鏡」をめぐって」

2000.03.01

紀伊國屋書店  奈尾 知章

 株式会社エーアイ・ネットの社長古家時雄氏の依頼を受け、紀伊國屋書店が最初に 「今昔文字鏡」の市販版を発行したのが1997年6月のことで、Ver.1.0 はビット マップ版(24ドットビットマップ画像のみ)であった。その後エーアイ・ネット社と 文字鏡研究会の大変な尽力でトゥルータイプ版のフォント製作をすすめられ、約1年半 という驚異的なスピードで1999年1月に Ver.2.0 の「単漢字8万字TTF版」の 刊行にこぎつけた。
 それから1年あまり「今昔文字鏡」は多漢字処理の切り札的存在ととして、関連の研究 者をはじめ印刷、出版、データ処理の業界に広く認知されるようになってきた。
 そもそも「今昔文字鏡」は古家氏という在野の開発製作者がいなければこの世に存在し なかったもので、また古家氏の心意気に感じてボランティアで活動されている会長の 石川忠久先生をはじめとする文字鏡研究会の諸先生方のご支援がなければここまでの 発展はなくまさに国家プロジェクトに匹敵する事業といっても過言ではない。
 電子出版を共通のビジネス目標としているわれわれは、「今昔文字鏡」がなければ今でも 外字処理の標準化の課題のまえに立ち尽くしていたかもしれないのだ。古い中国の諺に
 「井戸の水を飲む者はその井戸を掘った人の恩を忘れてはならない」
というのがあるが、われわれは、「今昔文字鏡」開発者への敬意と感謝を忘れてはなら ないと思う。
 「今昔文字鏡」の最大の特徴は一定のエヴィデンスと手続きを踏めば、未収録の漢字を 追加登録できることにある。利用者はこれでわずらわしい「外字作成」の業務から解放 されるばかりではなく、研究者のチェックのはいった漢字が使えるという安心感が得ら れるのである。
 また「今昔文字鏡」のフォントはWEB上で公開されており、これからますますいろいろ な人がこれを活用することになろう。これがまさにディジタル環境での多漢字処理の共有 基盤となる所以である。そして「今昔文字鏡」は日本国内はもとよりアジアの漢字文化圏、 さらには世界中の利用者が、さまざまなシステム環境やOS環境の制約を越えて利用でき るようになることが望まれていよう。
 幸い電子出版協会のXMLに準拠する電子出版交換フォーマットJepaXにおいても 外字対応で「文字鏡」を推奨いただいたのをはじめ、最近既存の個別外字セットを 「文字鏡ナンバー」でリンクし、データの共有化を図ろうとする動きが急速に広がりつつ ある。検索ソフトの販売を担当している紀伊國屋書店としても「今昔文字鏡」をさらに バックアップしていきたいと考えている。