大学教育改革には電子出版が役に立つ。学生には欧米並みに沢山の学術書を読ませたい。

2012.06.01

JEPA 事務局  三瓶 徹

 勉強などしなくても、協調性と根性さえあれば企業戦士になれる良き時代は過ぎ去った。国の産業競争力強化、それを支える大学の国際競争力強化、そのための授業の質の向上が謳われ、改革が進められている。分野にもよるが、米国では学生に年間100冊から200冊の専門書を読ませた上で、授業では専ら判断力を磨く。一方、日本では一部の学生を除き本を読んでいない。
 日本の学術、技術、産業の競争力強化のために、大学の先生も良い本を書き、良い授業をし、学生には欧米並みに沢山の学術書を読ませてあげたい。
 日本の大学図書館には、延べ2億冊の日本語の本がある。明治になって140年、多くの著者の努力の結果だ。しかし日本語の学術書の電子化が全く進んでいない。一方、電子化が進んでいる英語の学術雑誌や専門書は、日本の大学でも読めるので大変便利だ。ところが日本語では、最近発行された学術雑誌の一部や論文を除き、電子では読めない。確かに、日本語がガラパゴスだ、という意見もある。しかし先人の知恵が詰まった母国語の本があるのに勿体ない話だ。
 ただ、どんな本でも闇雲に電子化すれば良いわけではない。単なるアーカイブなら国会図書館に任せればよい。大学図書館は主体性を持って教育内容に踏み込み、先生方と一緒になって、授業で使いたい出版物を選別し、優先順序を付けて公表する。そんな本なら出版社も電子化を優先するに違いない。そして、これらの本は定額読み放題サービスにしてもらう。学生の負担も小さくなるので先生方も欧米並みに大量の本を授業で使うことができる。定額読み放題サービスは教育には必須である。もし先生方のニーズが強いのに出版社が電子化も紙の重版も躊躇する場合には、出版社と著者から無償配信の許諾を得て、産業界などの支援で電子化すれば、その本も再び役に立つ。
 一方、ボーンデジタルが進む。授業の講義録や、授業そのものも公開する動きもあり、語学などはeラーニングも併用され、工学系では電子教材の共同制作や共有化の例もある。そして大学の教育改革と伴に、学術雑誌を発行する学術団体や、学術出版社も変わろうとしている。